速報ひろしま国際建築祭!②おもちゃ箱感が吸引力? 堀部安嗣、藤本壮介、川島範久らのビジョンを1日で聞く至福

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 神原・ツネイシ⽂化財団(広島県福⼭市、代表理事 神原勝成)は10⽉4⽇(⼟)、広島県福⼭市と尾道市の7会場で、総勢23組の建築家に焦点をあてた建築のイベント『ひろしま国際建築祭2025』を開幕した。総合テーマは「つなぐ─「建築」で感じる、私たちの“新しい未来”」だ。11月30日(日)までの58⽇間行われる。

 メディア・ツアーの初日に参加して、特に印象的だったのが、こういう↓“見たことのない並び”だ。

堀部安嗣⽒(左)と藤本壮介⽒(右)。そもそもこういうイベントではあまり見ることがない堀部氏。あちこち飛び回っていて体は大丈夫なのかと心配になる藤本氏。作風は天と地ほど違う2人だが、オープニングパーティーで普通に2人が並んでいるのを見てほっとした(写真:宮沢洋)
⽯上純也⽒と藤本壮介⽒の展示が並び合う。ともにイベントでは主役級の存在なので、こういう並びの展示は見たことがない

 この“おもちゃ箱感”こそが「ひろしま国際建築祭2025」の最大の売りと言ってよいのではないか。筆者(宮沢)はこれまで多くの建築展やイベントを取材してきたが、おそらくテーマが明確であればあるほど、こういう組み合わせは生まれにくいように思う。企画者側で「主役級は2人いらない」とか、「根底で考え方が違いそう」とか、大人の判断が働くからだ。でも、見る側はそんなことは関係なく、いろいろ見たいではないか。

 今回の「ひろしま国際建築祭2025」の総合テーマでうたっている「つなぐ」という言葉は、なんだか募金番組のような緩いキーワードだなとも思っていたのだが(建築系の人はこの手の言葉を避けたがる)、こういう“おもちゃ箱感”の楽しさやそれによる可能性を切り開こうという意図だったのだと気づき、拍手を送りたくなった。気が早いが、3年後の第2回もテーマの縛りを厳しくせずに、どんどんつなぎまくってもらいたい。

 では、前置きはこのくらいにして、メディアツアー初日の写真ルポに入ろう。公式サイトの説明文+宮沢のひと言でお伝えする。

(1)石上純也氏「雲がおりる」は到着せず!!

 スタートは、福山駅南口前にこの日の朝設置された“お詫び看板”から。何のお詫びかは、公式サイトに掲示されたお詫びニュースを(太字部)。

10月4日(土)よりJR福山駅南口にインフォメーションセンターとして設置を予定しております、建築家、石上純也氏の移動型キオスク「雲がおりる」は海外にて制作が完了し輸送中でございますが、台風など天候の影響を受け到着が遅れております。到着予定日が分かり次第、改めて皆さまにご案内申し上げます。楽しみにしていただいていた皆さまには、ご迷惑をおかけいたしますこと、心からお詫び申し上げます。石上氏設計のインフォメーションセンターが到着するまでは、仮設のインフォメーションセンターをJR福山駅南口に設置いたしますので、そちらをご利用ください。

本物が到着するまでの仮設テント

※到着の遅れに伴い、石上純也氏が短い時間ですがインフォメーションセンターに滞在し、自身が設計される移動型キオスク「雲がおりる」についてご説明・ご案内いたします。
日程:10月6日(月)10:00~10:30
場所:JR福山駅南口 (広島県福山市三之丸町30-1)

 注目プロジェクトの1つである「雲がおりる」が開幕日までに到着しなかったのである。石上氏のものづくりへの姿勢を知っている人にとっては「やっぱりね」と笑みすら漏れるこのニュース。でも今回は本当に開幕日に間に合うように梱包はしたそう。内々に聞いたところでは、現地に実物が設置されるのは10月10日ごろではないかとのこと。実物がなくても、10月6日(月)朝の石上氏自身による説明は行われるそうなので、お近くの方は貴重な石上氏の駅前プレゼンをぜひ聞きに行っていただきたい。

