福岡・天神のシェアオフィスでNKS2アーキテクツと若手がコラボ、注目の建築家・佐々木慧氏も巣立つ

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新メンバー・森清の初リポート!

 Office Bungaに加わって初の研修旅行で3年ぶりに福岡市を訪れた。ここ2年ほどずっと気になっていたシェアオフィスが中心地の天神にあり、取材にお邪魔した。末廣香織氏と宣子氏によるNKSアーキテクツが2020年にNKS2アーキテクツに名を変え、そのオフィスに入居。同事務所のパートナーを務める佐藤寛之氏がオフィス運営の中心を担っている。

シェアオフィス「SUZAKI-KOEN STUDIO」の初期メンバーのうちの3人。左手が佐藤寛之氏で、NKS2アーキテクツ取締役、佐藤寛之設計代表、須崎公園ビル管理組合組長を務める。真ん中が大庭早子建築設計事務所の大庭早子氏で、右手が中原拓海建築設計事務所の中原拓海氏(写真:森清)

 シェアオフィス「SUZAKI-KOEN STUDIO」は、中央区天神の雑居ビルの2、3階にある。NKS2アーキテクツ取締役の佐藤氏は、実はこの場で自身の事務所・佐藤寛之設計も営み、須崎公園ビル管理組合組長も務める。シェアオフィスが開設された2020年5月の初期メンバー、大庭早子氏(大庭早子建築設計事務所)、佐々木慧氏(axonometric)、中原拓海氏(中原拓海建築設計事務所)は、当時、福岡で設計活動を始めた時期だった。佐藤氏も含めて皆、1980年代生まれだ。

 佐藤氏はNKSに6年ほど勤め、担当する銘建工業本社事務所の設計を区切りに独立しようと考えた。そのとき、ちょうど末廣香織氏から「役員になってくれないか」と打診を受けた。独立する気も満々だった佐藤氏は、「どちらもやりたい」と答えた。NKS2アーキテクツと名を変えたのも、佐藤氏がパートナーとして加わったからだ。

 二足のわらじを履くために佐藤氏が提案したのが、個人のクリエーターと共有できる広いオフィススペースを借りることだった。「自分の仕事もこなしながらNKS2に通うのはたぶんストレスになる。自分も含めていろいろな個人に入ってもらえる場所にすればいいのではないか」と佐藤氏は考えた。

SUZAKI-KOEN STUDIOの2階、固定席のスペース(写真:NKS2アーキテクツ)
同STUDIOの3階、打ち合わせ用のフリースペース。イベントなどに1時間2000円で貸し出す(写真:NKS2アーキテクツ)

「NOT A HOTEL」で佐々木慧氏とNKS2が協働


 シェアオフィスの2階は12席の固定席を持つスペースで、3階は打ち合わせ用のフリースペースだ。3階の壁沿いには、模型の置き場兼展示スペースが連なる。料金は固定席1席が光熱費やプリンターなどの費用込みで月3万5000円。模型スペースを借りればプラス月5000円となる。現在、2席ほどの空きがあり、募集中だ。

 佐藤氏の提案は、若手設計者にとってもメリットは大きかったようだ。例えば、佐々木慧氏が設計を受注した「NOT A HOTEL FUKUOKA」(2023年完成予定)。NKS2が共同設計者となり、佐藤氏が担当している。こうしたコラボレーションによって、事務所を設立したばかりの若手が、規模の大きなプロジェクトに挑戦できる。

 佐々木氏は22年、大阪・関西万博2025の「ポップアップステージ(北)」の設計者に選定された。35歳以下の若手建築家による展覧会U-35でゴールドメダルも獲得。このシェアオフィスを9月いっぱいで“卒業”して博多区内にaxonometricの事務所を設けた。今回は話を聞けなかったが、次回はぜひ会いたい注目の人物だ。

SUZAKI-KOEN STUDIOのこれまでのメンバーと、同STUDIOで生まれたコラボレーションプロジェクト(資料:NKS2アーキテクツ)

福岡市内の商業プロジェクトもコラボで

 大庭早子氏もこのオフィスを卒業した1人だが、今もメンバーの中原拓海氏との協働で住宅の設計を手掛けるなど、シェアオフィスをハブとした関係が続いている。大庭氏は、「伊予西条 糸プロジェクト」の住宅設計コンペで、9組の1つに選ばれた。3人の共同設計だ。代表作は佐賀県武雄市に21年完成した「casa K _ 武雄の二段高床」。洪水対策のピロティを持つ戸建て住宅で、22年度の建築九州賞(作品賞)の最終審査に残っている。福岡県大牟田市でまちづくりの拠点施設に取り組むことなどから、仕事場を移した。

 もう1人の中原拓海氏は現在、九州大学BeCATで設計助手を務めながら、自分の事務所を持つ。中原氏もNKS2との共同設計で、話題プロジェクトを手掛けている。「キャナルシティ博多」の隣に22年内に開業予定の「010 Building」だ。食事をしながらショーを見られるシアターのほか、有名シェフが手がけるレストランなどが入る。「自分1人では受けられなかった。いろいろな協力体制があるこのオフィスにいたことは幸運だった」(中原氏)。

