福山・尾道で「ひろしま国際建築祭」が2025年秋に初開催! プリツカー賞受賞の日本人建築家8組9人の企画展など

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 「ひろしま国際建築祭 2025」が広島県福山市と尾道市を中心に2025年10月4日(土)から11月30日(日)まで開催される。主催は一般財団法人神原・ツネイシ文化財団で、総合ディレクターは白井良邦氏、チーフキュレーターは前田尚武氏が務める。

11月8日に行われた記者発表会にて。「ひろしま国際建築祭 2025」総合ディレクターの白井良邦氏(右)、チーフキュレーターの前田尚武氏(左)、出展者の1人である建築家の伊東豊雄氏(写真:宮沢洋)

芸術祭のゴールデンイヤーである2025年

 「ひろしま国際建築祭」は2025年を皮切りに3年に一度、広島県内で開催する“建築文化の祭典”だ。建築文化により「未来の街をつくり、こどもの感性を磨き、地域を活性化させ、地域の“名建築”を未来に残す」ことをミッションとして掲げている。今回の発表まで「構想10年」と総合ディレクターの白井氏は話す。

 2025年は「瀬戸内国際芸術祭」「岡山芸術交流」「国際芸術祭あいち」が3年に一度開催される“芸術祭のゴールデンイヤー”だ。さらに「大阪・関西万博」の開催も重なる。「ひろしま国際建築祭」の初回の会期はこれらのイベントとの回遊を見込んで設定したという。

記者発表会での説明資料より、2025年の主なイベントスケジュール(写真:長井美暁)

 開催地は広島県でも岡山寄りの福山市と尾道市が中心だ。福山では「ふくやま美術館(市民ギャラリー)」「iti SETOUCHI」「神勝寺 禅と庭のミュージアム」、尾道では「尾道市立美術館」「ONOMICHI U2」「LOG」などが会場で、他に瀬戸内海周辺のサテライト会場を複数予定している。入場料は2日間パスポートが2,000円、3日間パスポートが3,000円(いずれも予価、税込)。

ふくやま美術館(写真:福山観光コンベンション協会)
ONOMICHI U2(写真:せとうちクルーズ)
LOG(写真:せとうちクルーズ)

 総合ディレクターの白井氏はマガジンハウスで雑誌『Casa BRUTUS』の創刊に準備段階から関わり、2007年から16年には同誌の副編集長を務め、建築や現代美術を主に担当していた。2017年せとうちクリエイティブ&トラベル代表取締役に就任し、客船guntû(ガンツウ)など富裕層向け観光事業に携わり、2020年編集コンサルティング会社アプリコ・インターナショナルを設立。現在は月刊誌『Sustainable Japan Magazine by The Japan Times』編集長とともに慶應義塾大学SFC特別招聘教授を務めている。

 一方、チーフキュレーターの前田氏は一級建築士と学芸員の2つの資格を持ち、森美術館在籍中は現代美術を中心に50展以上の展示デザインを手掛けるだけではなく、「メタボリズムの未来都市展」や「建築の日本展」などの建築展を企画。2019年に移籍した京都市京セラ美術館でも「モダン建築の京都」展を企画した。また、「京都モダン建築祭」の立ち上げメンバーでもある。

記者発表会で概要などを説明する白井氏(右)と前田氏(写真:長井美暁)

プリツカー賞の日本人受賞者にフォーカスする展示

 このように知見と経験が豊富な2人が「ひろしま国際建築祭」ではタッグを組んだとあって期待が高まる。2025年の総合テーマは「つなぐ──『建築』で感じる、私たちの“新しい未来”」。目玉となる展示企画は「ナイン・ヴィジョンズ:日本から世界へ 跳躍する9人の建築家」と「丹下健三自邸復刻プロジェクト」の2つだ。

 前者では“建築界のノーベル賞”と言われるプリツカー賞を受賞した日本人建築家8組9人(丹下健三氏、槇文彦氏、安藤忠雄氏、妹島和世氏・西沢立衛氏、伊東豊雄氏、坂茂氏、磯崎新氏、山本理顕氏)に焦点を当てる。プリツカー賞の受賞者数は、国籍別で日本が世界最多を誇る。なぜ日本の建築家は世界で評価され、どのようにして世界レベルに達したのか。前田氏は「建築家のヴィジョンとアプローチを表現した、インスタレーション中心の展示になる」と話す。会場の尾道市立美術館は安藤氏が改修設計を手掛け、尾道水道を一望できる千光寺公園内にある。

尾道市立美術館。スタジオ・ムンバイが設計した「LOG」や、青木淳氏と品川雅俊氏のASが設計した千光寺頂上展望台「PEAK」はこの近く(写真:尾道市立美術館)

