6000トンの巨石で覆った「消える建築」、隈氏の挑戦心を廣澤美術館で知る─茨城ルポ後編

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 隈研吾・茨城ルポの後編である。昨日の記事(隈建築が茨城県で続々完成、「茶蔵」「さかいサンド」など境町の5件全部見た!)を読んで、「隈研吾、木の建築ばかりじゃん」「手持ちのボキャブラリーを使い回し過ぎでは?」と思った方、ぜひ今回の記事を読んでいただきたい。「手持ちのボキャブラリーを使い回すこと」の是非については、私はむしろ肯定派で、それについて書きたいこともあるのだが、それは次の機会にする。今回はとにかくこの建築を見てもらいたい。

(写真:宮沢洋、以下も)

 なんだこれは! アンビリーバブル!!

 「廣澤美術館」である。茨城県筑西市のザ・ヒロサワ・シティ内にある。実はこの美術館は、まだ正式にはオープンしていない。予定では今年夏にオープンする予定だったが、コロナの余波で正式オープンが延びている。しかし、プレオープン企画だった「隈研吾建築模型展」の会期が、当初の「2019年6月24日~2020年5月31日」から「2020年12月末まで」に延び、今も見ることができる。しかも、プレオープン期間は入場無料!

 美術館の公式サイトには、「6,000t 1500個に及ぶ巨石が主役 石を主役とした美術館」とある。その言葉に嘘はない。

 隈氏は、石を使った建築をこれまでにもかなりの数手掛けており、最近では「角川武蔵野ミュージアム」でも大胆に石を使っている。だが、この建築はそのどれよりもダイナミック(私見)。展示室の平面は三角形のループ状で、外側三方向の外壁は、積み上げられた巨石でほぼ隠されている。屋根の架構は木だが、印象としてはまさに「石が主役」。 

 このびっくり建築は、どのように生まれたのか。美術館でもらった資料にはこう書かれていた。

 本美術館の設立は、(茨城)県内の有力企業を中心とする広沢グループの広沢清会長が20年ほど前から構想を温めてきたもので、その建設に生かそうと全国各地から集めた自然石の総数は、実に約6000トン(約1500個)にも及ぶ。(中略)隈氏は「やりたかったことは、石が主役で、建築は脇役とすること」「時間の経過とともに緑が育ち、建築がますます消える」などと話し、「時間とともに成熟する美術館」と説明している。(配布資料からの引用)

 補足すると、建築主の広沢グループは、つくば市に本社を置く金属プレス加工・精密金型設計製作の廣澤精機製作所を中心とする。筑西市には同グループが運営するゴルフ場や文化施設などを集めた「ザ・ヒロサワ・シティ」という一帯があり、この美術館はその中につくられた。

庭園は斎藤忠一氏と宮城俊作氏、施工は大成建設

 隈氏は、広沢清会長が集めていた石の量に圧倒され、「石で建築を消す」ことを考えたという。

 施工は大成建設。庭園整備には作庭家の斎藤忠一氏とランドスケープアーキテクトの宮城俊作氏が参加している。庭園散策も気持ちがいい。

無料でも見応え、「隈研吾建築模型展」

 正式オープン後は、横山大観や板谷波山など著名な作家の芸術作品を収蔵・展示する美術館となる。

 プレオープン企画の隈研吾建築模型展もなかなか見応えがあった。

 正式オープンの日程はまだ公表されていない。建築や庭園は「完成」と言ってよい状態に仕上がっており、現段階で見に行って損はない。繰り返しになるが、隈研吾建築模型展は年末まで。車があれば、前回リポートした境町と併せて、1日隈建築巡りはいかがだろうか。(宮沢洋)