中村キース・ヘリング美術館の北川原温展は残り10日! 常識外の展示空間が生まれたプロセスを知る

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 山梨県・小淵沢の「中村キース・ヘリング美術館」で開催中の企画展「北川原温 時間と空間の星座」を見てきた。中村キース・ヘリング美術館2007年4月、キース・ヘリングを紹介する世界で唯一の美術館として、八ヶ岳の麓に位置する小淵沢に開館した。設計は北川原温氏。2008年に第21回村野藤吾賞を受賞している。

(写真:宮沢洋、以下も)

 この美術館は、傾斜した地形に沿って「闇から希望へ」というテーマのもとに、キース・ヘリングの作品をを体感する場だ。毎年異なるテーマによるコレクション展や現代を代表するアーティストを迎えての企画展などを開催し、国内外から多くの来館者を迎える。「北川原温 時間と空間の星座」展は、この美術館における北川原温氏(1951~)の初個展となる。

 企画展は会期が長い。本展もほぼ1年の長い会期だったが、2025年6月7日の開幕からなかなか行く時間がなく、このGWにようやく行くことができた。会期は2026年5月17日(日)まで。つまり、あと10日だ。

 以下、公式サイトの趣旨説明より(太字部)。

「北川原温 時間と空間の星座」は、中村キース・ヘリング美術館を設計した建築家・北川原温(1951-)の美術館における初個展です。北川原は、渋谷の映画館《ライズ》(1986)で都市の虚構性を建築に表現し、その後も独創的な建築を生み出し続け注目を集めてきました。 

本展では北川原の創作のソースを「星」、建築を「星座」に見立て、その方法論や生成の過程を探ります。《中村キース・ヘリング美術館》を構成する6つの要素「さかしまの円錐」「闇」「ジャイアントフレーム」「自然」「希望」「衝突する壁」を軸に、模型や資料を通じて建築のプロセスを紹介します。さらに、隣接するホテルキーフォレスト北杜では小淵沢に関連するプロジェクトの模型や資料に加え、写真家による北川原建築やコンセプトモデルをとらえた作品を展示。北川原の創作の重要なリソースでもある音楽や香りといった日常の身体感覚を示すものも展示します。

JR小淵沢駅では八ヶ岳山麓のプロジェクトと地域の魅力を紹介します。本展を通じて、《中村キース・ヘリング美術館》をはじめとした北川原建築を歩むことにより北川原氏の「宇宙」に迫る体験をができるでしょう。

案内図。グレー部分が北川原展。前半の黄色部分は、同時開催の「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」

以前は抵抗感があったのに、今見ると…

 ここで筆者(宮沢)のカミングアウトである。中村キース・ヘリング美術館には開館間もない頃(約20年前)にも見に行ったが、実はそのときには全く良さがわからなかった。むしろ抵抗感があった。

 一番の原因は自分の側にあって、キース・へリングの作品があまりに好き過ぎたからだ。

 キース・へリング(1958~90年)は1980年に、ニューヨークの地下鉄構内で使用されていない広告掲示板に黒い紙を張り、その上にチョークで絵を描くというサブウェイ・ドローイングと呼ばれる活動を始めた。1980年代後半には世界に知られるようになり、人気絶頂だった1990年2月に亡くなった(享年31歳)。イラスト少年だった筆者は、ほぼ線だけで構成されるその画風に大きな影響を受けた。

 この美術館ができたのは、亡くなってから17年後。キース・ヘリングを紹介する世界で唯一の美術館ができる!ということで、期待値が異常に高かった。そのため、その独創的な空間が自分にはマイナスに作用し、「もっとニュートラルな空間で見たかった…」と思ってしまったのである。

 ところが約20年ぶりに訪れると、自分の感じ方がまるで変わっていることに驚いた。 

 今回も全体の半分以上はキース・へリングの展示をしているのだが、“空間込み”で作品を見ることができた。邪魔くさいとは思わなかった。

 1つには、1度見ているので、脳が勝手にアジャストするのだろう。時がたってピカピカ感が弱まり、周囲の緑となじんだということもありそうだ。

この美術館をつくった中村和男氏とは?

 それらもあるが、最大の要因は、今回、予備知識として、オーナーである中村和男氏について少しだけかじってから見に行ったためだと思われる。

 以下は公式サイトの説明だ(太字部)。

中村キース・ヘリング美術館は2004年から3年をかけて館長・中村和男との対話の中で大きく姿を変えながら生み出されました。本展では、北川原温氏が構想を練る中で描き続けた未公開のドローイングや、インスピレーションを書き溜めたノートの手稿、重ねられるスタディの数々を「時間軸」に沿って紹介します。それらの資料から、美術館が生まれるまでの過程を追体験できます。

どのようにして「星座を描く」ように建築が組み上げられていったのか、構想がどのように形になっていったのか、その思考のプロセスを紐解きます。

 補足すると、中村和男氏はこんな人だ。

 中村和男:シミックホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長。1946年生まれ、山梨県甲府市出身。1969年京大薬学部を卒業。三共株式会社(現:第一三共株式会社)に入社。高脂血症治療剤「メバロチン」を担当。1992年に独立を決意して三共を退社、シミック株式会社の社長に就任。日本初のCROを創業。2008年金沢大学にて博士後期課程修了。近年では、臨床試験、創薬、科学技術振興などに関わる多数の国家プロジェクトに委員として参画しているほか、京都大学に於いて産官学連携フェローを務める──。

 製薬業界ではよく知られる研究者で実業家だ。そんな硬いイメージの人が、北川原氏がびっくりするほどエネルギッシュな夢想家だったらしい。

 その中村氏が、本展の会期中の2025年12月5日、心筋梗塞のため急逝した(享年78歳)。

展示の最後に加えられたメッセージ

 改めて考えてみると、この美術館は八ヶ岳キース・ヘリング美術館でも小淵沢キース・ヘリング美術館でもはなく、「中村キース・ヘリング美術館」だ。中村氏がキース・ヘリングに感じたものを含めて作品を鑑賞する場なのだ。プロセスを考えれば、「中村北川原キース・ヘリング美術館」であってもよかっただろう。普通の美術作品なら空間濃度が濃すぎて何だかわからなくなりそうだが、キース・ヘリングの作品はそれを跳ね返すくらいに強い。地下鉄構内からスタートしたキース・ヘリングの作品の圧倒的な強さがあってこそ成立する美術館なのだ。

 真っ白で垂直な壁に飾られたキース・ヘリングの絵は、これからもどこかの美術館で見られるだろう。この美術館での鑑賞体験は世界でここだけなので、北川原展が終わっても、ぜひ足を運んでみてほしい。北川原展の会期中に行けない方は図録↓をネットで。(宮沢洋)

『北川原温 時間と空間の星座』(北川原温著、中村キース・ヘリング美術館編集)。2冊組み。4400円(税込)。https://www.amazon.co.jp/dp/4990416880

■展覧会概要
展覧会名:「北川原温 時間と空間の星座」
会期:2025年6月7日(土)~2026年5月17日(日)
会場:

・中村キース・ヘリング美術館 9:00-17:00(最終入館16:30)
・ホテルキーフォレスト北杜 山梨県北杜市小淵沢町10248-1
11:00-17:00 ※一般観覧者は1Fロビーのみ、駐車場は美術館と共通
・JR小淵沢駅2階交流スペース 山梨県北杜市小淵沢町1024
※駅付近の市営駐車場をご利用ください
展覧会ページ:https://www.nakamura-haring.com/exhibition/13607