 「丹下健三自邸復刻プロジェクト」は、丹下氏が設計した数少ない住宅である自邸(1953年竣工、木造、現存せず)を福山市内に再建するプロジェクトだ。丹下氏の息女・内田道子氏の監修のもと、神原・ツネイシ文化財団が進めている。丹下氏の自邸は桂離宮など古建築を再解釈して設計され、モダニズム建築の新たな可能性を拓いた名作と讃えられており、2018年に森美術館で開催された「建築の日本展」では1/3スケールの模型が再現展示された。「ひろしま国際建築祭」では森美術館が保管するその材を借りて、神勝寺の本堂「無明院」内に組み立て、復刻プロジェクトの全貌を紹介する。なお、復刻プロジェクト自体の具体的な場所や完成時期は「まだ公表できる段階にない」という。

神勝寺 禅と庭のミュージアムの無明院(写真:神原・ツネイシ文化財団)
「住居(丹下健三自邸)」設計 / 丹下健三 1953年(現存せず) 模型 / 1:3 2018年 W6790 D3440 H2215 制作監修 / 森美術館、野口直人 制作 / おだわら名工舎 展示風景 /「 建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」森美術館(東京)2018年(写真:来田 猛、森美術館)

 神勝寺は「禅と庭のミュージアム」の名を掲げ、約7万坪の境内には新旧様々な建物が点在する。例えば、藤森照信氏が設計を手掛けた寺務所「松堂」、彫刻家の名和晃平氏が主宰するSANDWICHの設計によるアートパビリオン「洸庭」、臨済宗中興の祖と称される白隠禅師の禅画・墨蹟の常設展示館「荘厳堂」、千利休の茶室を復元した「一来亭」などだ。それらの建物の間を結ぶように配された見事な庭園を散策しながら禅の世界に触れ、芸術鑑賞を楽しめる。ちなみに寺の開基は常石造船の2代目社長で、神原・ツネイシ文化財団代表理事の神原勝成氏はその孫に当たる。

 「ひろしま国際建築祭 2025」では他にも、総合テーマの「つなぐ」に沿って様々な企画を準備中だ。例えば会場の1つ、福山駅前の「iti SETOUCHI」では建築家たちが考える未来へのヴィジョンなどを紹介する。また、文化財に指定されている古建築や通常は非公開の現代建築などの特別公開、瀬戸内エリアに作品がある建築家や建築関係者を招いてのシンポジウムやトークイベントの開催、地元の小中学生向けのラーニング・プログラムの実施などを予定している。

iti SETOUCHI(写真:足袋井竜也)

「瀬戸内は近現代建築にとって聖地」と伊東豊雄氏

 11月8日に行われた記者発表会では後半、「ナイン・ヴィジョンズ」の出展者の1人である伊東氏も登壇した。伊東氏は尾道市内に「百島みんなの家」(2017年)や複合型コミュニティ施設「ボナプール楽生苑」(2024年)を設計した他、瀬戸内海を挟んで愛媛県今治市大三島に「伊東豊雄建築ミュージアム」がある。

白井氏を聞き手に瀬戸内地域の思い出や愛着を語る伊東氏(写真:宮沢洋)

 「学生時代の1964年に、1人で瀬戸内の建築ツアーをした。丹下さんの建築を中心に、広島ピースセンターや倉敷市庁舎(現・倉敷市立美術館)、香川県庁舎、今治市庁舎、他に前川(國男)さんの岡山県庁舎や芦原(義信)さんの香川県立図書館(現・香川国際交流会館)などを見て回った。戦後の近代建築は瀬戸内から始まり、そのエネルギーが未だに続いていると言ってもいい。瀬戸内は近現代建築にとってメッカ(聖地)のような場所だと思っている」。このように瀬戸内地域への愛着を語った。

 また、伊東氏がコミッショナーを務める熊本県の「くまもとアートポリス」では、建築祭に相当するようなイベントを4年に一度開催しており、「今年がその年に当たり、『持続する志-くまもとアートポリス36年-』をテーマに、11月に各種イベントを行う」と紹介した。

 「ひろしま国際建築祭」については「2025年の春に詳細をもっと発表できると思う」と白井氏。楽しみに待ちたい。(長井美暁)

来年が楽しみ!(写真:長井美暁)

■「ひろしま国際建築祭 2025」概要
開催期間:2025年10月4日(土)〜11月30日(日)
開催地:広島県福山市・尾道市+瀬戸内海周辺のサテライト会場
    福山エリア(ふくやま美術館、iti SETOUCHI、神勝寺 禅と庭のミュージアム、他)
    尾道エリア(尾道市立美術館、LOG、ONOMICHI U2、他)
入場料:2日間パスポート予価2,000円、3日間パスポート予価3,000円(いずれも福山・尾道共通パスポート、税込)
主催:神原・ツネイシ文化財団
後援:広島県/福山市/尾道市/一般社団法人せとうち観光推進機構/一般社団法人広島県観光連盟/広島商工会議所/福山商工会議所/尾道商工会議所/中国新聞社
総合ディレクター:白井良邦(神原・ツネイシ文化財団理事/慶應義塾大学SFC特別招聘教授)
チーフキュレーター:前田尚武(神原・ツネイシ文化財団主任研究員/京都美術工芸大学特任教授)
公式ウェブサイト:https://hiroshima-architecture-exhibition.jp/