今回で第2回となる「東京建築祭2025」が5月17日(土)から始まった。初日の様子を写真中心にお伝えする。
なお、今回の会期は5月25日(日)まで。通常入れない建築を公開する「特別公開」は主に5月24日(土)、25日(日)の2日間だが、今回から増えた「特別展示」は5月17日(土)~25日(日)までの9日間ずっとやっているところが多いので、平日でもゆっくりと足をお運びいただきたい。

では、筆者が見た順にリポートしよう。
■5/17(土)9:30~10:30
【SEIKO HOUSE】時を紡ぐ銀座のランドマークを開館前に見学
まずは9:30集合のこのガイドツアー。東京建築祭公式サイトの説明にはこう書かれている(太字部)。
90年以上にわたり銀座を見守る「SEIKO HOUSE」開館前の特別見学です。ネオ・ルネッサンス様式を基調とした端正な建築は、戦前の日本建築界を代表する渡辺仁建築工務所が、当時の服部時計店の意向により設計したもの。今も時を刻み続ける時計塔の精緻な外観ディテールや、竣工当時の趣を受け継ぐ大窓のある階段空間、杉本博司と榊田倫之が主宰する新素材研究所による空間デザインで、日本の伝統技術や美意識を体現する新たな和光地階フロアへ。その歴史やデザインの魅力をご案内します。

【建築情報】
SEIKO HOUSE (旧 服部時計店)
竣工年│1932年
設計│渡辺仁建築工務所
施工│清水組(現・清水建設)
文化財指定│近代化産業遺産
【ガイド】
眞田伸子:2022年よりセイコーグループ株式会社 広報部にて、「SEIKO HOUSE」のPRを担当
片山直:2024年4月より株式会社和光 営業本部 アーツアンドカルチャー部に所属
「SEIKO HOUSE」と言ってもピンと来ないかもしれないが、旧・和光本館、さらに遡ると旧・服部時計店である。建築家・渡辺仁(1887~1973年)の設計だ。
朝はあいにくの雨だったが、正面外観のこのマーク↓の由来を教えてもらって早速テンションが上がる。わかるだろうか。

懐中時計と服部のHはわかるだろう。その下の数字は皇紀2541年。皇紀は神武天皇即位の年(西暦紀元前660年にあたる)を元年とする数え方で、西暦換算だと1881年。服部金太郎が服部時計店を創業した年だ。このうんちくだけでも、来た価値があった。
この建築にはこれまで何度か入ったことがあって、実はこの階段室の写真を撮りたいという個人的願望があった。普段は入れても写真は撮れない。今回は、「開館前」の時間なので、写真が撮り放題。

筆者は渡辺仁を戦前最高峰の「階段の名手」だと思っている(詳しくはこちらの記事を参照→日曜コラム洋々亭16:半沢直樹を盛り上げた「東博階段」、気になった人は原美術館の最終企画展へ!)。
この階段も実に美しい。筆者の経験上、日差しが入る夕方がすごいのだが、朝の柔らかな光も良かった。今日のベストショットは、腰壁部分をローアングルで撮ったこれ。

■5/17(土)10:40
第一生命日比谷ファースト(特別展示)
10分ほど皇居方向に歩いて、“渡辺仁つながり”のこのビルへ。東京建築祭公式サイトの説明にはこう書かれている(太字部)。

戦後、日本の変革の舞台となった第一生命館。GHQ本部が置かれ、日本国憲法草案が起草されたこの建築は、圧倒的なスケールの吹抜け空間を残しつつ、現代的なオフィスとして活用されています。今回、皇居側1Fロビーにて、第一生命日比谷本社の歴史と最新のオフィスリノベーションを紹介するパネル展を開催。さらに、第一生命が所蔵する「現代美術の展望 VOCA展」の受賞作品も展示します。建築の歴史とアートが交わる空間を、ぜひご覧ください。
日時:5/17(土)~25(日)いずれも10:00‐17:00
特別展示:1F公開空地にて、美術作品・建築資料を展示
第一生命日比谷ファースト
竣工年│1993年
設計│清水建設 一級建築士事務所、ケビン・ローチ
施工│清水建設
文化財指定│東京都選定歴史的建造物
※第一生命日比谷ファーストは、1938年竣工の日比谷第一生命館(設計:渡辺仁、松本與作)と、1933年竣工の農林中央金庫有楽町ビル(設計:渡辺仁)を部分保存しながら1993年に完成したDNタワー21をリノベーションし、2023年に現在の名称となりました。上記はDNタワー21についての情報です。