どういうものがやってくるのかは、この写真を手掛かりに

(2)時代を越えた福山出身建築家コラボ、藤井厚二×前田圭介

 福山駅の反対側(北口)にあるふくやま美術館へ。展覧会の1つ、「後山山荘(旧・藹然荘(あいぜんそう))の100年とその次へ|福山が生んだ建築家・藤井厚二」だ。

 これはすでにフライングでリポートしているので、こちらの記事↓を。

 ここでバスに乗り、福山市の南西側にある「神勝寺 禅と庭のミュージアム」へ。

 神勝寺到着。まずは、ただならぬオーラを放つこの小さな木造建築から。堀部安嗣氏の「つぼや」だ。

おお、小さな神殿

移動型キオスクー⼩さな建築プロジェクト01:「つぼや」堀部安嗣 x ウッドワン

建築祭の会場のひとつである広島県福⼭市の神勝寺 禅と庭のミュージアムにある、作庭家・中根⾦作⽒による枯⼭⽔庭園「無明の庭」に設置。普段は⽴ち⼊ることができない庭の中に期間限定で登場し、神勝寺本堂から⾒る「⼀幅の画」として、視覚的にも体験的にも⼼に刻まれる建築となります。「⽊の⽂化」の継承者であるウッドワンの哲学を反映しながら、⽇本の伝統的な⼿刻み⼤⼯技術を⽤い、⽻根建築⼯房が吉野檜無垢材による⼩屋を組み上げます。

総ヒノキの木造。釘や金物を使わず、嵌合で組み立てた。会期後はばらして保管。3年後のひろしま国際建築祭で再び使用する
参拝する建物ではなく、飲み物を売るショップ
階段を上って暑かったので、水出しほうじ茶を飲んでみた。おいしうございました

堀部安嗣⽒コメント
アーキテクチャー(Architecture)とは物理的なものではなく、茶道、柔道、武⼠道のような「〜道」ではないかと考えます。未来のための、過去から続く⼀本の道。その”道”の途中に存在する今回のプロジェクトでは、⽇本で今まさに失われつつある価値ある⾝近な素材や伝統的な⼿刻みの⼤⼯技術を継承してゆくために何ができるか、考えるよい機会にしたいです。尺貫法の6尺(1,820mm)×6尺(1,820mm)は⼀坪です。これが⼈の住まいや⼟地の基本となっています。この⼀坪という単位を『つぼや』でお楽しみ下さい。

裏側から見ても神々しい。堀部氏は「形式よりも、即物性を重視した。それぞれの部位にはそれぞれの理由があるので、それを考えながら見てほしい」と話す
そう言われると、細かいところをじっくり見たくなる…

(4)伝説の「丹下邸」復元は内田奈緒氏が設計

 続いて、無明院と明々軒で行われている「神原・ツネイシ文化財団 建築文化再興プロジェクト「成城の家」の写し――丹下健三自邸の再現・予告展」へ。

戦後日本の建築界をリードしてきた建築家・丹下健三が、東京・成城に自邸として設計した住居がありました(1953年竣工。現存せず)。その伝説的な住居を、瀬戸内海を見下ろす福山市内の丘の上に再現するプロジェクトが進行中です。この展示では、宮大工が制作した縮尺1/3模型と共に、丹下健三がこの住居のためにデザインした家具や愛用の品と当時の様子を伝える資料類を展示しながら、「過去」の自邸の姿、そして近い将来実現する「未来」の姿をご紹介します。

この1/3スケール模型は、森美術館で2018年に行われた「建築の日本展」のために制作されたもの

<企画概要>
名称:神原・ツネイシ文化財団 建築文化再興プロジェクト「成城の家」の写し――丹下健三自邸の再現・予告展
会期:2025年10月5日(日)- 2025年11月30日(日)
会場:神勝寺 禅と庭のミュージアム(無明院・明々軒)
広島県福山市沼隈町大字上山南91
出展建築家:丹下健三
特別協力:内田道子、溝口至亮(GALLERY-SIGN)
協力:おだわら名工舎

