ちまたでは2026年度の日本建築学会賞作品賞のニュース(4月15日情報解禁)があっと言う間に広がっているようだ。知らなかった人のために言うと、今年度の受賞作は、「屋島山上プロジェクト」(SUO・周防貴之氏)、「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」(髙橋一平建築事務所・髙橋一平氏)、「金沢美術工芸大学」(SALHAUS・日野雅司氏、カワグチテイ建築計画・川口有子氏、仲建築設計スタジオ・仲俊治氏)だ。それらについては検索すると詳しいニュースがいくらでも出てくると思うので、BUNGA NETとしては栄えある日本建築学会賞大賞に我らが藤森照信先生が選ばれたことをお伝えしたい。

藤森氏がいかに面白い人かはすでにご存じだろうと思うし、知らなかったとしてもこの写真↑を見ればすぐにわかると思う。今回の学会の発表では、受賞理由を記した講評がめっぽう面白くて笑ってしまった。業績が多岐に渡り過ぎていて普通に書いても面白くなってしまうのか、それとも藤森テイスト(真剣を装ってふざける)を入れて笑わせようと思っているのか。いずれにしても、こんなに読んで楽しい講評は珍しいと思うので、全文引用する(画像は適宜筆者が追加したもの)。
建築についての歴史研究、啓発、設計の功績
名誉会員 藤森照信殿
藤森照信君は、1971年3月東北大学工学部建築学科を卒業、1978年に東京大学大学院工学系研究科博士課程を満期退学し、翌年に同大学において工学博士の学位を取得している。1982年に東京大学生産技術研究所専任講師に就任し、1985年同助教授、98年同教授となり、2010年の退職後は、東京大学から名誉教授の称号を授与されるとともに、2014年に工学院大学特任教授に、2016年から東京都江戸東京博物館の館長の任についている。
同君は、日本近代の建築と都市の歴史を探求した研究者としての功績に加えて、著作活動・講演活動の精力的展開を通じて、建築や都市の歴史への関心を一般の人に広く浸透することに貢献するとともに、建築家としても国際的にも広く知られる存在である。関連する活動を連関・発展させながら、建築界に留まらず一般社会に、建築の可能性を問うた一連の活動は、個人が成し遂げる領域を超える大きなものである。
こうした多彩な活動の中で起点となるのが、日本社会の近代化を建築と都市の変化を丁寧に見ることで解き明かした活動である。国立国会図書館憲政資料室、国立公文書館、東京都公文書館、外交史料館などの原資料を渉猟し、明治政府がどのように旧江戸を近代都市として作り変えようとしたかを明らかにした。明治の公文書が整理公開されつつあったという時期的条件もあるものの、現在広く行われている公文書から歴史的事実を明らかにしようとする方法の先鞭をつけたものとしても評価できる。一連の研究をまとめた『明治の東京計画』(1982)は、毎日出版文化賞を受賞し、現在も重要文献として活用されている他、近代建築史研究をまとめた『日本の近代建築(上下)』(1993)は、広く知られる基礎文献となっている。これらにより1998年日本建築学会賞(論文)を受賞している。


文献調査の一方、徹底した現場主義も同君の持ち味である。所属する村松貞次郎研究室で1970年の半ばから始めた近代遺産に関する悉皆的調査は、その後、多くの協力者を巻き込み多面的に展開されていく。これらは、歴史研究に実体的位置づけを与えるのみならず、本人が「相撲を取るように建築を見る」と語るように、物象を取り掛かりに社会を批評的に見る態度表明でもあり、同君の思想的な基軸ともなっている。埋もれていた近代建築を発掘し、意匠分析・文献調査に関係者へ聞き取りなどを肉付けし、大きな身振りで体系化するその活動は、急速に失われつつあった近代建築に光を当てる社会性も有している。また、「建築探偵」と名付けられた一連の活動は、『建築探偵の冒険』(1985)としてまとめられ、サントリー学芸賞を受けるなど、建築学を巷間に流布する現象を巻き起こす。

建築設計の領域でも1991年の神長官守矢史料館を機に、50棟を超える建築を設計している。自然素材を近代以前の手法で施工しながら大胆な内外の景やどこか懐かしい肌触りを実現したそれらの作品は、近代建築を相対化する批評的試みとして、わが国の建築家に大きな驚きをもって受け入れられる。代表作とも言える「熊本県立農業大学校学生寮」が2001年の日本建築学会賞(作品)を受賞している他、2006年にはヴェネツィアビエンナーレ第10回国際建築展を契機に、その価値は海外でも広く知られることとなる。

また同君は、本会の事業・運営に多大な貢献を行っている。特に、1997年~1998年にかけて図書理事として担当した会誌『建築雑誌』は、独自の視点からその可能性を大きく押し広げたものとして大きな評価を獲得している。前述のように、研究・設計の両方で学会賞を受賞し、建築の価値を世に問うたことが有す卓越性については、言うまでもない。
以上のように藤森照信君は、建築学術の展開とその普及に極めて大きな功績をあげ、その社会的な理解にも大きな功績を挙げている。
よって、ここに日本建築学会大賞を贈るものである。
・・・・・
大賞は他の賞と違って、一般公募ではないらしい。つまり勝手に選ばれる。選考委員が誰なのか、調べてもわからなかった。この講評を書いたのも誰なのかはわからないが、相当に藤森ファンの人が書いていることは間違いないと思う。
それがよくわかるのが、中盤に出てくる「相撲を取るように建築を見る」というフレーズ。これは、藤森氏が一般向けの本やインタビューなどでたまに口にする言葉で、筆者も“座右の銘”にしている。建築を語るときにいかに実物をじっくり見ることが重要かをこれほど適切に伝える表現を他に知らない。とはいえ明らかに専門家向けの本には出てこないこのフレーズを、藤森氏の本質として大賞の講評に含めているのが素晴らしい。これによって、筆者も“藤森照信の名言”として今後書きやすくなる。書かれた方、ありがとうございます!

講評の中の「関連する活動を連関・発展させながら、建築界に留まらず一般社会に、建築の可能性を問うた一連の活動」には、具体名こそ出てこないが「路上観察学会」も含まれると思われる。4月25日から金沢21世紀美術館で始まるこの展覧会にも追い風となるだろう。
路上、お邪魔ですか? 2026年4月25日(土)〜9月6日(日)
金沢21世紀美術館 展示室7〜12、14、デザインギャラリー、レクチャーホール
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=65&d=1852
そして、ひょっとしたらもしかしたら、その功績の1万分の1くらいは、筆者との共著である『画文でわかる モダニズム建築とは何か』(文:藤森照信・画:宮沢洋、2022年、彰国社)も含まれているかもしれない。藤森ワールド全開の本なので、この機にぜひご覧いただきたい。(宮沢洋)

文:藤森照信・画:宮沢洋。彰国社、2022年5月10日、A5判、128ページ、特色2色刷、1900円+税

アマゾンはこちら。