佐藤寛之設計が手掛けた「高宮の改修」。福岡市内に立つ分譲住宅の改修で、2022年6月竣工。現在、岡山県真庭市で住宅プロジェクトが進んでいる(写真:佐藤寛之設計)
大庭早子氏が設計を担当した「casa K _ 武雄の二段高床」。洪水対策のため1階を鉄骨造のピロティとした。2階は木造で、延べ面積は約160m2(写真:YASHIRO PHOTO OFFICE)
大庭氏と中原拓海氏が共同で設計している「casa Y」。福岡市城南区の専用住宅。木造で、屋根には光を通す断熱材を用いる(写真:大庭早子+中原拓海)
福岡市博多区の那珂川沿いに22年末開業予定の「010 Building」。食とエンターテインメントが融合した商業施設。NKS2アーキテクツと中原拓海建築設計事務所の共同設計(写真:NKS2アーキテクツ+ 中原拓海建築設計事務所)

末廣香織氏が若手を見守る

 こうしたコラボレーションの輪は、シェアオフィス内にとどまらない。例えば、久留米工業大学の設計プロポーザル。百枝優氏(百枝優建築設計事務所)とNKS2のチームが22年6月、設計者に選ばれた。百枝氏は、福岡市内の80年代生まれの建築家にあってはリーダー格だ。設計の実績を着実に重ねている。21年に長崎県佐世保市に完成した葬祭場「Farewell Platform」がアジアデザイン賞大賞の1つに選ばれた。「最近、佐々木慧君の活躍が目立っている。自分も負けてはいられない」と気を引き締める。

 福岡の80年代生まれの建築家で、もう1人忘れてならないのが岩元真明氏だ。九州大学の助教として建築教育に携わりながら、自身の事務所ICADA(千種成顕氏との共同主宰)で住宅をはじめ、設計活動を続ける。21年には集合住宅を改修した「桜坂の自宅」も完成した。

 佐藤氏は次のように語る。「設計で協力し合うのとは別に、シェアオフィスの枠を越えて若手設計者で集まって議論することも多い。しかし、お互いを褒め合うような緩い場にはしていない」。一方、大庭氏は「シェアオフィスでは、ベテランの末廣香織さんが見守ってくれているような安心感がある」と話す。守護神のように末廣氏が控え、若手が伸び伸びと活動する。それがこのシェアオフィスの最大の特徴といえよう。(森清)

百枝優氏(百枝優建築設計事務所)。九州大学BeCATでゲスト教員も務める(写真:森清)
長崎県佐世保市に21年完成した葬祭場「Farewell Platform」。アジアデザイン賞大賞を受賞(写真:YASHIRO PHOTO OFFICE)
岩元真明氏。九州大学助教で、同大学の環境設計グローバル・ハブに所属。BeCATの協力教員も務める。設計事務所ICADAを共同主宰する(写真:森清)
福岡市に立つ築30年超のRC造マンションの一住戸改修「桜坂の自宅」。岩元氏と夫人、2人の子どもが住む。可動書架を寝室の間仕切りに用いる。リビングとはポリカーボネート板製の建具で仕切る(写真:YASHIRO PHOTO OFFICE)

以下に登場人物の略歴をまとめた。

佐藤寛之(さとう・ひろゆき):1988年生まれ。2014年九州大学大学院人間環境学府修士課程終了、NKSアーキテクツ入社。20年NKS2アーキテクツ取締役、佐藤寛之設計代表、須崎公園ビル管理組合組長

佐々木慧(ささき・けい):1987年生まれ。2010年九州大学芸術工学部卒業。13年東京芸術大学大学院修了。藤本壮介建築設計事務所を経て21年axonometric設立

大庭早子(おおば・はやこ):1983年生まれ。2006年日本女子大学家政学部住居学科卒業、08年横浜国立大学大学院Y-GSA修了。長谷川豪建築設計事務所を経て12年サンパウロ(ブラジル)へ渡りNitsche Arquitetos 、Brasil Arquitreturaに勤務。15年大庭早子建築設計事務所設立。21年から九州大学BeCATゲスト教員

中原拓海(なかはら・たくみ): 1987年生まれ。2010九州大学工学部建築学科卒業、13年同大学大学院修了。隈研吾建築都市設計事務所を経て20年から中原拓海建築設計事務所主宰。同年から九州大学BeCAT設計助手

百枝優(ももえだ・ゆう):1983年生まれ。2006年九州大学芸術工学部卒業、09年横浜国立大学大学院Y-GSA修了。隈研吾建築都市設計事務所を経て14年百枝優建築設計事務所設立

岩元真明(いわもと・まさあき):1982年生まれ。2008年東京大学大学院修了。難波和彦+界工作舎、ヴォ・チョン・ギア・アーキテクツ(ベトナム・ホーチミン市)を経て15年ICADA共同主宰。16年九州大学助教、同大学環境設計グローバル・ハブに所属