うだるような午後の日差しの下、渋谷の東急百貨店本店跡地の工事現場前を歩いていたら、長く伸びる仮囲いに一気に目が引き寄せられた。この暑さにふさわしい蜃気楼のような大判写真たち。写真というものは大抵、冷えた展示室で見るものだが、これは日陰のない再開発現場にしっくりくる。「そうか、これがBunkamuraの広報室からプレスリリースが来ていたアートプロジェクトか!」と、気づいたのでご紹介する。
「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」の工事現場で7月1日から始まった仮囲いアートプロジェクト、「渋谷松濤ウォールギャラリー」である。


以下、プレスリリースからの引用だ(太字部)
~渋谷区・渋谷区立松濤美術館・Bunkamuraと連携し、
“もう一つの渋谷”の記憶と時間を紡ぐを展開~
東急株式会社、L Catterton Real Estate、株式会社東急百貨店は、共同で設立した渋谷西開発特定目的会社を通じて東急百貨店本店跡地で推進する 「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」の工事現場において、仮囲いアートプロジェクト「渋谷松濤ウォールギャラリー」(以下、本プロジェクト)を始動します。


本プロジェクトは、東急百貨店本店跡地から松濤、富ヶ谷、上原、駒場など西側へと広がる「Shibuya Upper Westエリア」が培ってきた豊かな文化的土壌を次世代へ紡いでいくことを目的に、渋谷区とShibuya Upper West Projectが連携し、エリア内に位置するBunkamuraと渋谷区立松濤美術館の協力を受けて推進するものです。
本プロジェクトのテーマは、かつてこの場所にあった東急百貨店本店の記憶、そして未来へと続く再開発の歩みが交差する「時間の流れ、積み重ね」です。100年に一度といわれる渋谷の再開発の時間軸の中で、松濤に長くお住まいの方から、初めて渋谷を訪れる方まで、多様な人々の時間の流れの交差を表現します。永遠に記憶と記録に残り、新たな歴史と文化を紡ぐ、工事仮囲いを活用した期間限定のギャラリーです。

2026年7月1日(水)から開始の第1弾は、国際的に高い評価を得る写真家・川内倫子氏を起用しました。川内氏は本プロジェクトのために周辺エリアを新しく撮り下ろし、夕暮れ時の一瞬の光の中に浮かび上がる人々の営みや、刻々と姿を変える街並みを繊細に捉えています。道行く人々がふと足を止め、このエリアが持つ静謐な美しさと、積み重なる時間の気配を感じられるような空間を創出します。

また、第1弾は、2026年7月4日(土)から渋谷ヒカリエ内の「ヒカリエホール」にて開催される、Bunkamuraザ・ミュージアムの展覧会『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』との連動企画です。渋谷の街全体でさまざまな角度から「写真」を楽しむ機会を提供します。
本プロジェクトを通じて、工事現場の仮囲いを質の高い文化発信拠点へと変え、エリア全体が文化のシンボルとなることを目指します。

■渋谷松濤ウォールギャラリー第1弾 概要
期間:2026年7月1日(水)~2027年9月30日(木)予定
場所:Shibuya Upper West Project新築工事仮囲い
主催:渋谷区、Shibuya Upper West Project
協力:東急株式会社、Bunkamura、渋谷区立松濤美術館
写真:川内倫子
デザイン:林琢真デザイン事務所
■川内倫子氏プロフィール
1972年、滋賀県生まれ、千葉県在住。2001年刊行の写真集『うたたね』『花火』(リトルモア)により、第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。生と死、光と影といった、日常に存在する両極かつ隣り合わせの要素が、淡くやわらかい光と色調の中に浮かび上がる作品は国内外で高く評価されている。2013年芸術選奨文部科学大臣新人賞、2023年にはソニーワールドフォトグラフィーアワードの特別功労賞を日本人として初めて受賞している。2022-2023年、東京オペラシティアートギャラリーと滋賀県立美術館で、大規模個展『川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり』を開催。2026年7月4日(土)から渋谷にて開催する『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』に参加。
川内倫子氏は、それほど写真ツウではない筆者でも知っているくらいなので、写真自体が素晴らしいことは言うまでもない。それに加えて、縦イチ写真を天地いっぱいに使って余白を残さずに並べる見せ方もうまいと思う。そうすることで、面の連なりにより蜃気楼感が増幅される。

