「団地と映画」展@高島屋史料館TOKYOが開幕、併せてお伝えしたい3つのオマケ

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 日本橋高島屋S.C.本館の「高島屋史料館TOKYO」4階展示室で3月12日(水)から「団地と映画 ー世界は団地でできている」が始まった。それについてもお伝えするが、まずはオマケ情報として筆者が皆さんに見てもらいたくなったこの写真から。

知ってますか? 丹下健三が設計したおそらく唯一の団地、「香川県営住宅一宮団地」。これは今回の「団地と映画」展には出てきませんので、あしからず(写真:宮沢洋)

 展覧会リポートに戻ると、「団地と映画 ー世界は団地でできている」のキュレーションは「団地団」。会期は2025年8月24日まで。入場無料。開幕前日の3月11日午後に行われた内覧会を見てきた。

 「団地団」というのは、2010年12月、新宿ロフトプラスワンのトークイベントで大山顕(写真家)、佐藤大(脚本家)、速水健朗(ライター)の3氏により結成された団地好きユニット。その後もロフトを中心に定期的にトークイベントを開催。メンバーは山内マリコ(作家)、稲田豊史(編集・ライター)、妹尾朝子(漫画家)の3氏を加え、計6人になっている。本展はメンバーがそれぞれの立場から、映画、マンガ、アニメなどに登場する団地について深く考察して大放談を繰り広げる。

 以下、公式サイトから引用(太字部)。

団地をこよなく愛し、日夜、団地について真剣に探求し続けてきたクリエイターユニット《団地団》を監修として迎え、「団地と映画」をテーマにした展示を開催いたします。

本展では、団地団が「団地映画」と名付けた諸作品に注目いたします。そうした作品群において団地はどのように描かれてきたでしょうか。数多の映像表現を、団地を軸にして観察してみると、実は、団地のイメージがいくつかのパターンに沿って変遷してきた事実が浮き彫りになってきます。そして、さらにその背景には、個々のクリエイターがそのように団地を描いた時代の必然があったことが、団地団の妙技によって炙り出されるのです。

(中略)かつて団地が今ほど注目されていなかった時代から、「フィクションに登場する団地」の魅力をいち早く発見し、それを言語化して発信する活動を行ってきた団地団。その団地をめぐる言説の魅力は、映画、アニメ、ドラマ、小説、漫画などを縦横無尽に参照し、各所に登場する団地について、それぞれの知見から、好き勝手に繰り広げられていく、そうした過程にこそあるといえるでしょう。自由で、散漫で、時に宇宙レベルにも達し、ややもすると飛躍し過ぎとも思える放談の数々は、それゆえに、団地団にしか辿り着けない、唯一無二の批評世界をもたらしてくれます。この豊かな団地批評を、一人でも多くの方に届けたいと思います。

 筆者は別件があって内覧会を途中抜けしたので、これ以上詳しく語る資格がない。ただ、内覧会を覗いて書きたくなったことがいくつかあったので、本筋とはかなり離れるがそれを書かせてもらう。

オマケ情報①現存する丹下健三のすごい団地、「香川県営住宅一宮団地」

 本展のコンテンツの核となるのはこの年表↓なのだが、筆者はこれを見ているとどうしても、「団地建築史」を書き加えたくなってしまう。

 前職時代に戦後集合住宅史年表をつくったことがあって、その作業はとても面白かったのだが、誌面が半ページしかとれなくて「いつかもっとすごいのをつくろう」と思ったまま退職してしまった。ああ、自分も団地団に入っていればあの続きをここに加えられたなあ。

 で、冒頭の「香川県営住宅一宮団地」に戻ると、これは丹下健三が設計したおそらく唯一の団地である。筆者の近著『丹下健三・磯崎新建築図鑑』に載せようかとギリギリまで迷ったのだが、総数を丹下25件・磯崎25件(計50件)にするために泣く泣く落とした(正確に言うと、巻頭のマップには載せている)。

 文化庁のサイトの「近現代建造物緊急重点調査(建築)」ではこう説明されている(太字部)。

香川県営住宅一宮団地
1986年竣工
設計/基本設計:丹下健三・都市・建築設計研究所、実施設計:香川県土木部住宅課
施工/穴吹工務店、木村建設、高岸工務店、寿建設、久保田工務店、河西建設、橘一吉工務店、観光建設、井坪建設、三協建設、平尾興業、香西工務店、永禄建設
構造形式/鉄筋コンクリート造 地上3階 鉄板葺
用途/住居建設
所在地/香川県高松市寺井町

⾼松市の中⼼部から⾞で南へ約20分の郊外の県営住宅で、敷地⾯積は約5ha、住戸数は395戸である。最初の建物は昭和33年〜39(1958〜1964)年度に整備され、基本設計は東京⼤学丹下健三計画研究室が⾏い、RC造5階建のスターハウス11棟と、平屋建または2階建の低層住居を組み合わせた、447戸が整備された。地元産のゴロ太⽯の⽯積塀が要所に設けられ、団地内の統⼀感を保っていた。ただ、多くは⾵呂がなく、各戸は30〜40㎡と狭く⽼朽化も進んでいたことから、昭和54年度から建替えが進められ、スターハウス11棟を除いてすべて建替えられた。

