大阪市東住吉区の長居植物園内に昨年11月に完成した「グラウンディングツリー」を見てきた。設計は建築家で滋賀県立大学教授の芦澤竜一氏だ。

ヤンマーホールディングスのグループ会社であるわくわくパーククリエイト株式会社が、長居植物園の50周年を記念し、「自然と人がつながる共生のシンボル」として建設した。わくわくパーククリエイトは2021年から2041年までの20年間、植物園のある長居公園全体を指定管理事業者として管理・運営している。
「グラウンディングツリー」があるのは、長居植物園の「里山広場」。園内の案内板に「グラウンディングツリー」と書かれていないので少し不安になるが、大池の北東側だ。




池を越えると、木々に埋もれるようにしてそれはあった。こういう施設は、オープンしてしばらくすると上れなくなっていることがあるのだが、ここは本当に上れる。やった!

では、上りながら公式サイトの説明を引用する(太字部)。
<グラウンディングツリーについて>
「里山ひろば」の一角には、グラウンディングツリーが設置されています。
「グラウンディング」とは、大地とつながることを意味しています。
グラウンディングツリーは、大阪市という都会にありながら豊かな緑を有する長居植物園に、「自然と人がつながる共生のシンボル」としてつくられました。

自然エネルギーを活用する植物のメカニズムを知り、人が植物とどのように関わっていくべきかを学ぶ施設を目ざし、植物園の景観になじむように、樹木が植樹されるようなイメージで計画されました。
グラウンディングツリーはツル植物をイメージさせる9本の水が通る柱と、大地とつながる2本の大柱、植物が育つ葉を模した9つの床、水を溜めておく3つのタンクで構成されています。


9本の柱のうち、3本は雨水を集めるためのラッパのような形の集水器が、2本はタンクから水を吸い上げる動力となる風車がついており、3本はオーバーフローした水の通り道、残る1本は上水と貯水タンクをつなぐ柱です。2本の大柱の中は全て土がはいっていて、植栽した高木の苗の根が伸びるように設計されています。

9つの床のうち、下から6つ目までは登ることができます。6つの床には日照などの条件を考慮し、大阪府南部および大和川流域の自然植生の要素をもった植物を選び、テーマを設定して植栽しています。
ふたつの大柱の中は全て土がはいっていて、植栽した高木の苗の根が伸びるように設計されています。


「バイオミメティクス」とは、「生物の形や機能、行動や生産のしくみを研究して、新しい技術開発やものづくりに生かす科学技術」のことを言います。
たとえば、ヨーグルトの蓋にヨーグルトがくっついてしまわないようにするために、ハスの葉の表面にナノレベルのデコボコがあることをヒントにして作られた、というようなことです。

グラウンディングツリーは、植物のしくみを構造に生かして設計されました。
■樹皮
グラウンディングツリーは鉄で出来ています。時間を経ると徐々に色が変わっていきますが、竣工当初は赤っぽい色をしています。サビているのか?と思われる人もいるでしょう。
柱の素材は、樹皮が、外敵の侵入の防止、乾燥の防止、温度変化の緩和の役割を持っていることをヒントに、“コルテン鋼”という特殊な加工を施した鉄を利用しています。
“コルテン鋼”は、表面にサビを発生させることで、サビ被膜が鋼材をコーティングし、内部までの腐食を防ぐ性質のものです。最終的には黒っぽい色に落ち着いてきます。サビ化が落ち着くまでは触るとサビがつくことがありますので注意してください。

■蔦(つた)構造
グラウンディングツリーは、1本の樹木をイメージして計画されましたが、その構造は高木のそれではなく、蔦(つた)植物を模しています。複雑な曲線によって建築を支える構造となっています。計算されつくした曲線を描いた柱が、自然が生み出す芸術のような美しい形態となって、建築物を支えています。

