「方丈記に学ぶ」展は予想外の楽しさ、「生きる」には笑いも重要と気づかせる塚本由晴氏の名監修

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 プレスリリースを見て想像していたよりも、10倍くらい楽しい内覧会だった。東京都港区の「21_21 DESIGN SIGHT」で8月28日から始まる「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」だ。

導入部のギャラリー1。序盤は順当な方丈記展。「方丈」とは鴨長明が暮らした一丈四方(約9㎡)の小さな庵のこと(写真:宮沢洋、以下も)
ギャラリー2に入ると、なんじゃこれは! これが現代の方丈? ひねり過ぎではと斜め目線で見ていたのだが、実演したらすごかった!(後述)

 展覧会ディレクターは建築家で東京科学大学教授の塚本由晴氏。塚本氏がプロデュースするなら面白いかもと思ってはいたのだが、正直、筆者は「方丈記」というテーマがピンとこなかった。塚本氏は別用で内覧会に来れないと聞いていたので、行こうかどうか迷っていた。だが、行ってよかった。皆さんにもお薦めしたい。

内覧会ではビデオメッセージで登場した塚本氏

 本展の開催趣旨を引用する。

 13世紀初頭に鴨長明によって書かれた随筆『方丈記』には、移ろい続ける世の無常を前にした人間の生き方が記されています。彼が暮らした庵は現存しませんが、その言葉は時代をこえて度あるごとによみがえり、多くの実践を生み出してきました。文学作品でありながら、住まいの本質を問うものとして、しばしば「真の建築書」とも形容される所以です。本展は、『方丈記』に記された小さな建築「方丈の庵」を起点に、現代の暮らしと構築環境を見つめ直す展覧会です。

 現代の暮らしと構築環境を見つめ直す展覧会? まあ、ウソではないが、筆者の印象では「笑ったり、突っ込んだりしながら、現代の暮らしと構築環境についてじわっと考える展覧会」だ。教科書的な生真面目さは全くない。

 塚本氏自身は出展していない。しかし、塚本氏が選んだ8組の多様さが、塚本氏の考える「方丈記」の奥深さや広がりを表している。

参加作家:江頭慎、大室佑介+川長組、小渕祐介+中村純、正田智樹+竹中工務店+veig、須田悦弘、田部井美奈、2m26、山口晃

 全員を紹介すると会場に行く楽しみがなくなってしまうので、3組だけ紹介する。

小渕祐介+中村純「歩く方丈」

 まずは、小渕祐介氏+中村純氏の作品「歩く方丈」。今回、「これを見ただけでも来てよかった」と思った。

右が小渕祐介氏、左が中村純氏

 肩書を知らなければ、現代アートの作家かと思うルックスの2人。小渕祐介氏は東京大学大学院工学研究科建築学専攻准教授。専門は建築設計・コンピューテーショナルデザイン。世界の先端のコンピューテーショナルデザインを日本に導入し、プログラミングや3Dモデリングを駆使したデジタルファブリケーションを研究している。

 小渕氏は以前、隈研吾氏と組んだりもしていたので名前を知っていた。もう1人の中村純氏は、「大林組の中村純さんです」と紹介されて「ええっ?」と思った。もしや大林組設計本部長の中村純さん!?

 旧知の仲だというこの2人が出展した「歩く方丈」は、全力でばかばかしい提案だ。

これが展示された「歩く方丈」の上部
小渕祐介+中村 純「歩く方丈」のコンセプト模型(撮影:東京大学小渕研究室)

 当初は上の模型のように、中で演奏ができて、それ自体が歩いて移動できる方丈を計画した。だが、会場での安全面や体験のしやすさを考慮して上下別々に展示することに。しかし、それぞれのクオリティーがとんでもない。

展示された「歩く方丈」の下部。モーターで本当に動く。テオ・ヤンセンの「ストランドビースト」を思わせる

 そして、この上部(居室)がもっとすごい。内壁に並んで見える塩ビ管が楽器なのだ。コンプレッサーでここに空気を吹き込む。中村氏自らがこれを演奏。ぜひ音を聴いてほしいので、下記のユーチューブ動画を。

 おそらく世界初、塩ビ管のパイプオルガン! この人が設計本部長(2026年就任)って、これからの大林組設計本部は面白過ぎる!