皇居側の低層部分、「日比谷第一生命館」はコンペで選ばれた10案を参考に渡辺仁と、第一生命の技師・営繕課長であった松本興作が実施設計を行ったとされる。今だったら大炎上しそうなプロセスだが、そんなことは感じさせないレベルに仕上げてしまうのはさすが渡辺仁。


このロビー、初めて入った。普段も入れないわけではないが、外観が重厚過ぎて入りづらい。特別展示は、入ってみようという勇気を与えてくれる。
有楽町側は同じく渡辺仁設計による「農林中央金庫有楽町ビル」のファサードを部分保存し、拡張したデザイン↓。渡辺仁ってほんと、何でもできるなあ。

■5/17(土)11:10
有楽町マリオン(有楽町センタービル)(特別展示)
5分ほど有楽町方向に歩いて戻り、有楽町マリオンへ。
有楽町の顔として親しまれてきた有楽町マリオン。ガラス張りのファサードを縁取る縦枠「マリオン」が、建築全体に軽やかなリズムをもたらしています。かつてこの地には、名劇場・日劇や邦楽座、朝日新聞社が立ち並び、文化と娯楽の中心地として賑わいました。今回、8Fセンターロビーで、40年前の建設風景や、開発前の街並みを記録した写真を特別展示。鏡面仕上げの壁面と照明が生み出す幻想的な空間で、都市の記憶と建築美を堪能してください。※本写真展は有楽町マリオン40周年記念写真展(2024年10月6日~12月25日開催)のリバイバル展示です。
日時:5/17(土)~25(日)、いずれも10:00‐21:00
特別展示:有楽町マリオン8Fロビースペースで、有楽町マリオンと有楽町周辺の街並みの歴史を辿る写真展を開催
有楽町マリオン(有楽町センタービル)
竣工年│1984年
設計│竹中工務店
施工│竹中工務店
その他│第27回 BCS賞、第13回JIA25年賞

大学生になって初めて有楽町マリオンを訪れ、このエスカレーター↑を見たとき(たぶん映画を見に来た)、千葉の田舎者だった筆者は「東京すげえっ」と驚いたことを思い出す。
特別展示は8階だ。


実はこの建築も“渡辺仁つながり”で、マリオンが建つ前、この敷地にあった日本劇場(日劇、1933年)も渡辺仁の設計だ。今で例えると、隈研吾氏のような人気ぶりだったのだろう。

■5/17(土)11:30~12:30
【銀座】美と文化の散歩旅、資生堂ギャラリーと未来唐草の資生堂銀座ビル内部へ
銀座通りの“新時代(最高高さ56m時代)”のシンボルともいえる「東京銀座資生堂ビル」(左写真)と、そこから徒歩数分の「資生堂銀座ビル」(右写真)を巡るガイドツアーだ。


銀座と共に150年を歩んだ資生堂が贈る、美と文化の散歩旅。世界的建築家であるリカルド・ボフィルが手がけた東京銀座資生堂ビルでは現存する日本最古の画廊・資生堂ギャラリーをご紹介。「未来唐草」を纏った資生堂銀座ビルでは通常非公開の内部や屋上まで見学します。化粧品だけでなく、アートや食を通じて、豊かな生活文化を発信する資生堂と銀座の関わりと軌跡を体感していただきます。
ガイド:吉田聖子(資生堂)他「銀座を愛する資生堂社員たち」
東京銀座資生堂ビル
竣工年│2001年
設計│東京銀座資生堂ビル設計特別チーム
(リカルド ・ボフィル、谷口 江里也 他)
施工│清水建設
その他|2001年 グッドデザイン賞
資生堂銀座ビル / Shiseido Future University
竣工年│2013年 / 2023年
設計│竹中工務店 / JLL・Gensler
施工│竹中工務店 / 乃村工藝社
その他|2014年 グッドデザイン賞
資生堂は建築に理解のある日本企業の筆頭だ。「THE GINZA」(設計:芦原義信、75年、現存せず)や、谷口吉生氏が初めて日本建築学会賞を受賞した「資生堂アートハウス」(設計:谷口吉生・高宮真介設計、1978年、こちらの記事)などの名作を実現させてきた。
リカルド ・ボフィルが設計の中心になった東京銀座資生堂ビルは、昨年の春に日経アーキテクチュア誌の「建築巡礼」で取り上げた(WEB版はこちら)。
資生堂銀座ビルも外国人建築家かアトリエ系建築家の設計に見えるが、これは竹中工務店の設計・施工だ(2013年完成)。設計の中心になったのは濱野裕司氏。外からはしょっちゅう見ていたが、中は初めて見た。


