小さな写真でも伝わる衝撃、動物と古民家と「2m26 Atelier」──みんなの建築大賞2025ベスト10から①

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 非・建築出身の筆者(宮沢)が「建築って面白い」と感じることの1つに、「感動が規模とは比例しない」ということがある。大きくて感動するものもあれば、小さくてもそれ以上に心を動かされることもある。その逆もある。

 その感動の“予感”が小さな写真からも読み取れる、という点も面白い。それが、どこの誰だか知らぬ人の設計だったとしても、その予感はビビビッと写真から伝わる。

左がアトリエ棟で、右が母屋。どちらも既存建物のリノベーション(写真:特記以外は宮沢洋)

■2m26 Atelier
所在地:京都府京都市/発注者・設計者・施工者:2m26(deuxmetresvingtsix/メラニー・へレスバック、セバスチャン・ルノー)/構造:木造/階数:地上2階(アトリエ)/施工期間:2021年5月~/主な雑誌掲載:新建築 住宅特集2024年10月号

 今年も1月27日から「みんなの建築大賞」の投票が始まった。投票締め切りは2月5まで。ノミネート作である「この建築がすごいベスト10」のうち半分ほどは本サイトですでにリポートしている。つまり、筆者は見ていた。残り半分の中には、知っていて行けなかったものもあれば、推薦委員の選定会議(1月14日に実施)で初めて知ったものもある。後者、推薦会議の場で、たった4枚の写真を見て「これは実物を見なくちゃ」と、居ても立っても居られず京都の山奥まで行ってきたのが「2m26 Atelier」である。

羊小屋。筆者の心に刺さった1枚(写真:平塚桂)

 山奥というのは東京モノの筆者の印象であって、京都中心部から車で1時間ほど北に向かった京北の小塩町という山間の村だ。路線バスのバス停も近く、意外に便がいい。

 設計者はセバスチャン・ルノー氏と、メラニー・へレスバック氏による2m26。アトリエ兼住宅だ。2人はともにフランス出身。

母屋の前で。左がメラニー・へレスバック氏、右がセバスチャン・ルノー氏

 「たった4枚の写真で見に行こうと思った」と書いたが、正確には、推薦委員の平塚桂さんのコメントも心に刺さった。

「改修民家と動物のための多彩な小屋はオール自主施工。茅葺き職人や地域住民に学んだ伝統的手法を咀嚼。丸太や茅など素材は主に地域で入手。伝統知に向き合った実践の究極形。それがフランス出身の夫妻によるという衝撃。」(平塚桂)

 素晴らしい。「90字以内」という推薦時の字数制限の中で、情報に全く無駄がない。これで言い尽くされてるようにも思うが、筆者は補足の意味でこういうコメントを書いた。

「環境共生&セルフビルドという言葉から想像するイメージをことごとく打ち砕かれる。現代的でカジュアルなデザインと、宮大工のような施工精度。そこでの生活は、決して教条的ではなく、とにかく楽しそう。」(宮沢洋)

 自画自賛だが、これはこれでうまくまとまった。あとは、写真を見ていただければ伝わるだろう。

斜面の上を通る公道(バス通り)から見下ろす
この地に拠点を移して、最初につくったのがこのニワトリ小屋。神話の建物のよう。ニワトリは夕方になると、自分でブリッジを歩いて家に戻るそう
母屋はトタン屋根が架かっていたが、2024年の夏に茅葺きにした。近くの茅葺き職人に教わりながら材料の調達や葺き作業を進めた
茅葺きって葺いたばかりだとこんなにきれいなのか。散髪したてのよう
母屋のこの和室は、筆者が訪問した前の日(2025年1月19日)にできたばかりとのこと
アトリエ棟の入り口。逆L字の柱(?)は既存ものを生かし、傷んでいた部分は補強
アトリエ棟の2階
2階に上がる箱階段。もちろん2人の自作
アトリエ棟の開口部。斜めの既存部材にぴったり合うように新しい木枠がつくられている。ここに限らず、施工精度がすごい
セバスチャン・ルノー氏が大工道具を見せてくれた
アトリエ棟の1階の屋根は、トタンをはがしたところ檜皮葺きだったことが分かり、復元。猫はこの素材が好きらしく、ずっとぺろぺろ舐めていた
羊小屋は、自分たちで屋根を葺いた

 第2回となる今回の「みんなの建築大賞」は、投票の参考として、ノミネート建築の設計者によるライブ解説の場を設ける(オンライン配信)。開催日時は2月1日(土)19:00~20:30。2m26からは、日本語の上手なメラニー・へレスバック氏が出演して、プレゼンしてくれる予定だ。施設の規模順(小さい順)にしたので、たぶん早目の登場となる。

 無料で登録も不要なので、2月1日(土)19:00になったら下記をクリックしてほしい。

YouTubeURL→https://www.youtube.com/live/XieqK9uJVRM

 プレゼンを見る前の予備知識として、広島市現代美術館の「note」で2m26の2人のインタビューが読める。同館が2021年に休館中だった期間のために制作した「ツールボックス」に関するものだ。(こちらの記事

 その記事の冒頭にこんなコメントが…。「日本に行こうと思った理由は色々ありますが、一番は日本の工芸と温泉に興味があったからです(笑)」。しまった、2時間近く2人と話をしたのに、「温泉」という盛り上がりワードがあったとは…。今度、じっくり「湯けむり建築」の話もしましょう!(宮沢洋)

■投票はこちら→XInstagramGoogleフォーム

春~秋に訪れたら、さらに気持ちよさそう…

■他のノミネート作はこちら