〈前編〉に引き続き、大阪・関西万博の海外パビリオンから、建築的な観点から特に面白いと感じられたものを紹介していくが、その前に会場全体のデザインについて少し触れておこう。
海外パビリオンは、大屋根リングの内側で、〈コネクティング〉〈セービング〉〈エンパワーリング〉と、3つのゾーンに大きく分かれて配置されている。2005年の愛・地球博では、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカなど地域ごとにパビリオンをまとめたが、今回は地域をミックスしているため、賑わうところと寂しいところの違いが生まれない。また、間口があまり変わらず、奥行きの深さで広さのバリエーションを設ける敷地割を基本的に採用しているため、規模が小さいパビリオンも埋もれることなく自己主張できるようになっている。この会場デザインは、成功しているように思う。
バーレーンパビリオン/設計:リナ・ゴットメ

会場を歩いていると、大屋根リング以外にも木の構造物に多く出くわす。海外パビリオンで、その代表作と言えるのがこれだ。バーレーン王国の海洋文化を伝えるというのがコンセプトで、パビリオンも船のイメージから発想されている。左右対称の構成で、木材が上に行くつれて張り出し、うねるようなファサードを両側に見せる。トップライトと階段部の吹き抜けで、内部はどこも明るい。

設計者のゴットメは、ダン・ドレル、田根剛と組んでエストニア国立博物館の設計コンペを勝ち取り、実現させた建築家。大英博物館の改修プロジェクトも担当することが決まっている。日本側で設計を協力したのは、スイスパビリオンと同じMORF。磯崎新アトリエのメンバーから再編された設計事務所で、この万博では、ほかにコロンビアパビリオンも担当している。構造設計は梅沢構造設計事務所。
ウズベキスタンパビリオン/設計:アトリエ・ブリュックナー

これも木をフィーチャーしたパビリオンだ。1階は地下世界をイメージさせる土の建築。その展示空間から、観客は屋上へと導かれる。そこは木の柱が林立し、頂部はイスラムのパターンを想起させる組み方で連結されている。金物を使っていないので、木材を解体して再使用することも可能という。三角形の敷地を生かしたデザインでもあり、見上げたときの姿が実に美しい。

設計したのはドイツのアトリエ・ブリュックナー。日本側の設計事務所として協力したのは、クウェートパビリオンと同じく徳岡設計で、同事務所はほかにタイパビリオンも担当した。なお展示の中には、安藤忠雄が設計した、ウズベキスタン新国立美術館の模型も含まれているので見逃さぬよう。
ポーランドパビリオン/設計:インタープレイアーキテクツ

博覧会のパビリオンとは、とどのつまり、展示空間と環境性能を確保した箱に、人目を惹きつけるシンボリックな外皮を被せたものである。両者はそれぞれ別に考えればいい。今回の万博では、例えば隈研吾が担当した4つのパビリオン(シグネチャーパビリオン「EARTH MART」と、マレーシア、カタール、ポルトガルの各パビリオン)を見ると、そんな割り切りが感じられる。パビリオン建設の合理性からは、そういうことになるのだろう。しかし、一応はモダニズムの建築を学んできた立場からすると、箱と外皮はできるものなら一体であってほしい。そういった意味で、木組のピースを積んで曲面の壁を立ち上げ、それがそのまま外観に現れたポーランドパビリオンには、やはり好印象を持ってしまう。

設計したのはポーランドやフランスに拠点を置いて活動するインタープレイアーキテクツ。代表者のアリシャ・クビツカとボルジャ・マルチネスはともに隈研吾の事務所出身である。日本側の設計事務所として協力したコムワイスタジヲの行本昌史も、同じく隈事務所の出身。
フィリピンパビリオン/設計:カルロ・カルマ

アメリカやフランスといった大国のパビリオンと並んで、堂々と存在感を放っているのが、このフィリピンのパビリオン。CLTを使った木造の箱の外側に、鉄骨の足場で構造を組み、そこに籐細工と手織りの布のパネルが取り付けられている。これらはフィリピンの伝統工芸品であり、パビリオンのテーマである「WOVEN=編まれたもの」というテーマを象徴する。

デザインの手法としては、展示空間を生み出す箱の外側に特徴的な素材を貼り付けるというもので、隈研吾的ではあるのだが、手作り感のある素材がグリッド状に並んで、デコボコした表情を見せる様子が面白い。設計者はフィリピンの建築家、カルロ・カルマ。日本側の設計事務所として加納佑樹/catが協力した。構造設計は金田泰裕が担当。
アラブ首長国連邦パビリオン/設計:アーストゥイーサーデザインコレクティブ

アラブ首長国連邦(UAE)には、ナツメヤシの葉や幹を材料にして冷涼な住環境を実現する、〈アリーシュ〉という伝統的な住居形式がある。これをパビリオンのデザインに参照している。高さが16メートルにも達する柱は、農業廃棄物として多量に出るナツメヤシの葉軸を束ねたもの。これが90本林立し、その間を自由に歩きながら、展示を見るという空間構成になっている。ファサードは全面がガラスで、外から内部空間がまる見え。ファサードがない建築とも言え、隈研吾的な手法の対極にも位置付けられる。

設計者のアーストゥイーサーデザインコレクティブ(Earth to Ether Design Collective)はUAE、日本、そして世界各地のクリエイターたちからなる分野横断的なネットワークとのこと。ショップではこのパビリオンの平面図イラストが描かれたトートバッグを購入した。万博でゲットできた数少ない建築みやげである。

以上、〈前編〉と合わせて10件のパビリオンを紹介した。まだまだ見逃しているものも多いので、これからの訪問でさらにおススメのパビリオンを追加できるかもしれない。乞うご期待。(磯達雄)

前編を読む↓。