正面を覆う「未来唐草」(資生堂を象徴する唐草のモチーフからデザインしたアルミシェード)をはじめ、手間のかかりそうなディテールが各所に満載。それでいて、これみよがし感がないのは竹中工務店らしさか、それとも資生堂のセンスの良さか。


建設当初は資生堂本社の銀座オフィスだったが、同社創業150周年の記念事業として、2023年、次世代を担うリーダーの人材開発施設「Shiseido Future University」に改装された。

■5/17(土) 13:30~15:00
【GINZA KABUKIZA】設計者、施工者といく歌舞伎座&歌舞伎座タワー、屋上庭園まで
午前だけで1万歩弱。ひと休みして、午後は歌舞伎座から。

日本を代表する劇場「歌舞伎座」と、最新オフィスビルが融合したGINZA KABUKIZAへ。設計を担当した住谷覚さん、施工を担当した仲林清文さんと、屋上庭園から広大な地下広場、普段は入れないオフィススカイロビーまで。日本古来の伝統技術と最先端技術を融合させたプロジェクトに新たな光を当てます。
【ガイド】
住谷覚:三菱地所設計シニアアーキテクト、日本大学非常勤講師
仲林清文:清水建設常盤橋プロジェクト副総支配人
GINZA KABUKIZA
竣工年│2013年
設計│三菱地所設計、隈研吾建築都市設計事務所
施工│清水建設
その他│2014年BCS賞、AACA特別賞




このツアー、何がいいって、設計者と施工者で仲良く解説するというのがいい。予定になかった歌舞伎座の方も参加して、いろいろな視点からの話が聞けた。ガイドツアーの理想の形。写真を撮れない部分でもすごかった!
■5/17(土)15:00~16:00
【教文館・聖書館ビル】A.レーモンドの名建築へ、非公開エリアに潜入
個人的に、この日一番楽しみにしていたのはこのツアーだった。

アントニン・レーモンドが手がけた戦前のモダニズム建築。教文館(書店)と聖書館(出版社)の共同ビルというユニークな構成は、今も階段室にその特徴を留めています。流麗なレリーフが施されたエントランス、屋上の塔屋台座、創建時の姿を残すエレベーターホールから地下バックヤードまで、非公開エリアに潜入。永井荷風や井上ひさしなど、多くの文学作品にも登場する名建築を巡ります。
【ガイド】
森岡新:株式会社教文館 代表取締役専務
教文館・聖書館ビル
竣工年│1933年
設計│アントニン・レーモンド
施工│清水組(現・清水建設)

なぜ、ここを一番楽しみにしていたかというと、このビルにレーモンド事務所があったということを最近知ったからだ。そして、今回のツアーで、あの有名な集合写真は、このビルの屋上だということを知った。なんと、その屋上も見学!




ところで、この集合写真↓でレーモンドの前にいる赤丸の人、知っていますか?(右隣は前川國男)

この人は建築家・杉山雅則。知らなくても大丈夫。BUNGA NETの連載でこれから2年かけてじっくり深掘りします。まずは第1回と第2回を(第2回は5月19日公開予定)。
第2回→https://bunganet.tokyo/sugiyama02/
そして、教文館に行く人は書店2階の「東京建築祭フェア」をぜひ覗いてほしい。


筆者が執筆に関わった本(雑誌を含む)が7冊も置かれていた!(右写真の赤丸)
■5/17(土)12:00
日比谷OKUROJI(特別展示)
時系列が崩れるが、今回から参加となったJRグループの特別展示をいくつかまとめてリポートする。
1つ目は会期中、東京建築祭の事務局機能も置かれている「日比谷OKUROJI」。有楽町と新橋の間の高架下だ。

1910年に誕生した日本初の鉄道高架橋が、商業空間として生まれ変わった日比谷OKUROJI。煉瓦アーチの美しさを受け継ぎながら、中央を貫く全長300mの花道を軸に異なる3世代の高架橋を一体として再生されました。今回は、BUNGA NET「高架下建築図鑑」に掲載された遠藤慧さんの描き下ろしイラストと、開発当時の建築資料を展示。鉄道遺構の重厚な質感と、再生の過程が織りなす物語を、体感してください。
日時:5/17(土)~25(日) いずれも終日
特別展示 :館内各所に遠藤慧さんの「高架下建築図鑑」書き下ろしイラストと古い建築資料を展示
日比谷OKUROJI
竣工年│2020年
設計│東鉄工業 / 交建設計 / AE
施工│東鉄工業
その他│2021年 グッドデザイン賞
細長い施設内を巡って、歴史や設計の工夫を学ぶ趣向。



