第2回は、道後の“温泉街”にある近現代建築を徒歩で巡る。スタート地点は、路面電車の「道後温泉駅」だ。
◆道後温泉駅
松山市道後町1−10−12
設計:不詳
竣工:1911(明治44)年竣工の旧駅舎を1986年に復元
参考サイト(スターバックスコーヒー):https://store.starbucks.co.jp/detail-1577/
行ったことのない人のために説明しておくと、道後温泉駅はJRの駅ではなく、JR松山駅から東方向に路面電車(伊予鉄)で25分ほど行った山裾にある。
この駅舎は明治末期に建てられた洋風の木造駅舎を、1986年に鉄骨造で再現したもの。つまりレプリカだ。
レプリカなんて…と言う人もいると思うが、これほど“街の顔”としての役割を果たしている駅舎はそうそうないと私は思う。ライトアップも雰囲気があっていい。
使われ方も画期的。改札以外は、ほぼまるごと「スタバ」なのだ。
「伊予鉄道道後温泉駅の駅舎を一棟まるごとスターバックスとして出店している店舗です。(中略)1階のバーカウンターは枕木で仕上げ、バーの奥に設けた窓からは、バリスタ越しに電車が行き交う様子をご覧いただけるなど、旅の始まりのような心高まる演出を施しました」(スターバックスコーヒーの公式サイトより)
2階の窓際席で、車両が行き交うのを見ながらコーヒーを飲んでみた。旅気分が高まる。
閉じた正岡子規と、開いた木造基地
温泉街へは駅から北に向かうのだが、時間があれば、東に数分歩いて道後公園の一画にある「松山市立子規記念博物館」へ。
◆松山市立子規記念博物館
松山市道後公園1−30
設計:石本建築事務所
竣工:1981年
参考サイト:https://shiki-museum.com/
松山の偉人といえば、俳人の正岡子規。同時代の軍人、秋山好古・真之兄弟と併せて「松山の三傑」とも呼ばれる。秋山兄弟の資料館である「坂の上の雲ミュージアム」(設計:安藤忠雄、後日リポート予定)の開放的な外観と比べると、なんて閉じた外観……。正岡子規の人生と苦悩を外観でも表現している?
そこから、北東方向に少し寄り道。宝厳寺という大きなお寺の前に、「ひみつジャナイ基地」がある。2020年5月に完成した松山市の交流施設だ。
◆ひみつジャナイ基地
山市道後湯月町2−41
設計:松本樹(原案)、白石卓央
竣工:2020年5月
参考サイト:https://dogo-art.com/himitsujanaibase/
以下、公式サイトから引用。「2019年5月30日から2021年2月28日まで開催された、「日比野克彦×道後温泉 道後アート2019・2020『ひみつジャナイ基地プロジェクト』」のプログラム、「ひみつジャナイ基地(交流拠点)をつくる。」で、様々な人が集う交流拠点をつくるため、設計コンペを実施し(提案者は29歳以下、全国から32件の応募)、審査委員長の日比野克彦氏をはじめ、建築家や地元関係者らが採用した、当時大学院生(愛知工業大学大学院)だった松本樹さんのアイデアをもとに制作されたアート作品です」。
審査員の1人は建築家の藤村龍至氏だった。設計は地元の建築家である白石卓央氏(愛媛建築研究所)がサポートした。風でゆがんだ傘みたいな木造架構が面白い。建て具を外すと、円形平面の半面が全開放になる。
2つの共同浴場が並ぶ不思議な風景
そこから西へ坂を下って、温泉街の中心に戻ろう。「道後温泉本館」は現在、耐震補強を含む保存修理工事中なので、ひとまず飛ばして、そこから200mほど西にある「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)」へ。建築家の内藤廣氏が基本構想を担当した共同浴場だ。
◆道後温泉別館 飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)
松山市道後湯之町19−番22
設計:鳳建築設計事務所
竣工:2017年
参考サイト(グッドデザイン賞):https://www.g-mark.org/award/describe/48030
道後温泉本館が工事に入ることを見据えて松山市が建設した別館。2階には、本館のような大広間の休憩室がある。塔をシンボルとした全体のデザインも本館を思わせる。
この別館の東側にはもう1つ、市の共同浴場がある。正確には中庭を囲むようにコの字につながっている。こちらは、70年近い歴史がある「椿の湯」だ。
◆椿の湯
松山市道後湯之町19−22
設計:永和企画設計
竣工:1984年
参考サイト:https://dogo.jp/onsen/tsubaki
椿の湯は、1953年に国体が四国各県で開催された際に建設された。現在の建物は1984年に建て替えられたもの。飛鳥乃湯泉の建設とともにリニューアルされ、2017年に再オープンした
浴室の空間は飛鳥乃湯泉よりも、こちらの方がダイナミック(と私は思う)。共通券はないけれど、両方を入り比べるのも一興。
現在、中庭には写真家の蜷川実花氏の色鮮やかな写真作品が一面に広がっている。展示期間は2021年10月27日から2024年2月末まで。
ちなみに、今年の夏に来たときには、こんな感じでそれもすごく良かった。
滞在先の「古湧園 遥」もすごい
共同浴場でひと風呂浴びてから、ホテルにチェックイン。今回私が宿泊しているのは、老舗ホテルながらピカピカに新しい「道後 古湧園(こわくえん) 遥」だ。
◆道後 古湧園 遥
松山市道後鷺谷町1−1
設計:井上輝美建築事務所+都市開発研究所
竣工:2019年
参考サイト:https://www.kowakuen.com/facilities/zeb.html
参考サイト(井上輝美建築事務所+都市開発研究所 ):https://inoue-ao.com/r-kowakuen2019r.html
道後温泉本館から至近距離にある「ホテル古湧園」を建て替えて、2019年に再オープンした。
このホテル、とにかく風呂が絶景。斜面の上に立ち、さらに浴室が最上階にあるので、「絶対にどこからも見られない」あるいは「見るなら見ろ」という思い切った全面開口だ。
露天風呂もしかり。私のような露天風呂好きにはたまらない滞在場所。こんなところに4泊もできて、大感謝である。
調べてみたら、このホテルは「ZEB Ready(ゼブ・レディ)」「BELS認証五つ星」の省エネ建築だった。老舗が最先端ってかっこいい。
「道後舘」は黒川紀章の佳作
今回の締めは黒川紀章。「古湧園 遥」から北に数分歩いたところに、道後でも大きなホテル「道後舘」がある。黒川紀章の作品集にはほとんど載っていないが、公式サイトの冒頭に「現代建築の巨匠 黒川紀章『夢の結晶、道後舘へようこそ』」と書いてあるので間違いない。ちなみに、前職の「日経アーキテクチュア」には載っていた。
◆道後舘
松山市道後多幸町7−26
設計:黒川紀章
竣工:1989年
参考サイト:http://www.dogokan.co.jp/
大味でがっかりということも多い黒川建築だが、この外観はすごくいい。全体の造形も、プレキャストコンクリートの外壁も、和風かつ現代的。ここには以前に泊まったことがあるので、いかにも黒川紀章らしいロビーの写真も参考に。
さて、今回巡った建築はこんな感じだ(赤ピン)。
1年以上更新していなかったBUNGA建築MAPも更新したので、ご参考まで。(松山辺りを拡大してみてほしい)
次回はいよいよ「道後温泉本館」をリポートする。(宮沢洋)
次回の記事:道後温泉本館(2021年10月23日公開予定)