 最終目標の「写し」(1分の1の復元)は、3年後のひろしま国際建築祭を目指しているそう。確認申請を要する「建築」なので、建築家が設計している。内田奈緒、藤井愛(まな)、寺田慎平の3氏による共同設計だ。内田奈緒氏については、別の記事で載せた彼女のプロフィルがこれ。

内田奈緒(うちだなお)/建築家(nao architects office主宰)。東京生まれ。 2010年より日本デザインセンター・原デザイン研究所にて空間、建築関係のプロジェクトに携わる。2016年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。 在学中の2014-2015年にスイス連邦工科大学(ETH)留学。 修了後、デザインオフィス<nendo>に在籍し、国内外でインスタレーションや展覧会の会場構成、建築・家具のデザインを担当。現在は<nao architects office>を主宰し、建築や内装、家具等の設計に従事。また、バーゼルと東京を拠点とする建築設計事務所<an-a-c>共同主宰。日瑞建築文化協会(JSAA)理事。

 会場で会ったのだが、写真を撮り忘れてしまった。顔写真入りの内田氏の記事はこちら↓。 

(5)「未来を担う5組の建築家」はこの人たち

 ひろしま国際建築祭2025の目玉の1つである「NEXT ARCHITECTURE |「建築」でつなぐ新しい未来」は本堂のピロティで行われている。

堀部氏の「つぼや」の前から本堂を見る

『ひろしま国際建築祭2025』のテーマ「つなぐ — 「建築」で感じる、私たちの“新しい未来”」に呼応し、未来を担う5組の建築家がそれぞれの視点から新たなヴィジョンを提⽰する試みです。現代の建築家たちは、建築を近代が追い求めた⼈⼯的な装置としてではなく、地球と響き合う有機的な存在として捉え直しています。「海」、「⾃然」、「市⺠」、「⾵景」、「宇宙」との視点から構想された5つの提案は、環境と社会の新たな結びつきを探るものであり、建築がいかにして私たちの未来を形づくるかを問いかけます。

会場風景

<企画概要>
名称:NEXT ARCHITECTURE |「建築」でつなぐ新しい未来
会期:2025年10月5日(日)- 2025年11月30日(日)
会場:神勝寺 禅と庭のミュージアム(無明院下・特設会場)
広島県福山市沼隈町大字上山南91
出展建築家:藤本壮介、石上純也、川島範久、VUILD/秋吉浩気、Clouds Architecture Office

 これは個別に見ていこう。

(5-1)川島範久氏は2つの体験型インスタレーション

 川島範久氏は「NEXT ARCHITECTURE」に出展している5組の中でも、別格の扱いとなっている。このイベントのためにつくった実物が2つあるのだ。いずれも「自然と建築」をテーマにした体験型のインスタレーション作品。

1つは屋外に設置したこのコンポスト。蛇のようなレシプロカル構造

川島範久
1982年、神奈川県生まれ。2005年東京大学工学部建築学科卒業。2007年東京大学大学院修士課程修了。2007~2014年日建設計。2012年UCバークレー客員研究員。2014~2020年東京工業大学助教。2016年東京大学大学院博士課程修了、博士(工学)取得。2017年川島範久建築設計事務所設立。現在、明治大学准教授、川島範久建築設計事務所代表。「自然とつながる建築」をめざして、デザインの実践と研究に取り組んでいる。2014年「NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)」にて日本建築学会賞(作品)、2024年「GOOD CYCLE BUILDING 001」にて日本建築学会作品選奨を受賞。主著に『環境シミュレーション建築デザイン実践ガイドブック 自然とつながる建築をめざして』(彰国社,2022年)。