昭和56年〜60(1981〜1985)年度に整備された棟は、丹下健三・都市・建築設計研究所の住棟配置計画に基づき建築された。住棟は敷地のほぼ南北に⾛る街路の両側に向かい合うように配置され、各戸のエントランスは街路に向かって設けられている。各住戸の街路と反対側には各戸の庭があり、緑の広場と名付けられた緑地空間に続く。その緑地には、園路や遊び場が設けられ明確に歩⾞分離もなされている。

各住戸は街路に対し45度の⾓度で雁⾏し、従来の南⾯平⾏型の住棟配置に⽐べ、前⾯の住戸までの距離を2〜3倍⻑くとって各戸の独⽴性を⾼めることに成功している。住棟はすべてRC造壁式構造の3階建てで、間口6.36mを1つのユニットとして、当該ユニットの3層分の空間を2戸の住居に分ける。プランは1階を1戸として、2、3階を別の1戸とする(フラット+メゾネット)タイプと1階と2階の半分を1戸、2階の残り半分と3階を1戸とする(メゾネット+メゾネット)タイプがある。2階に⽞関を持つ住戸は、すべて専⽤の屋外階段で街路とつながり、各戸の独⽴性に配慮されている。

当団地は丹下健三⽒の計画による国内でも数少ない住宅団地である点、また、集合住宅の住環境の向上が求められた時代における、優れた回答事例として、評価することができる。

元のページはこちら→https://www.bunka.go.jp/kindai/kenzoubutsu/research/kagawa/023/index.html

 文化庁のサイトに載っているくらいだから、外観を見に行くくらいは許されるのだろう。くれぐれも居住者の迷惑にならないように節度ある行動を。

オマケ情報②イタリアのコメディ、「これが私の人生設計」は団地映画としても傑作

 筆者は団地にはさほど詳しくないが、映画やドラマは大好きで『シネドラ建築探訪』(2023年、日本経済新聞出版)という著作がある。この中で唯一、団地をテーマにしている映画がイタリアのコメディー作品、「これが私の人生設計」だ。

■映画「これが私の人生設計」
劇場公開(日本):2016年3月(イタリア公開は2014年)
原題:SCUSATE SE ESISTO!/DO YOU SEE ME?
監督:リッカルド・ミラーニ
脚本:ジュリア・カレンダ、パオラ・コルテッレージ、フリオ・アンドレオッティ、リッカルド・ミラーニ
出演:パオラ・コルテッレージ、ラウル・ボヴァほか
103分/イタリア

(イラスト:宮沢洋、下も)

 組織設計事務所で活躍していた女性建築家が独立し、いろいろあって巨大団地の再生に挑む話。この映画、ジェンダーギャップを描くコメディとしてめちゃめちゃ面白いだけでなく、イタリアの団地の現実を知ることができてとても勉強になる(団地って日本もイタリアも同じ問題を抱えているんだな、と。

 この映画、「団地と映画」展の年表や分析図にはなかったようなので、お薦めしておく。できれば本を買って読んでほしいが、その記事だけ読みたい方はこちらを。

オマケ情報③スタンプラリー大人気、「さらに装飾をひもとく」展は歴代入場1位に!

 おまけの3つ目は、「団地と映画」展の前に行われた「さらに装飾をひもとくー日本橋の建築・再発見」(2024年9月14日~2025年2月24日、詳細は下記の記事)のご報告。

 会期中の合計入館者数は約1万4000人で、歴代1位の入場者数となったとのこと。筆者がイラストを描いたスタンプラリーのコンプリートは約4000人。来場者の4人に1人以上がコンプリートした計算だ。スタンプを全部押して回るのに1時間は軽くかかるのに、びっくり。

 ご来場いただいた方、スタンプラリーに挑戦された方、本当にどうもありがとうございました。筆者は関わっていませんが、「団地と映画」展にもぜひ足をお運びください。(宮沢洋)

■展覧会概要
団地と映画 ー世界は団地でできている
会期:2025年3月12日(水)→ 8月24日(日)
開館時間:10:30~19:30

入館料:無料
場所:高島屋史料館 TOKYO 4階展示室(東京都中央区日本橋2-4-1)
休館:火曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)、8月20日(全館休業)
主催:高島屋史料館 TOKYO
監修:団地団(大山顕、佐藤大、速水健朗、稲田豊史、山内マリコ、妹尾朝子)
グラフィックデザイン:原田祐馬、山副佳祐、大隅葉月(UMA /design farm)
展示デザイン:座二郎、天本みのり
公式サイト:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/exhibition/