DOCOMOMO Japanは6月19日、「日本におけるモダン・ ムーブメントの建築」として新たに12件の建築物を選定したことを発表した。

「日本におけるモダン・ ムーブメント」の選定は昨年、節目の300件を超え、今回は連番で言うと301~312番となる。
■2026年発表「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」新規選定リスト(名称/県/設計者/竣工年/用途)
301
米子市公会堂/鳥取/村野藤吾/1958/公会堂
302
(日本国有鉄道)勝田電車区電車庫(現・東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本水戸支社管轄)・勝田車両センター検修庫)/茨城/国鉄新橋工事事務所建築課 + FKK(協力)/1961/電車庫
303
水上ビル(豊橋ビル・大豊ビル・大手ビル)/愛知/不詳/1964~1967/店舗・住居・事務所
304
ホテル奥道後(現・奥道後壱湯の守)/愛媛/根津耕一郎(根津建築事務所)/1969/ホテル
305
FU Building+GA gallery(GAギャラリー)/東京/⼆川幸夫+鈴木恂建築研究所/1972・1983/店舗
306
町田郷土資料館(現・町田市立博物館)/東京/RIA建築綜合研究所(山口文象)/1973/博物館
307
岩崎美術館本館・管理棟・工芸館/鹿児島/槇文彦/1979・1983・1987/美術館
308
八ヶ岳美術館(原村歴史民俗資料館)/長野/村野・森建築事務所/1979/博物館, 美術館
309
西武園ゆうえんち/埼玉/池原義郎/1984-85/準用工作物
310
球泉洞森林館(球磨村森林組合林業資料展示施設)/熊本/木島安史+YAS都市研究所/1984/資料展示館
311
サントリーホール/東京/佐野正一(安井建築設計事務所)/1986/コンサートホール
312
藤沢市湘南台文化センター/神奈川/長谷川逸子・建築計画工房/1989 (市民シアターは1990年)
/こども館(プラネタリウム含む)・市民センター・公民館・市民シアター
筆者は、DOCOMOMO Japanのこの発表を毎年楽しみにしている。節目の300件が近づいた2年前には本サイトであれこれと要望を書いたりもしたが(こちらの記事)、基本的には賛同している。
日本建築学会賞やJIA日本建築大賞は、結果を聞いても「ふーん」くらいなのだが、DOCOMOMO Japanの選定は毎年リストを見ると気持ちが上がる。それはなぜかを自分に問うてみると、選ばれる建築に「よくぞ選んだ!」「なるほどそうきたか!」「全く知らなかった!」の3要素がうまくブレンドされているからだと気づいた。(なかには「ふーん」もあるが…)
今回の選定で、それを1つずつ挙げたい。太字は公式発表の選定理由より。
「よくぞ選んだ!」──ホテル奥道後
ホテル奥道後(現・奥道後壱湯の守)/愛媛/根津耕一郎(根津建築事務所)/1969/ホテル


松山市の郊外の山中に建設された温泉付きの巨大リゾートホテル。愛媛県を拠点とする造船会社、来島どっく(現・新来島どっく)の新事業の一環で計画されたもので、新たに温泉を掘り当て、この地に「奥道後」と名付け、建設されたホテルである。石手川の上流の川に面した細長い急な斜面に敷地があり、その地形と川の流れに合わせ、全長350mの7階建てという巨大な建物が蛇行しながら建っている。160室程度の宿泊室を備え、新幹線(1編成400m)の駅舎のような長さと規模を持つホテルである。
1階から5階までは鉄筋コンクリート造であるが、一般的なラーメン構造を用いず、建物の細い幅の中央付近に2本の柱を建て、そこから4.2mずつ両側へ張り出す、高速道路の高架橋のような断面構造を持つ。それを積み上げる形で1階から5階までの床を支えている。6階および7階は、軽量化とさらに両側に張り出すスパンを必要とするため、鉄骨造となっている。外壁は、壁面部分はALC版、窓面はアルミの鋳物製の窓枠で支えている。