この辺りのデザインは林琢真デザイン事務所の林琢真氏によるものだ。さすが。
なぜ「さすが」と思うかというと、林琢真氏は国内外のデザイン賞をしょっちゅう受賞している腕利きのアートディレクター/グラフィックデザイナーだからだ。建築好きの方であれば「TOTOギャラリー・間」のポスターを思い浮かべてほしい。プレスリリースにプロフィルがなかったので、事務所のサイトから拾ってみた。
林 琢真(アートディレクター /グラフィックデザイナー)
札幌生まれ。中島英樹に師事。2006年にdeco designを設立。2014年に株式会社林琢真デザイン事務所を設立。
美術や建築の展覧会におけるグラフィックのアートディレクションを中心に活動。出版、広告、ファッション、音楽など幅広い分野でデザインワークに携わる。2017年よりTOTOギャラリー・間での建築展のメインビジュアルのデザインを担当する。主な個展に「FIGURATIVE AND ABSTRACT」(アムステルダム・東京、2020)。主な受賞に、ニューヨークADC、東京ADC、造本コンクール、全国カタログ・ポスター展、交通広告グランプリなど。2025年に株式会社anemosを共同創業。

実は筆者(宮沢)が彰国社から出した『画文でわかる』シリーズの3冊↑は、いずれも林琢真デザイン事務所の装丁・デザインによる。いつも私ごときのイラストを大変丁寧に扱ってもらい、申し訳ないような気持ちだ。
そんな私が言うのもどうかと思うが、今回のウォールギャラリーのこのシマシマ↓だけはどうにかならんのかなと正直、思った。コーナー部分に人がぶつからないための安全喚起だということはわかるものの、せっかくの蜃気楼感に水を差す。

今まであまり意識したことがなかったが、これはどこの現場にもあるもののようだ。同じ日に見かけた他の現場でも撮ってみた。


敷地内への出入り口にシマシマをつけるのはまあ、わかるとして、コーナー部分にぶつかる人って本当にいるのだろうか。仮囲いアートで知られる菊竹雪さんの過去の作品群をググって見てみたら、あれ、コーナーにシマシマはないなあ…。最近、社会の目が厳しくなったのかもしれない。でも、それならばぶつかってもけがをしない素材とかを誰か開発してほしい。ちょっとこのシマシマは他国の人に笑われそうだ(東京らしいと面白がるかもしれないが)。無関係の人間の方がこういうことを言いやすいのではないかと思い、書いてみた。
第1弾が9月末なので、第2弾は秋以降なのだろう。2029年度に建物が完成するまで、このギャラリーでどんなものを見せてくれるのか楽しみだ。その間にコーナー部の処理も、いい方法が発明されることを祈る。
ところで、ここに建設される「Shibuya Upper West Project」はこういうプロジェクトだ。

設計は日建設計で、ノルウェーのスノヘッタ(Snøhetta)がデザインアーキテクトを務めることで話題だ。
■Shibuya Upper West Projectの計画概要
事業主/東急株式会社、L Catterton Real Estate、株式会社東急百貨店
所在地/東京都渋谷区道玄坂二丁目24番1号
用途/リテール、ホテル、レジデンス、ミュージアム など
敷地面積/約13,675㎡(※Bunkamura含む)
延床面積/約119,000㎡(※Bunkamura含む)
階数/新築部分:地上34階 地下4階 Bunkamura:地上7階 地下2階
高さ/155.7m
デザインアーキテクト/Snøhetta
エグゼクティブアーキテクト/株式会社日建設計
建築施工者/大林・東急・西武建設共同企業体
竣工/2029年度(予定)

おお、日建設計の総括は勝矢武之さん! ウォールギャラリーを時折見つつ、完成を心待ちにしよう。(宮沢洋)