もう1つは、本堂ピロティにつくった子どもの遊び場

 2つは機能的にセットとなる建築で、その趣旨はこのパネルを見てほしい。キーアイテムは「落ち葉」だ。

(5-2)VUILDの秋吉浩気氏は木造スタジアムの模型を展示

 「みんなの建築大賞2024」の受賞でさらに勢いを増している気がしているVUILDの秋吉浩気氏。最新の話題である「福島ユナイテッドFCホームスタジアム計画案」の模型などを展示している。

VUILD/秋吉浩気
1988年、大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科政策・メディア専攻X-design領域にてデジタルファブリケーションを専攻。2017年に建築テック系スタートアップVUILDを創業し、「建築の民主化」を目指す。デジタルファブリケーションやソーシャルデザインなど、モノからコトまで幅広いデザイン領域をカバーする。主な受賞歴にUnder 35 Architects exhibition Gold Medal賞(2019)、グッドデザイン金賞(2020)、Archi-Neering Design AWARD 最優秀賞(2022,2024)、みんなの建築大賞大賞(2024)、iF Design Award Gold Award(2025)。著書に『メタアーキテクト─次世代のための建築』(スペルプラーツ出版刊 2022年)、『建築家の解体』(VUILD BOOKS刊 2022年) 。

 「福島ユナイテッドFCホームスタジアム計画案」の詳細はこちら↓。

(5-3)Clouds Architecture Office緊急来日!

 日本よりもむしろ世界で注目されているClouds Architecture Officeの2人もこの日のために来ていた。

Clouds Architecture Officeは建築設計・アート・リサーチ分野の幅広い知見を統合する創造性に焦点をあてた活動を目的として、曽野正之(1970年生まれ)とオスタップ・ルダケヴィッチ(1973年生まれ)によりニューヨークで2010年設立。2015年曽野祐子参加。理念と実体験の交点を探る環境の知覚体験を根幹に置く設計手法により多様なプロジェクトを提案し、これまでに住宅・公共施設からパブリックアートや宇宙建築に至る幅広い設計に携わる。Clouds AO(クラウズ・アオ)の設計過程における特徴は、必要なプログラムに対する徹底したリサーチ及び多面的なデザイン・スタディを通じ最良の解法を導くプロセス重視のアプローチにある。

2015年NASA火星基地設計コンペ優勝、同コンセプトのNASAとの共同設計を開始。2018年ANAとJAXAによる宇宙開発実証実験施設「AVATAR X LAB」を発表。2022年には福岡の複合施設「010 BUILDING」を手がけた。現在ウクライナでの3Dプリントによる復興支援プロジェクトをSerendix、国連工業開発機関と共に進行中。

(5-4)藤本壮介氏は次回建築祭での「海島」実現を目指す

 そして藤本壮介氏の「共鳴都市2025」と「海島」。

 「海島」は瀬戸内海に浮かぶ新しい宿泊型船舶の提案だ。東京・六本木の森美術館で開催中の「藤本壮介の建築:原初・未来・森」(7月2日~11月9日)でも展示されていて、てっきりイメージ提案なのかと思っていたのだが、実施前提で、しかもできれば次回のひろしま建築祭での実現を目指しているという。

 石上氏は明日、広島入りの予定とのこと。話が聞ければ次回に。

 ひろしま国際建築祭の建築祭パスポート購入などの詳細はこちら。→https://hiroshima-architecture-exhibition.jp/passport-ticket/

 明日(次回)はいよいよ本丸の「ナイン・ヴィジョンズ」@尾道市立美術館へ。(宮沢洋)

内輪ネタになるが、本堂で行われたオープニングレセプションも何枚か。乾杯の挨拶は藤本壮介氏
前列左が神原・ツネイシ⽂化財団の神原勝成代表理事。右が総合ディレクター白井良邦氏(神原・ツネイシ文化財団理事/慶應義塾大学SFC特別招聘教授)
雨の予報だったが、小雨がぱらつく程度で、夕方には日が差してきた