建物を地形に沿いながら建物を配置し、多数の来館者の動線処理を中心に平面を構成しており、抽象性の高い直線的なデザインでまとめているなど、モダニズムの理念と方法で全体をまとめているが、この場所に適した構造が考案されている点には、形式化したモダニズムではなく、創造的なモダニズムに基づいていると言える。1960年代ならではのダイナミックで創造的なモダニズム建築の事例だと言える。
根津耕一郎は、30歳代前半から大阪を拠点に活躍した建築家である。このホテル奥道後も30歳代で実現させたものであり、若い建築家の圧倒的な構想力が当時の社会で高く評価されたことを体現している。根津は特に1960年代から70年代にかけて目覚ましい活躍を見せたが、現存する代表作は数少なくなっている。このホテル奥道後は現存する根津の作品としては最も重要で、希少性の高いものである。



筆者はこの建築に2度行ったことがあって、1度目は人に薦められフラリと立ち寄って大きな衝撃を受け、2度目は日帰り入浴に行った(季節要因なのか予約がいっぱいで泊まれなかった)。こんなに巨大でありながら、2020年に耐震工事を終えている。「建築家・根津耕一郎の作品」として大切にされているのに、建築界隈では無名過ぎる…。今回の選定をステップにまずは登録文化財、いずれは重要文化財を目指してほしい!


「なるほどそうきたか!」──⻄武園ゆうえんち
西武園ゆうえんち/埼玉/池原義郎/1984-85/準用工作物


これまで建築家が手がけることがなかった遊具を含めた遊園地の全体計画に及ぶプロジェクトである。特にメリーゴーランドは、虚構と装飾というモダニズム建築とは無縁であった要素を、構造と機能を手がかりに結びつけポストモダンへの橋渡しとなる地平を切り拓いた。また、⼯業化による既製品が中心となった時代に、町⼯場で作らざるを得ないスチールワークの⼯芸的な可能性を存分に引き出している。

西武園ゆうえんちが池原義郎の設計であることは筆者も知っていたが、度重なるリニューアルで池原による当初の遊具や造作は残っていないのだと思っていた。いかにも池原調のあのメリーゴーランド、まだあったのか! これは見に行かねば…。
「全く知らなかった!」──勝田電車区電車庫
(日本国有鉄道)勝田電車区電車庫(現・東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本水戸支社管轄)・勝田車両センター検修庫)/茨城/国鉄新橋工事事務所建築課 + FKK(協力)/1961/電車庫


勝田電車庫は、戦後国鉄の技術革新を体現するPC連続シェルの優れた適用例であり、構造=意匠の統合、作業性・保全性・安全性を同時に満たす総合設計が際立つ。ハイサイド採光とリング梁通路、端部厚肉の滴縁などの要素は機能美として結晶し、産業モダニズムの文化的価値を明快に示す。1963年以降の増改築や設備更新は可逆的・付加的で、1961年本体の構成・比例・光の原理は良好に保持され、現役施設として地域の交通基盤と雇用に寄与している。技術史・建築史・産業遺産の各観点から希少性と真正性が高く、履歴の可読性も確保されている点は評価が大きい。以上より、本建築は日本における近代建築の到達点を示す基準作であり、極めて重要である。



なんじゃこれは。カッコ良すぎる! これぞ構造合理主義。ネルヴィ(構造家)のよう。「1961年本体の構成・比例・光の原理は良好に保持され」って、実物が見たくなる。見学会を開いてほしい!
DOCOMOMO Japanは今年8月~2027年2月にかけて東京で展覧会を予定しているそうだ。これについては、改めて内容を報告したい。展覧会に合わせて、一般参加型の見学ツアーなどいろいろと仕込んでくれることを勝手に期待している。
なお、今回の12件のなかで筆者が一押ししたい「ホテル奥道後(現・奥道後壱湯の守)」は、拙著『イラストで読む湯けむり建築五十三次』(青幻舎、2024年)で取り上げているので、そちらもぜひご覧いただきたい。(宮沢洋)
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