■葉・毛細管現象
葉を模した9つの床には植物が育ち、生命が息づくモニュメントとなっています。
おわん型をした床は、底面に水を溜めるようになっていて、毛細管現象を利用したしくみで、その上に敷かれた土へ水分を届けています。
毛細管現象とは、タオルを水につけると水面よりも高く水があがってくるような現象のことで、このしくみを利用して「底面潅水(または給水)プランター」として市販されているものと、原理は同じです。
人の手で水やりをしなくても、適度な湿り気を与えられるように設計されました。
それぞれの床で溜められる水は、一定量を超えると、柱を通って下層の床に届けられ、最後は土中にあるタンクに貯水されます。タンクの水がいっぱいになれば、外部へ排出されるようになっていて、雨が降るたびに流動し、水が腐ることはありません。
■維管束(いかんそく)
維管束(いかんそく)とは、植物の根から茎を通って葉まで至る管のことです。
根から水分や土中の栄養を吸い上げ、また、葉から光合成してできた養分を、植物全体に届ける役割を果たしています。
構造を支える蔦のような柱の中に、この維管束を模したパイプが通っています。降った雨は柱の先端につけられた集水器から柱を通って、順番に床に水を届けながら、最後は土中のタンクに集められ、風が吹けば、柱に取り付けられた風車の力で、タンクから上部の葉を模した床に水を届けます。

<見て、触って、グラウンディングツリーを体験してみる>
グラウンディングツリーには、柱の中を動く水や床の下に溜められた水をのぞく装置がついています。
床5を貫通する柱のひとつに柱の中をのぞく穴があります。床7からあふれ出た水が柱を通る時にのみ観察できます。
床3と床2には、床の底面にためられた水が溜まっているのを観察することができます。

また、地面にあるハンドルを回すと地中に埋められたタンクの水を吸い上げ、2段目と3段目の柱に設置された蛇口から水が出て、柱の中に水が通っていることを体感できます。
揚水体験用の水には限りがありますので、ハンドルをまわしても水が出ない場合があります。

<植栽された植物たち>
グラウンディングツリーに植栽されている植物は、全て、長居植物園(ほんの一部だけ長居公園)の中で採取して育苗したものです。
植物園内で、大阪府南部および大和川流域の自然植生の要素をもった植物を探し、それぞれの床ごとに異なる自然植生を表現しています。
いわゆる“雑草”と呼ばれる植物が多く植栽されていて、植物園内では唯一、雑草類が主役となっています。
時がたてば、鳥や風が運んでくる種から、植栽していない種類の植物が芽を出したり、植栽した植物が環境にあわずに、なくなってしまったりすることもあるでしょう。
自然淘汰にまかせながら、最小限の手入れを行って、植物たちが育つ様子を見守っていきます。

主要構造:鉄骨造
高さ:17.25m(立入可能最高部床面は8.75m)
主な設備:
柱9本(配水・揚水)
床9箇所(うち立入可能床 6箇所)
集水器 3
貯水タンク 1基
雨水タンク 2基(地中)
風車 2基(風速 4m以上で稼働)
子ども用揚水体験装置
観察窓 5箇所
階段(幅員 900mm/手摺高 1,100mm)
一般開放時間:3月~10月 9:30~17:00/11月~2月 9:30~16:30
定員:30名程
この建築(屋根はないけれど「建築」としたい)、面白過ぎる! どこから見ても絵になるので、軽く100枚くらい写真を撮ってしまう。そして、細部の理由がいちいち工学的で納得。
実はここに来る前、関西の大型建築を取材した後だったので、工事費1000分の1くらいであろうこっちの建築にむしろワクワクしている自分に笑ってしまった。子どもも楽しめると思うが、大人の方が細部をじっくり堪能できそう。
芦澤氏の出世作はヤンマーグループのホテル
ところで、芦澤氏がこの施設の設計を担当したのは、クライアントのグループ会社であるヤンマーホールディングスからの信頼が厚いからだ。芦澤氏の出世作であるこのホテルにも最近行ってきたので、参考に写真を何枚か掲載しておく。

セトレマリーナびわ湖の発注者はヤンマーグループのセイレイ興産。セトレブランドを全国展開するホロニックが運営する。
宿泊棟の湖側には板状のコンクリートの柱が斜めに立ち、各階のバルコニーがジグザクに張り出す。バルコニーと屋上には緑が見える。小さな丘、あるいは棚田のようだ。


その隣には、やはり芦澤氏の設計で2023年に「ヤンマーサンセットマリーナ」がオープン。


「芦澤竜一巡礼<後編>」では、今年4月にオープンしたばかりの「メタセコイアと馬の森」(滋賀県高島市)をリポートする。