GROUPが新宿百人町のWHITEHOUSEで「手入れ/Repair展」。山脇巌設計の三岸アトリエでも“手入れ”を行う

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 東京都新宿区百人町の会員制アートスペース「WHITEHOUSE」で、建築家コレクティブ「GROUP」による「手入れ/Repair展」が11月21日(日)まで開催されている。20日は一般公開日で、非会員も見られる。WHITEHOUSEの建物は、磯崎新氏のデビュー作として知られる「新宿ホワイトハウス」だ。

WHITEHOUSEで開催中の「手入れ/Repair展」。会期6日目、11月13日の様子(写真:特記以外は長井美暁)

手入れという「フォーム」のもとで

 「新宿ホワイトハウス」は磯崎氏の設計により、前衛芸術家・吉村益信氏のアトリエ兼住宅として1957年に建てられた。木造2階建て。1960年には吉村氏や篠原有司男氏、赤瀬川原平氏、荒川修作氏らが始めた前衛芸術運動「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ(ネオ・ダダ)」の拠点だったという歴史も有する。

 建物は1962年に画家の宮田晨哉氏に譲られ、さらに宮田氏の姪へと所有が移り、2013年から2019年までは「カフェアリエ」として使われていた。この間に、建物内を見に行った人も多いだろう。かくいう筆者もそのひとり。

 カフェアリエの閉店後はアートコレクティブ「Chim↑Pom」のアトリエとなり、2021年4月に会員制のアートスペースとして生まれ変わった。その際、建築家コレクティブの「GROUP」が改修を担当。改修の内容は、建物と塀の間の幅1.5mほどの細長い外部空間を、バー・カフェ・アートスペースのための庭としてつくり直すことだった。

 GROUPは、井上岳、大村高広、齋藤直紀、棗田久美子、赤塚健の5氏が共同主宰している。それぞれ1988年〜1991年の生まれだから、WHITEHOUSEの建物は彼らの2倍生きていることになる。

 そんな建物で展覧会を行う機会を得た彼らは、1階展示室の床の不具合を相談されたことから、床を修繕する過程を見せる「手入れ/Repair展」を企画した。ただ修繕過程を見せるのではなく、新宿という場所の歴史性を建物に重ね、5つの戯曲を交えて開示することを試みている。彼らの言葉でいえば、それは「建物への物質的な介入と、建物が存在している土地の歴史や記憶への応答」であり、“手入れ”はアートの新しい「フォーム」だという。

 公開されている工程表には、床の修繕工程とともに戯曲の設定や主な公演内容も書いてあり、「1967 新宿東口広場」「1998 新宿駅西口地下広場」「ギター演奏」「おしゃべり」といった文言が見られる。戯曲は三野新氏が手がけ、60年代から現在までに新宿で発生した、「都市空間での居場所の確保にむけた」5つの事件をもとにしているという。最後となる5つ目の戯曲は11月20日(土)の一般公開日に、「2021 新宿東宝ビル横広場」の設定で催される予定だ。

 下の写真は、会期初日の11月8日に催された戯曲のワンシーン。上の写真とは会場の様子が違うことがわかるだろう。手入れが進んだ今は、また変わったはずだ。

(写真:大村高広)
WHITEHOUSEの2階。壁に掛けられているのは“衣装”で、デザインスタジオ「well」がデザインした。本展では緑色がキーカラーとなっている(写真:大村高広)

「三岸アトリエ」の壁と旧玄関内部も修繕・改修

 「手入れ」といえば、GROUPは先ごろ、東京都中野区にある「三岸好太郎・節子アトリエ」の修繕工事を手がけた。三岸アトリエはバウハウスに学んだ山脇巌が設計し、戦前の1934年に建てられた木造モダニズム住宅だ。アトリエは現在、三岸夫妻の孫にあたる山本愛子氏と、その子息の山本潤氏が管理・運営している。DOCOMOMO Japanの選定作品であり、国の登録有形文化財でもある。

三岸アトリエの竣工時(写真:三岸アトリエ)
手前の平屋部分が玄関(写真:三岸アトリエ)

 三岸アトリエは東日本大震災でメインフロアの内壁の一部が損傷。また旧玄関は、雨漏り等による腐食・劣化が進み、建物のなかで最も損傷が激しく、立ち入り禁止状態だった。大がかりな修繕工事は資金面から困難なので、山本氏はやむなく簡易的な処置を施していたが、なんとかしなければならないとずっと悩んでいた。

 そんな折、アトリエ公開日にGROUPの井上氏が見学に訪れ、大がかりな工事とまではいかずとも修繕できること、工事費も抑えられることを提案。山本氏はGROUPに修繕を任せることにし、彼ら自身の手になる工事が10月に終わったところだ。

 「今までに建築関係の人はたくさん見学に来たけれど、直したいと言ったのは井上さんが初めて」と山本氏は話す。これまで閉鎖していた旧玄関は、壁の補強と屋根の補修を行ったことで強度面の心配がなくなって使えるようになり、かつてのアプローチも蘇った。

修繕後の玄関の様子。窓枠の青色は古い文献を参考にしているが、「当時は白黒写真しかないので決めるのが難しかった」と山本氏(写真:大村高広)
修繕後の玄関の窓(写真:大村高広)

 玄関の格子状の窓は、竣工当時のものに似せつつ、通風のために開閉できるように製作し、取り替えた。これにより、玄関のみならずアトリエ全体の空気が循環するようになったという。また、窓の外側に花壇をつくり、塀の内側を鏡面仕上げとし、外の光やグリーンが反射して玄関内部が明るくなるように設計されている。

 GROUPにとってはここでの手入れの経験が、WHITEHOUSEの「手入れ/Repair展」に生きているに違いない。会期中、残る一般公開日は11月20日のみだが、他の日も外から見ることはできるという。(長井美暁)

■展覧会概要
「手入れ/Repair展」
会場:WHITEHOUSE(東京都新宿区百人町1-1-8)

会期:2021年11月8日(月)〜11月21日(日)※一般公開は13日と20日/13:00〜20:00/火曜・金曜休み
公式サイト:https://7768697465686f757365.com/

工程表のダウンロードは こちら から