あの「紫烟荘(しえんそう)」の原図も!「建築家・堀口捨己の探求」展@国立近現代建築資料館が開幕

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 東京・湯島の文化庁国立近現代建築資料館で「建築家・堀口捨己の探求 モダニズム・利休・庭園・和歌」が8月9日(金)始まるから始まる。前日の8月8日(木)に行われた内覧会に行ってきた。

(会場写真:宮沢洋)

 筆者(宮沢)ほど、ここで行われる展覧会を見続けている人も珍しいのではないかと思うが、そんな筆者でも今回は、9割以上が見たことのない資料だった。それもそのはずで、堀口捨己(すてみ、1895-1984)の図面類が国立近現代建築資料館に寄贈されたのは最近のことだという。それらを惜しげもなく展示している。だから、注意深く見ないと、すごいものを見逃す。特にこれ↓だ。

 わかっただろうか。建築好きならば、屋根の形ですぐにわかってほしい。若き堀口による“伝説”の住宅、「紫烟荘(しえんそう」(1926年、埼玉県川口市、火災により存在せず)だ。

 図面が残っていたのか! 

 本展はおおむね歴史順に展示室をぐるっと回る構成なので、最初期の実作である紫烟荘の展示は、入り口の一番近くにある。美術展でいえば、「モナ・リザ」とか「真珠の耳飾りの少女」とかが展示室の入り口脇にいきなりあるみたいな置き方だ。実は、筆者は最初、その主張の薄さもあって気づかずに通り過ぎてしまった。気づかず見ないで返る人もいそうなので、強調しておく。

これは宮沢画の「紫烟荘」

「小出邸」「吉川邸」と名作でたたみかける

 そして、紫烟荘の向かい側の展示ケースには、紫烟荘の前年に完成した堀口欧州視察後の第1作、「小出邸」の展示。

 これも図面が残っていたのか!

現在は江戸東京たてもの園にある小出邸(写真:宮沢洋)

 小出邸は1925年に東京都・文京区に完成。1996年に解体され、江戸東京たてもの園に移築されている。この住宅の素晴らしさは以前に書いたので、興味のある方は読んでみてほしい。

まるでモンドリアンな「小出邸」。反骨精神だけではない分離派・堀口捨己の美しき家 ~ 愛の名住宅図鑑08 「小出邸」(1925年)

 小出邸の展示から数歩歩くと、たたみかけるように現れる歴史的名作、「吉川邸」(1930年、東京都品川区、現存せず)。なんて美しいモダニズム的立面。筆者はこの立面が大好きで、これまで何度か描いたことがある。

 本展で、こんなふうに↓一部がカーブしていたことを初めて知った。堀口はこの住宅で表現主義からモダニズム(本展では「国際様式」と呼ぶ)に一気に転換したのだと思っていたのだが、このカーブは「完全にはモダニズムには染まらないぞ」的なメッセージにも見える。

 …と、こんな調子で書いていくと、1冊の本になってしまいそうなので、あとは会場を自分の目で見ていただきたい。

堀口は“飛び出す絵本”の監修をしていた

 ところで、本展は、会場に入る前のホワイエ部分にこんな実物大展示がある。

 本展のポスターにもなっている紙模型(右)を拡大したのだろう、ということはすぐにわかったが、何の模型なのかを知ってびっくり。てっきり実作(茶室)のスタディ風景だと思っていたのだが、そうではなかった。

 この原寸展示のタイトルは、「堀口捨己監修『茶室おこし絵図集』に基づく原寸茶室模型」。つまり堀口は、今でいう“飛び出す絵本”のようなものを監修していたのだ。それも茶室縛りで、12巻も!(墨水書房より1963~67年に発刊)

 それを知って、本サイトで連載をお願いしている五十嵐暁浩さんの折り紙建築作品のこれ↓と、ビビビッと頭の中でつながった。

週刊折り紙建築クイズ01:キノコみたいな茅ぶき屋根がかわいい1926年竣工のこの住宅は?

 堀口とやっていることが同じ! 生きているうちに見てもらいたかった。きっと大喜びしてくれただろう。 

 他にも「びっくりするほど似顔絵がうまい」とか、堀口の多彩さがわかる本展。誰が見ても面白い(わかりやすい)かは保証できないけれど、展示物のレアさは超ド級だ。会期は10月27日(日)まで。詳細は公式サイトの情報(以下)を参考に。宮沢洋

■展覧会概要
「建築家・堀口捨己の探求 モダニズム・利休・庭園・和歌」

建築家・堀口捨己(ほりぐち すてみ 1895-1984)は、国内最初の本格的近代建築運動とされる分離派建築会結成(1920年)に際して中心的役割を果たし、1930 年代には日本を代表する国際様式建築を実現しました。西欧の近代建築の動向をいち早く理解するとともに、国内の茶室や数寄屋建築に関する卓越した研究業績を残し、第二次世界大戦後には、現代数寄屋建築を実践して大きな影響を残しました。堀口は、1920 年頃から 1970 年代の日本建築界を代表する建築家であり、近代建築と日本の伝統建築双方に対して深い洞察を巡らせた稀有な建築家ということができるでしょう。茶の湯、和歌にも通じ、建築や庭園のデザインのみならず、広いジャンルで創造力を発揮しました。そこに、堀口の稀有な探求心と創造力の結実を見ることができます。

本展覧会は、堀口の学生時代から晩年に至るまでの代表作品のオリジナル図面に加えて、1920 年代欧州視察時の写真、分離派建築会展資料、茶室や庭園の実測研究資料、原寸茶室模型等の展示を通じて、建築家・堀口捨己の建築、思想、創造世界を総合的に紹介します。

主催:文化庁
企画:文化庁国立近現代建築資料館
協力:公益財団法人 東京都公園協会
   一般社団法人 日本建築学会 関東支部
   公益財団法人 窓研究所
   ヘットシップミュージアム(アムステルダム)
会場:文化庁国立近現代建築資料館
   (〒113-8553 東京都文京区湯島4-6-15 湯島地方合同庁舎内)
会期:2024年8月9日(金)~10月27日(日)

   休館日:毎週月曜日 但し、祝日の月曜は開館し翌日休館。
   (8月12日、9月16日、9月23日、10月14日開館、8月13日、9月17日、9月24日、10月15日休館) 
   ※会期中、一部展示入れ替えがあります。

時間:10:00-16:30入館方法:
・展覧会のみ観覧の場合(平日のみ)

湯島地方合同庁舎正門より入館。無料。都立旧岩崎邸庭園には入場できません。
・都立旧岩崎邸庭園と同時観覧の場合(土日祝及び平日)
都立旧岩崎邸庭園より入館。都立旧岩崎邸庭園入園料有料(一般400円)

■ギャラリートーク
講師:藤岡洋保(東京工業大学名誉教授)
(1)8月25日(日)13:00-14:00 ※先着30名、当日12:30より整理券配布
(2)8月25日(日)14:30-15:30 ※先着30名、当日14:00より整理券配布
(3)9月14日(土)13:00-14:00 ※詳細は後日
(4)9月14日(土)14:30-15:30 ※詳細は後日
(5)9月28日(土)13:00-14:00 ※詳細は後日
(6)9月28日(土)14:30-15:30 ※詳細は後日

企画運営、問い合わせ先:
文化庁 国立近現代建築資料館
TEL:03-3812-3401、Email:nama@mext.go.jp
公式サイト:https://nama.bunka.go.jp/exhibitions/2408