建築専門雑誌『日経アーキテクチュア』の連載「建築巡礼」が2025年1月9日号で20周年を迎えた。同号には、「連載20年、まだ“夢の途中”」と題して、20年を振り返る特別編を宮沢が書いた。記事というより、ほぼ漫画だ。

連載10年目のときには、それほど祝うムードもなかったのだが、「20年続いている」となると人は褒めてくれる。実はちょうど2年前にも、日本建築学会の『建築雑誌』から依頼があって、「連載が18年続いた理由」について書いたことがある。学会の会員以外の人は見ていないと思うので、その原稿を転載する(後で赤を入れた気がするので、最終版とはちょっと違っているかも)。
「建築巡礼」の18年

日経アーキテクチュアの連載「建築巡礼」は2005年1月から始まった。もうすぐ18年となる。連載をまとめた書籍がこれまでに10冊ほど出ており※1、これらは建築の専門家だけでなく、一般の人にも読まれている。
「建築巡礼」は、国内の名建築の現状を、建築ジャーナリストの磯達雄と筆者(宮沢洋)がリポートする企画である。磯達雄が文章と写真を、筆者がイラストを担当している。
この10年ほど、建築を楽しむ一般の人は目に見えて増えた。その理由は本特集で他の方が分析してくれるのを楽しみにしているが、もし「建築巡礼」がそれに貢献しているとしたならば、それは2つの理由からだと思う。それは、連載が長く続いている理由とも重なる。
1つは、2人が全く異なる視点で書いていること。筆者はもともと建築学科出身ではなく、正規の建築史教育を受けていない。なので、見た印象や疑問を素直にイラストに描き込む。一方の磯は、歴史上の評価に軸足を置きながらも、得意のSFや雑学へと文章を展開する。一粒で二度おいしい。
書籍などで何本かまとめて読むと、「ああ、建築ってこんなに自由に想像していいんだ」という安心感を抱かせる。特に、一般の人にとっては、建築に踏み出すハードルを下げる効果があると思う。
実は筆者は、目的地に行く前にその施設の資料をあまり読み込まないようにしている。読むと「書くことを決めて見てしまう」からだ。磯は見る前から周到に戦略を立てていると思うので、その辺りの見方の違いも読者に伝わるのかもしれない。
30年前、建築情報に感じた“冷たさ”
理由のもう1つは、イラスト内に宮沢や磯が登場すること。イラストのマジックともいえるものだが、イラスト中の2人が「へーっ」と「ひゃー」とかつぶやくことで、雲の上の名建築がぐんと身近になる。
これは、筆者の戦略である。自分が建築雑誌に配属されたころ(1990年)、建築情報全般に感じた“冷たさ”を逆方向に振り向けたものだ。
かつての建築情報に冷たさを感じていたのは筆者だけでなかったのだろう。さまざまな場で柔らかい建築発信が増えた結果、建築のすそ野はジワッと広がった。
「柔らかい建築発信」という意味で最近、筆者がすごく気になるのは、文筆家の甲斐みのりさんだ。甲斐さんは、「おいしいパン」や「かわいい雑貨」と同じ目線で建築の魅力を語る。この語り口は筆者にはとても真似ができない。
先日、あるイベントで甲斐さんと話をした。建築の面白がり方は人それぞれでいい。建築を面白がる人が増えれば、建築の寿命が延びる──。そんな想いで一致した。

※1 「建築巡礼」の書籍は発刊順に『昭和モダン建築巡礼 西日本編』、『昭和モダン建築巡礼 東日本編』、『ポストモダン建築巡礼』、『菊竹清訓巡礼』、『日本遺産巡礼 西日本30』『日本遺産巡礼 東日本30』、『プレモダン建築巡礼1868-1942』『昭和モダン建築巡礼 完全版1945-64』、『昭和モダン建築巡礼 完全版1965-75』。『ポストモダン建築巡礼19675-95』いずれも宮沢洋との共著
ちょっと偉そうな感じもするが、まずまずの分析だ。「偉そうな」と感じるのは、これを読んでいる人の多くは実際にはそれほど能動的ではなくて、「長年続いているものがなくなるのは不安」という惰性で目を通していると思われるからだ。まあ、それでも、そう感じさせるまで続いたことは褒めたい。
長寿連載というと、思い浮かぶのは「サザエさん」だ。アニメはまだ続いているが、もともとの4コマ連載の期間については朝日新聞のサイトにこう書かれていた。「『サザエさん』は、1946年から『夕刊フクニチ』『新夕刊』『夕刊朝日新聞』を経て、1951年から『朝日新聞』朝刊で1974年まで連載されました(途中何度か休載)」。
そうか、40年くらい続いたのかと思ったら28年なのか。あと8年ならできるかもしれない。クオリティーは遠く及ばないけれど、長さならば…。これからも健康に気をつけて、磯さんとともに頑張ります!(宮沢洋)
