今回と次回は、「熊本ビル部」が作成した「熊本市内建築地図」を手に、熊本市中心部の名建築を4時間で巡る弾丸ツアーである。4時間とは思えない充実した旅であった。

そもそも「熊本ビル部」をご存じだろうか。当サイトをよくご覧になる方は「知ってる!」という人が多そうだが、「知らない」という人のために、Googleに聞いてみた。最近はGoogleの検索窓に「〇〇とは?」と書くと、AIが勝手に答えを文章にしてくれるので便利である(その分、CO2排出が増えていると思うと心苦しいけれど…)。
以下、「熊本ビル部とは?」に対するGoogle先生の答えだ(太字部)。
「熊本ビル部」は、熊本県内在住のN氏が一人で運営している、高度経済成長期を中心とした近代建築(昭和のビルや名もなきビル)を鑑賞し、その魅力を発信する個人プロジェクトです。
街歩きと発信: 熊本の街中にある魅力的な昭和ビルを独自の視点で愛でる活動を行い、熊本ビル部のブログや熊本ビル部 (@a9JLpkhiG9PXQO0) / Posts / Xを通じてその建築美や情報を発信しています。
独自の資料作成: 建築物の詳細な紹介パンフレットを自ら作成・配布するユニークな活動も行っています。
AIすごい。筆者(宮沢)の知る「熊本ビル部」の活動について、見事にまとまっている。そうなのである。熊本ビル部は、熊本の建築好きたちのグループと思いきや、「個人」なのである。「T.M.Revolution」みたいな1人ユニットなのだ。だが、その発信力と熱量は「部」を名乗るにふさわしい。
実は、筆者は「熊本ビル部」その人に会ったことがあって、本名も知っている。だが、AIが「Nさん」と伏せているので、ここでもNさんとしておく。建築とは全く関係のない仕事をしている女性だ。筆者は岡山県が主宰したトークイベントでご一緒したのだが、その知識と熱量はすさまじかった。
で、今回のテーマである「熊本市内建築地図」(以下、ビル部マップと略す)。Nさんが2024年12月18日付けで発表したもので、こちらでPDFがダウンロードできる。
https://drive.google.com/file/d/1KPi3JUpcvFbL53l-LovH8W_ljKSaBmXE/view
熊本出張で半日時間が空いたため、「たまには市の中心部を歩いてみよう」と思い立ち(熊本は全域に名建築が多いためいつもレンタカーを借りてしまう…)、「そうだあれに頼ろう!」とNさんがつくったビル部マップのことを思い出したのである。

マップで紹介されている全部は回れないので、自分の関心とすり合わせてここ↓からスタートした。

熊本城内にある「熊本県立美術館」。筆者が勝手に選ぶ“前川國男マイベスト3”の1つだ。14時にここに到着した。
以下、太字部はビル部マップの紹介文である(文責:熊本ビル部)

熊本県立美術館本館
1977年 前川國男 DOCOMOMO
前川建築の名作の一つに挙げられる。熊本城二の丸広場に潜むように建つが、天井のワッフルスラブ、コン打ちの円柱、天童木工の椅子など華やか。


うーん、紹介文の簡潔さがしびれる!
20年ぶりくらいに訪れたこの美術館で、驚きの体験があった。“建築好き”であることがバレバレな感じで共用部の写真を撮っていたら、常設展の受付の人がツカツカと寄ってきて、建築に特化したガイドブックをくれたのある。



「おお、これは詳しくていい」と思って見ていたら、奥付になんと「Published by熊本ビル部/協力:(株)前川建築設計事務所」!
美術館を出るときに、入り口近くをよく見たら、公式パンフレットの隣にこのパンフレット(熊本ビル部作)が並べて置かれていた。もちろん無料。公立の美術館で個人がつくったものが当たり前に置かれているって、すごい話だ(いい意味で)。費用は一体どこ持ちなのだろうか?

いきなり強烈なパンチをくらった状態で美術館を出て、西隣に立つ「熊本県博物館」へ。ここに来るのも20年ぶりくらい。

館内をざっと見た後に気づいたのだが、当然、ビル部マップに載っていると思ったら載っていない! 「熊本県立美術館本館」とのあからさまな評価の差が面白い。
なので、ここは筆者が説明する。
熊本博物館は、1952年に設立された自然系・人文系資料を有する総合博物館。現施設は1978年に故・黒川紀章氏の設計により現在地に新築移転したもの。2018年のリニューアルを経て現在に至る。




その次は、再びビル部マップに戻る。熊本城の東側へ。

熊本県伝統工芸館
1983年 菊竹清訓
菊竹作品では恐らく唯一の、打ち込みタイルの外壁。内部は折り返しの階段はじめ、菊竹ディテールが溢れる。熊本の職人と一緒に造った建物。地階洋室の天井引き回しは必見。
ここは来るたびに「前川國男への擬態?」と思う。ビル部マップにもある通り、菊竹清訓らしさは階段に集約されている。



熊本城東側の坂を少し下るとこれが見える。

旧九州郵政局
1959年 郵政省(薬師寺厚)
薬師寺厚は、逓信省(現日本郵政)の建築部長まで務めた人物。逓信省時代は、山田守の薫
陶を受けている。水害に備え、玄関を2 階に持ち上げている。
へー、薬師寺厚って知らなかった。調べたら薬師寺主計(大原美術館などを設計した建築家)の息子だった。佐野利器の女婿でもあったとのこと。そういう目で見ると、シックでいいビルに見えてくる。

郵便局から東側を見ると、市電の線路の向こうに「大劇会館」が見える。

大劇会館
1969年 アントニン・レーモンド
2022年、それまでパネルで覆われていたタイル壁画を復元する工事が行われ、改めて熊本市のランドマークとなった作品。デザインは妻のノエミによる。
今回、一番見たかったのはこれで、ここは目の前を何度も車で通り過ぎているのだが、近くで見たことがなかった。熊本ビル部のブログでも、一番のお薦めはこれかもと書かれていたので、ちゃんと見ないわけにいかない。


近づくと、本当にタイルだ。フレームの出し方がレーモンドっぽい。さすがに細すぎるので付け柱だろう。

1階のアーケードみたいなつくりも都市的でかっこいい。

ひとまず前編はここまで。後編でははさらに東へ向かう。(宮沢洋)

後編はこちら↓(近日公開予定)
https://bunganet.tokyo/billbu2/
