発見された旧香川県立体育館の原図を原寸複写して展示、「沈みゆく船からの手紙」展

Pocket

 JR高松駅に隣接する高松オルネ4階のオルネアートギャラリーにて、展覧会「沈みゆく船からの手紙 旧香川県立体育館 発見された設計図展」が始まった。

(写真:磯達雄、以下も)

 旧香川県立体育館は、丹下健三+都市建築設計研究所と集団制作建築事務所による設計で、1964年に竣工。湾曲した縁梁から双曲放物面の屋根を吊るという独自の構造で、その形により「船の体育館」と呼ばれた。地域のスポーツ拠点として愛されてきたが、天井落下のおそれから2012年にアリーナへの立ち入りが禁止され、耐震改修工事の入札不調もあって、2014年に閉館する。サウンディング型市場調査で民間からの活用アイデアも出されたが採択されることはなく、2023年、県は解体を決定した。

 今回の展覧会では、意匠図と構造図、それぞれ3枚ずつを、原図から原寸大で複写して展示している。元になった原図のうち、意匠図は室蘭工業大学が所蔵しており、2012年に存在が確認されたもの。もう一方の構造図は、2023年の夏に、構造設計を担当した岡本剛(1915-94)が住んでいた家から見つかり、東海大学准教授の田中正史氏に託されたものだ。

 図面を目を凝らして見ると、修正の跡がわかる。例えば、完成した建物は4本の大柱で縁梁を支える構造だが、1階平面図には大柱を消した痕跡がかすかに残っている。当初は8本の柱で支える設計だったのだ。細かなところまで設計を詰めた段階であるにもかかわらず、そこからまた大幅な変更が行われ、その積み重ねによって、あの大胆で美しい造形が生まれたことが伝わってくる。

 展示では、図面と併せて、絵本のように旧香川県立体育館を連続解説したパネルが貼られている。展覧会の会場は、家族連れも多く訪れる駅ビルの中。建築の専門家だけでなく、子どもたちにも関心を持ってもらおうとの工夫だ。加えて展示の最後には、メッセージボードも用意。解体される旧体育館について、来場者が自由に発言できる場となっている。また会場の一角では、船の体育館の紙模型をつくるワークショップも開催している。

 展覧会の初日には、関連企画としてトークイベントも開催された。第1部は建築史家で京都工芸繊維大学准教授の笠原一人氏が「近代建築 保存再生への道のり」と題して基調講演 。第2部のトークセッションでは、笠原氏に加えて、展示に関わった、清水隆宏氏(愛知工業大学准教授)、田中正史氏(東海大学准教授)、木村拓実氏(オクタント建築都市研究所)が登壇。司会進行を、河西範幸氏(一般社団法人船の体育館再生の会代表)が務めた。

 丹下健三の没後、図面の所蔵は米国ハーバード大学デザイン大学院にまとめて移されている。貴重な建築資料の国外流出を防げなかったことは、日本の建築界にとって苦い経験となった。だからこそ原図の発見は快事であり、それを公開する意義は大きい。

 タイトルにある「沈みゆく船」は、旧香川県立体育館を指す。そして「手紙」とは図面のことである。発見された図面を展覧会の企画者たちは、解体される建物が最後に発したメッセージと受け止めた。それを地元の人たちみんなに読み取ってもらいたい。そんな思いが、この催しには込められている。

 会期は当初8月25日までの予定だったものが、9月17日までと延長されている。高松へ寄れる人は、貴重な機会を逃さぬよう。(磯達雄)

<開催案内>
沈みゆく船からの手紙 旧香川県立体育館 発見された設計図展
会場:JR高松駅ビル北館「高松オルネ」4階アートギャラリー
会期:2024年8月21日(水)~9月17日(火)
開館時間:10:00~20:00(最終日は18:00まで)
観覧料:無料
アクセス:JR高松駅 改札出口より徒歩1分

共催:一般社団法人船の体育館再生の会、愛知工業大学清水隆宏研究室、東海大学田中正史研究室

船の体育館 紙模型をつくろうワークショップ
会期中 13:00~18:00(随時受付・参加無料)
講師 : 建築家 平野祐一
公式サイトはこちら→http://kentaihozon.org/funekaranotegami/