映画やドラマの建築家たちに突っ込む『シネドラ建築探訪』発売、表の理由(まえがき)と裏の思い(あとがき)

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筆者(宮沢洋)のWEB連載をまとめた新刊『シネドラ建築探訪』が日経BP日本経済新聞出版より2023年3月13日に発売となる。アマゾン(こちら)では3月10日から発送開始のようだ。この本、自分で言うのもなんだが結構、面白い。まえがきで表向きの理由を、あとがきで裏の思いを書いたので、両方を一気にどうぞ。

まえがき:映画やドラマは「面白く伝える」ことの教科書

書籍『シネドラ建築探訪』、日経BP日本経済新聞出版より3月13日発売。アマゾンはこちらhttp://amazon.co.jp/dp/4296117467/

 建築物や住宅、それを設計する建築家は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。憧れ? 独りよがり? 日常とは隔絶した存在?

 本書は元・建築雑誌編集長で画文家の宮沢洋が、「名セリフ」のイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづったものである。住宅関連情報のサイト「LIFULL HOME’S PRESS」において2020年から2年半にわたり連載した『建築シネドラ探訪』の原稿30本をベースに、コラム用の短文20本を新たに執筆して構成した。

 筆者の前職は『日経アーキテクチュア』という建築雑誌の編集者だ。もともと大学は文系。入社した出版社で、本人の希望とは関係なく建築雑誌に配属された。最初は「なんで?」と思ったが、そこが性に合っていた。数年するとその面白さに目覚め、数十年たつと「建築の面白さを専門家だけでなく、一般の人にも伝えたい」という思いが止められなくなる。30年目の2020年、得意のイラストを武器に「画文家」として独立した。

 建築の面白さを一般の人に伝えたい──。そんな看板を掲げて活動しているので、自分以外の人が建築物や建築家の面白さをどう伝えているかがすごく気になる。何に着目し、どう膨らませているのか。

マサカズ×キムタクの伝説的ドラマ『協奏曲』より(イラスト:宮沢洋)

 その最たるものが映画やテレビドラマだと思う。何しろ、自分が1本の建築リポートを書くのとは比べようもないマンパワーと費用が投じられている。人の心を動かすためのあるゆる知恵が詰め込まれている。仮に現実との大きなギャップがあったとしても、それはつくり手が見つけた面白さを増幅したものであり、全くの虚構ではない。むしろそのギャップを描くことで、つくり手が着目した大元の何かを2次的に楽しめるのではないかと考えた。

国民的映画『釣りバカ日誌』より(イラスト:宮沢洋)

 それぞれの作品を実際に見てみると、建築家の描かれ方、着眼点は予想以上に多様であった。同じものは1つとしてないが、方向性としてはいくつかの共通項でくくれる。そこで本書では、30本を5つのテーマに分類し、その差がより明確になるようにした。

「PART1 建築家はモテる?」
「PART2 建築家はつらいよ」
「PART3 建築家ダイバーシティ」
「PART4 建築の裏側を知る」
「PART5 とにかく建築が好き!」

 筆者のナビゲート通りに頭から読んでもよいし、自分の好きな作品、気になる作品から拾い読みしても何ら問題はない。クスッと笑いながら、建築家を取り巻く環境の変化や、彼らを見る目の変化を知ることができるだろう。本書をきっかけに、建築家という存在をより身近に感じていただければ幸いである。 宮沢洋

あとがき:憧れの和田誠へのオマージュ

 医者や刑事、弁護士ならともかく、「建築家」が登場する映画やテレビドラマがそんなにあるのか……。本書を手に取られた方が最初に抱くのはそんな感想ではないか。そうなのである。筆者自身も調べてみて、こんなにあったことに驚いた。

パニック映画の金字塔『タワーリング・インフェルノ』より(イラスト:宮沢洋)

 最後になって白状するが、筆者は人に誇れるほと映画に詳しいわけではない。学生時代までは映画が好きでかなり見た。だが、出版社勤務になると、忙し過ぎてほとんど見る時間がなくなった。

