団地再生に学生たちの熱い視線が再び? 団地再生支援協会が学生賞の審査結果を発表

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 団地再生支援協会は発足以来、「集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞」をほぼ毎年開催し、今年で21回目を迎えた。全国の学生から団地再生の理念・計画・デザインに関する提案を募り、優れた作品を表彰するというもので、前年度の卒業設計の作品が対象になることが多いという。

左から、団地再生支援協会で理事を務める田島則行さん、優秀賞の田村陸人さんと志村裕己さん、最優秀賞の伊藤佑那さん、奨励賞の池田瑶葵さん、会長の松村秀一さん(写真:長井美暁)

 同会は「団地再生」という大きなテーマに日本で初めて取り組み始めた、複数の法人と個人からなる団体だ。前身の団地産業協議会が発足したのが2003年。会長は初代・内田祥哉さん、2代目・近藤正一さんの後を引き継ぎ、2016年から松村秀一さん(神戸芸術工科大学学長)が務めている。

最優秀賞は「芦屋浜シーサイドタウン」の再生提案

 第21回「集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞」に集まったのは15作品。審査の結果、最優秀賞には大阪公立大学大学院工学研究科に在籍する伊藤佑那さんの「モノリスの壁が崩れる前に―芦屋浜シーサイドタウンの持続を目指して―」が輝いた。また、優秀賞に田村陸人さん(東京工業大学大学院環境・社会理工学院)の「『近代住居解体論』家族の解体から新しい住宅のすがたを考える」と志村裕己さん(東北大学大学院工学研究科)の「偏差的日常 ―ズレが育むナナメの関係―」、奨励賞に池田瑶葵さん(東京工業大学大学院環境・社会理工学院)の「具体的市場」が選ばれた。

6月17日に行われた表彰式で、松村会長から賞状を手渡される大阪公立大学大学院の伊藤佑那さん(写真:長井美暁)

 最優秀賞の伊藤さんの作品は、1979年に完成した兵庫県芦屋市の集合住宅群「芦屋浜シーサイドタウン」の再生提案だ。この集合住宅群は当時の建設省が推進した工業化工法パイロットプロジェクトの一つであり、大手企業が計画・生産・供給までの技術開発を競い合い、5層ごとのメガストラクチャー(大架構システム)とプレハブの住戸構成、住戸群・住棟群・街区への段階構成といった設計思想を持っていた。

伊藤佑那さんの「モノリスの壁が崩れる前に―芦屋浜シーサイドタウンの持続を目指して―」の発表資料より

 審査講評では、千葉大学大学院国際学術研究院の鈴木雅之教授が次のように述べている。

「提案者は、当時の生産供給手法や設計思想をくみ取りつつ、現代の社会情勢やニーズ、地域課題を反映させた空間構成の再編に挑戦したことが評価された。また、エポックメイキングな集合住宅の再生に意欲的に取り組み、生活や仕事の風景、街の風景を再構成しようとした意欲も高く評価された。

 特に、縦横に連続するプレハブの居室空間をメガストラクチャーから切り離し、構造から解放されたものとして扱うことによって、オフィスやインキュベーション施設などの新しい空間構成を生み出そうとすることが特徴的である。また、それらの空間は、当時では考えにくかった街との連続性や展開を前提とする多様なライフスタイルやワークスタイルにつながる提案に成功している」

 優秀賞の田村さんは、核家族という20世紀の典型的な「近代家族」のためにつくられた戸建て住宅団地を解体・再定義することで、社会における家族形態の変化にフレキシブルに対応できる住宅団地の姿を模索。一方、志村さんの提案は、団地に暮らす人々の多様な関係性のきっかけを建築的につくろうという意欲作で、住民へのヒアリングやアンケートから223のエピソードを取り出し、建築形態の操作へと変換した。また、奨励賞の池田さんの作品は、住むことに特化してつくられた郊外の団地に巨大な卸売市場を移設し新しいモノの流れを生み出せば、郊外の暮らしの主体性を取り戻せるのではないかという大胆な構想だ。

 入選4作品の内容(発表資料)は、団地再生支援協会のウェブサイトで見ることができる。ここでは触りしか紹介できないので、同会ウェブサイトをぜひ訪れてほしい。

団地再生への関心の波が再び到来?

 会長の松村さんは「団地をテーマにした卒業設計は近年少なくなっている。昔と違って団地再生は今やリアルな問題で、実践例も増えているから、学生にとっては新しい提案をしにくいところもあるのだろう。そんななかで今回は珍しく入選作品の舞台が団地だけで、団地再生の大きな波が再び訪れているのかもしれないと感じている」と話す。

 松村さんの総評も最後に紹介しておきたい。

「今回の応募はここ数年の傾向とは異なり、大半が住宅団地を対象とする提案で、しかも力作揃いだった。審査委員の間で評価の高かった最優秀・優秀・奨励賞の4作品はどれも、建設当時とは大きく異なってきた人と人の関係や、住居と混ざり合うべき人々の活動の場のあり方に対応して、実空間を改変する具体的な方法を提案したもので、それぞれに説得力があった。

 最優秀作は、今から半世紀前、日本の団地建設の最盛期に企画されたことでも知られる芦屋浜高層住宅の独特な構法システムが本来持つ変更可能性を正しく認識し、それを効果的に活用した提案で、これが実現できればもう半世紀は人々の豊かな暮らしの場であり続けるだろうと思わせるものだった。優秀作と奨励作の、現在の集合住宅に欠けがちな人間関係や内外関係を細やかに補う空間操作法の提案、様々な家族のあり方や暮らしのあり方に対応する戸建住宅地の空間操作法の提案、団地の足元に市場を持ち込むことで今までにない住まいのあり方を生み出そうとした提案も、オリジナリティ・完成度ともに高く評価できる。学生たちの頼もしい力を感じることができ、審査会は想像以上に嬉しい場になった」

 団地再生支援協会では会員(特に法人会員)を募集中だという。興味のある向きは連絡されたし。(長井美暁)