 当初コンセプト通りにこれが1つの方丈として合体したら、きっと世界に巡回展示されるだろう。ただし、「昨日、ようやく完成したばかり」とのことで、これを期間中に実演するのかはまだ決まっていないそうだ。2人が毎日来るわけにはいかないと思うので、時間を決めて誰かが代演することを期待したい。

山口晃「螺庵(つびあん)」

 2組目は筆者が大ファンの山口晃画伯。この「螺庵(つびあん)」にも笑った。

 山口氏は、現代日本を代表する画家だ。今回はその圧倒的な画力を封印して、“煩悩”が満載の方丈をつくり上げた。

「自分にはすべてを捨てることはできない」。「自分にとってのユートピアをつくった」と説明する山口氏
トークが面白くて、会場の大爆笑をさらう

 

流しや調理器具を備える
螺(つび)とは巻貝のこと。螺旋状空間
上部。棺桶で寝て、毎朝新しい人生が始まる

 山口氏は複数の作品を展示しており、「庵案(あんあん)1」「庵案3」「庵案5」が21_21 DESIGN SIGHTの建築空間にからむ形で設置されている。山口氏の絵は日本画的な二次元性を突き詰めるスタイルだが、こういう立体作品も当たり前にうまいのが怖い。

2m26(deuxmetresvingtsix)「living with」

 もう1組は、2m26の「living with」。フランス出身のこの2人組だ。

左がセバスチャン・ルノー氏、右がメラニー・へレスバック氏、

 「あ、あの人たち」と思った人もいるかもしれない。「みんなの建築大賞2025ベスト10」に京都の「2m26 Atelier」が選ばれた「2m26(deuxmetresvingtsix)」のメラニー・へレスバック氏とセバスチャン・ルノー氏だ。

「2m26 Atelier」の母屋の前で。2025年1月に撮影

 2人は京都の小塩町という山間の村を拠点に、生活に関わるあらゆるものを設計し、自ら施工している。今回つくったこの方丈は、会期後に彼らの拠点に移設して、来客用の宿泊部屋にするという。

 というか、アトリエに置いて来客部屋にできる小屋を、この展覧会を利用してつくった、ともとれる。それって、提案ではなく、リアルな“もてなしの方丈”だ。

まるで宮大工のような施工精度

 方丈というテーマでこの2人に作品をつくらせたディレクターの塚本氏もさすがだ。

 塚本氏による本展の公式なメッセージはこちら↓。

■ディレクターズ・メッセージ(塚本由晴
 近年、大地震、台風、大火事などの災害が頻発し、現代の都市型社会の脆弱性が顕になっている。これに呼応するように安心安全、国土強靭化の掛け声が大きくなり、日常生活においても管理、監視が強められ、環境はより堅固な構造体に更新されていくが、それにつれて以前はできたこと、楽しめたことができなくなっている。またコメをはじめとする食品、電気などのエネルギーをサービスに依存しきっている生活様式は、将来的には農村の崩壊や、安全保障上の弱点につながることが予想される。こうした不自由や不安に向き合うためには、自分たちでできることを人に任せることに慣れきってしまった生活様式を見直していかなければならないのではないか。

 12世紀の京都に生まれ、人生の後半は宮廷やまちから離れて、日野山に建てた方丈の庵に隠遁した鴨長明の『方丈記』を読むと、彼の厭世的な気分の背景には、度重なる災害や飢饉、遷都、人間関係のストレスがあり、現代に接続するところが多い。生活様式を見直す助けとして方丈の庵を召喚して小さな建築を構想し、いつのまにか産業や制度によって編まれてしまった私たちの生を、もう一度自分たちで編み直すきっかけを掴む試行として、この展覧会を位置付けたい。 塚本由晴

 なるほど、「彼(鴨長明)の厭世的な気分の背景には、度重なる災害や飢饉、遷都、人間関係のストレスがあり、現代に接続するところが多い」とは、まさにその通り。笑いやばかばかしさも、「生きるを編み直す」ためには重要というのは、建築の専門家たちがこれまで避けてきた本質的な問いかけかもしれない。会期は2027年1月11日まで。(宮沢洋)

塚本氏が鴨長明に見えてきた
会場構成を担当したのは、塚本氏の教え子の正田智樹氏(TXTA建築設計事務所、写真右)。最近、竹中工務店から独立したが、同社の元・同僚たちと「蓑庵 マウン庭」(正田智樹+竹中工務店+ veig)を出展している

■展覧会概要
企画展「方丈記に学ぶ –生きるを編み直す小さな建築–」
会期:2026年8月28日(金)- 2027年1月11日(月・祝)

会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
休館日:火曜日(9月22日、11月3日は開館)、11月21日-23日、年末年始(12月27日-1月3日)

開館時間:10:00 – 19:00(入場は18:30まで)
※六本木アートナイト特別開館時間:10月31日(土)10:00 – 22:00(入場は21:30まで)
入場料:一般1,700 円、大学生800 円、高校生 500 円、中学生以下無料

主催:21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁、経済産業省、港区教育委員会
特別協賛:三井不動産株式会社
協賛:株式会社竹中工務店

展覧会ディレクター:塚本由晴
グラフィックデザイン:田部井美奈
会場構成:正田智樹

アーカイブ編集:大山 亮、増井柚香子(6lines studio)
学術協力:杉本欣久
参加作家:江頭 慎、大室佑介+川長組、小渕祐介+中村純、正田智樹+竹中工務店+veig、須田悦弘、田部井美奈、2m26、山口晃
21_21 DESIGN SIGHT ディレクター:佐藤 卓、深澤直人
アソシエイトディレクター:川上典李子
プログラム・マネージャー:中洞貴子
プログラム・オフィサー:安田萌音