 2020年にフリーランスとなり、「LIFULL HOME’S PRESS」から「建築関連で何か連載をやりませんか」と打診があったとき、すぐに「映画の連載をやろう」と思った。そのとき頭に浮かんだことが二つあって、一つは、「連載にすれば、仕事として映画を楽しめる」ということ。もう一つは少年時代からの憧れ、故・和田誠の『お楽しみはこれからだ』だ。

 和田誠は日本の戦後を代表するイラストレーター。画風を見ればお分かりのとおり、筆者も多大な影響を受けている。和田誠はイラストレーターとして一流であるうえに、名文家であり、希代の映画通であった。映画監督として『麻雀放浪記』や『快盗ルビイ』などを撮っている。

 華々しい業績の中で『お楽しみはこれからだ』はそれほど知られていないかもしれない。それは、和田誠が映画誌『キネマ旬報』に連載していたイラスト入りの映画評で、副題は「映画の名セリフ」だ。

まさに名セリフ。『テルマエ・ロマエ』より(イラスト:宮沢洋)

 「なんだ、和田誠のパクリか……」。そう言われれば、まあ、その通りである。ではあるが、筆者としては「憧れの和田誠へのオマージュ」と言い換えたい。筆者は現在、「画文家」と名乗っているが、そもそも「イラストを描いて文章を添える」というスタイルは、和田誠への憧れが出発点なのである。独立したら何かのツテを頼って憧れの人に会いたい、と思っていたのだが、独立の数カ月前、2019年10月にその人は天に召されてしまった。

 憧れは強くても、すべてにおいて和田誠に勝てるわけがない。連載を始めるにあたり、考えたことの一つは、自分が詳しい建築家や建築物の話に絞ること。もう一つは、映画だけでなく、テレビドラマも含めること。テレビドラマはたいてい9~10話あるので、見るのに時間がかかる。だから論じる人も少ない。そこは独自性になるのではないかと考えた。

韓流ドラマは長い…。ご存じ『冬のソナタ』より(イラスト:宮沢洋)

 「建築家や建築物の話に絞る」いうのも、我ながら面白い枷(かせ)だったと思う。それがなかったら一生見ることがなかった作品を数多く見て、食わず嫌いだったことを知った。私の専門領域ではないが、同じやり方で医者や刑事、弁護士といった職業別の本が書けそうだ。好きな作品だけ見るより視野が広がる。本書を見て、やってみようと思われた方は、ぜひイラストを筆者にご依頼いただきたい。 宮沢洋

書籍『シネドラ建築探訪』、日経BP日本経済新聞出版より3月13日発売。アマゾンはこちらhttp://amazon.co.jp/dp/4296117467/

『シネドラ建築探訪』目次
PART1 建築家はモテる?
『私の頭の中の消しゴム』『結婚できない男』『恋仲』『建築家概論』『冬のソナタ』

PART2 建築家はつらいよ
『摩天楼』『みんなのいえ』『協奏曲』『ノースライト』『ル・コルビュジエとアイリーン』『追憶のヴィラ』『マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して』『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』
 

PART3 建築家ダイバーシティ
『これが私の人生設計』『テルマエ・ロマエ』『パーフェクトワールド』『大豆田とわ子と三人の元夫』『釣りバカ日誌13 ハマちゃん危機一髪!』『10の秘密』『海辺の家』『火天の城』
 

PART4 建築の裏側を知る
『タワーリング・インフェルノ』『ダイ・ハード』『パラサイト 半地下の家族』『隣の家族は青く見える』『ラグジュアリー・シドニー~超高級住宅ドキュメンタリー~』『風速40米』

PART5 とにかく建築が好き!
『名建築で昼食を』『ホテルローヤル』『建築と時間と妹島和世』『カメラを止めるな!』 

コラム 名建築ここにあり/現実をしのぐ空想建築
『北北西に進路をとれ』『時計じかけのオレンジ』『ブレードランナー』『未来世紀ブラジル』『ガタカ』『コロンバス』『モスラ』『ニッポン無責任野郎』『図書館戦争』『ロストエモーション』『半沢直樹』『総理の夫』『ドライブ・マイ・カー』『メトロポリス』『スター・ウォーズ』『ロード・オブ・ザ・リング』『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』『ハウルの動く城』『チャーリーとチョコレート工場』『ザ・タワー 超高層ビル大火災』