この施設の詳細はBUNGA NETの連載「高架下建築図鑑」で紹介しているので、そちらもぜひ。
■5/17(土)16:30
2k540 AKI-OKA ARTISAN(特別展示)
山手線に乗り、御徒町へ。秋葉原方面に高架下を少し戻ると「2k540 AKI-OKA ARTISAN」。

2k540 AKI-OKA ARTISANは、2010年に鉄道高架下に誕生した創造の拠点です。高架下の暗く閉鎖的なイメージを覆し、丸柱を活かしたデザインと職人の技が共存する空間として再生。手仕事の価値を伝える、工房とショップが一体となり、クリエーターや職人とお客様が直接触れ合える「アトリエショップ」のスタイルにより新しいカタチで展開しました。ものづくりの街に新たな魅力を加えています。
日時5/17(土)~20(火)、22(木)~25(日)いずれも11:00-19:00
建築情報 2k540 AKI-OKA ARTISAN
竣工年│2010年
設計│交建設計
施工│鈴木工務所
その他│グッドデザイン賞

「2k540」も間もなく、BUNGA NETの連載「高架下建築図鑑」で紹介する予定。こうご期待。
■5/17(土)17:00
マーチエキュート神田万世橋(旧万世橋駅)(特別展示)
「2k540」から10分ほど歩いて、秋葉原のマーチエキュート神田万世橋(旧万世橋駅)へ。ここがこの日の締めだ。
中央線神田~御茶ノ水間に「万世橋駅」があったことをご存知ですか? かつては中央線の終着駅であった万世橋駅は、東京駅を設計した辰野金吾氏によるものです。1912(明治45)年に完成した赤レンガ造りの万世橋高架橋が、歴史や記憶を活かしながら新たに「マーチエキュート神田万世橋」として生まれ変わりました。階段、壁面、プラットホームなどの遺構がよみがえった空間の中に知的好奇心を掻き立てるような趣味性、嗜好性の高いショップやカフェ、アート展示が並ぶこれまでにない商業建築です。
日時:5/17(土)~25(日) いずれも11:00‐20:00
特別展示 :マーチエキュート神田万世橋館内N5区画、S6区画、1912階段、1935階段他で建築資料の展示
万世橋駅
竣工年│1912年(東京~万世橋間高架橋1919年)
設計│辰野金吾
施工│安藤組
マーチエキュート神田万世橋
開業日│2013年9月14日
元になった「万世橋駅」(1943年に営業休止)が辰野金吾の設計だということを知る人は少ないのではないか。そして、公式説明文には書いていないが(書いた方がいいと思う)、これを現施設に再生した設計者は、ジェイアール東日本建築設計事務所とみかんぐみである。


この日はJR東日本東京建設プロジェクトマネジメントオフィスによるガイドツアーも行われたのだが、他の取材と被って参加できず、残念。
JRグループは東京建築祭の期間中、上記の3施設に加え、「TAKANAWA GATEWAY CITY」「旧新橋停車場」「ウォーターズ竹芝」の計6施設を巡るデジタルスタンプラリーを実施している。

スマートフォンアプリSpot Tourをダウンロードして6施設をめぐると、GPSで場所を自動認識し、スタンプがゲットできる。しまった最初にダウンロードしてから行けばよかった…。詳細はこちら→https://tokyo2025.kenchikusai.jp/program/37-10/
初日はあいにくの天気だったが、建築好きにとっては五月晴れ気分の1日だった。1日の歩数は2万4000歩。東京建築祭は健康にもいい!
5月18日(日)以降は天気もまあまあの予報なので、あなたもぜひ建築巡りを。前回よりも特別展示が増えたので、ふらっと行っても並ばずに見られるものが多い。公式サイトはこちら→https://tokyo2025.kenchikusai.jp/。地図を見て戦略を立てたい方はこちらでパンフレットを。→https://tokyo2025.kenchikusai.jp/wp-content/themes/tokyo2025/common/pdf/tokyokenchikusai2025_pamphlet.pdf(宮沢洋)