視線の抜けでレンガ特有の“圧”を払拭、「枚方市総合文化芸術センター」/江副敏史氏の最新3ホール(2)

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姫路から新幹線と在来線、京阪を乗り継ぎ、大阪府枚方市へ。江副’s最新3ホール巡りの2つ目は、昨年8月にオープンした「枚方市総合文化芸術センター」だ。

(写真:特記以外は宮沢洋)

枚方市駅を下り、関西医大方面に歩いて数分、緑に包まれた広場の中にゆったりと立つ。駅の近くで、この緑との一体感は気持ちがいい。

ここで、主役の江副敏史氏(日建設計フェロー役員デザインフェロー)が登場。担当の小畑香氏(日建設計 設計部門シニアプロジェクトアーキテクト)とともに案内してくれた。

江副氏は「コンパクトなホールを目指した」という。ここに限らず、近年手掛けたホールでは、階高を抑えて身の丈に合った寸法にすることで、建設費を抑え、維持管理費も抑えることができるという。なるほど、ホールというとバーンと天井高の高い空間の連続を考えてしまうが、10件以上ホールを設計してきた人だからこそのアプローチ。

透かし網代編みのようなレンガ積み

ここもデザインの主役はレンガだ。レンガのサイズは姫路よりも一回り小さい。

この施設は、ホール内に入らずとも、エントランスホールを中心とする共用スペースを見て回るだけで面白い。まず、「おっ」と思うのは、網代編み(透かし網代編み)のようなこのレンガ積みだろう。

この部分は、中にX字型の柱が入っている。つまり、柱をふわっと隠す網代編み風レンガ積みなのだ。

そして、空間的に面白いのが、目線よりも上に見える複数の光庭やテラス。

「コンパクトにする=階高を抑える」ことによって、圧迫感が増しそうなところだが、その階高の低さを逆手にとって、中2階のような微妙な高さであちこちに光庭が見えるようにしているのだ。断面図を見ると、1階・2階とも階高3m、天井高2.4mだ。

網代網みと分散型光庭によって、レンガ特有の“圧”が払拭されている。レンガの重厚感がないということではなく、重厚感がありながら圧迫感が薄れているのだ。感覚的な話なので、何とも表現が難しいが……。

階高を抑えるなら、そもそもふわっとした素材で空間をつくればいいのではないかとも思うが、江副氏は「レンガが好きなので」とピュアに答える。にくめない。そう、そういう個人の根底にある嗜好性から新しい表現は生まれるのだ。私もよく最初からデジタルで絵を描いた方が効率が良いと助言されるが、「サインペンのタッチが好き」なのだから仕方がない。おっと、話がそれた。

大ホールは「劇場初の放射空調」

大ホールは、ザ・レンガの空間。コンクリートスラブがリズミカルに重なる。

技術的には「劇場初の放射空調」を採用した点が画期的。前席の背板に放射パネルが設置されている。


小ホールとイベントホールは使用中で見られなかったのだが、中はこんな感じだ。

小ホール。音響反射板はレンガではなく、スギ材(写真:伊藤彰/アイフォト)

イベントホールはエントランスホールと一体に使える。レンガは黒っぽくて、墨のよう(写真:伊藤彰/アイフォト)

イベントホールのレンガ壁(写真:伊藤彰/アイフォト)

今回も強引にまとめると、この施設のポイントは「①公園かと思うほどゆったりした緑の広場」と「②重厚感がありながらも圧迫感を抑えたレンガ積み空間」だ。

そして、3件目の高槻へと向かう。(宮沢洋)

■枚方市総合文化芸術センター
所在地:大阪府枚方市新町2-1-60
延床面積:1万4383.75m2
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造
階数:地下1階・地上5階
発注者:枚方市
設計:日建設計
施工:前田建設工業