突如の閉館乗り越え本日スタートの伊東豊雄展、まさに「公共建築はみんなの家」

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 まさに「公共建築はみんなの家」というタイトルを象徴する適応力。7月1日、伊東豊雄氏設計の「座・高円寺」(杉並区立杉並芸術会館)で伊東豊雄建築設計事務所主宰の展覧会「公共建築はみんなの家」が始まった。

(写真:宮沢洋、以下も)

 何が「適応力」なのかというと、この展覧会は割と最近まで、東京・京橋のLIXILギャラリーで開催されるはずだったのだ。会場変更の経緯については既に「保存版!必見ミュージアム22件総まとめ、コロナでどうなった?」(2020年6月1日公開)でも触れたが、初耳の人のためにもう一度書いておく。

 本展「公共建築はみんなの家である」は当初、東京・京橋のLIXILギャラリーで4月16日~6月30日に開催予定だった。だが、ご多分に漏れず、コロナ拡大防止のために開幕が延期に。それどころか、5月中旬、ギャラリー自体の閉館が発表された。5月15日、突如ウェブサイトに掲載された「閉廊のお知らせ」にはこう書かれている。

 「この度、1981年伊奈ギャラリーとして開廊以来、40年に亘り活動を続けてきたLIXILギャラリーは今秋をもちまして閉廊いたします。2013年よりLIXILギャラリーと名称変更した後も『建築とデザインとその周辺をめぐる巡回企画展』(東京・大阪)、『クリエイションの未来展』、『やきもの展』と977回もの展覧会を開催してまいりました。皆さまの多大なるご支援により、これまで継続してこられましたことを改めて厚く御礼申し上げます」(ここまでウェブサイトから引用)

 「今秋をもちまして」とあるので、まだ同ギャラリーで展覧会を見られる可能性はあるわけだが、「公共建築はみんなの家である」展については、「中止」と明記された。「新型コロナウィルス感染拡大防止のため、お客様の安全を最優先とし、本展覧会を中止とさせていただきました。同テーマでの展覧会を、伊東豊雄建築設計事務所主催にて都内にて開催予定です」と続く。

 「さすが伊東さん!」とは思ったものの、大変失礼ながら、「やると言っても、そんなにすぐには会場が見つからないだろう。1年先くらいかなあ」と想像していた。それが、予定会場の閉廊発表から1カ月半で、しかも公共施設で展覧会が始まるとは思ってもみなかった。見事な臨機応変さだ。

あえて文化祭的な手づくり感

 開幕初日(7月1日)の朝に早速行ってきた。会場は座・高円寺の地下2階「ギャラリーアソビバ」だ。伊東氏が設計したの4つ公共施設、「せんだいメディアテーク」(2000年竣工)。「まつもと市民芸術館」(2004年竣工)、「座・高円寺」(2008年竣工)、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(2015年竣工)について展示している。

 会場に足を踏み入れたときには、全体のスカッとした印象に、「あれ?」と思った。模型はない。両側面の壁に貼られた展示のみ。だが、よく見ると、その狙いが分かる。

 4つの展示パネルは、断面図を含めて切り貼り感を強調している。コンテンツの目玉は、各施設に関わる人々の手書きコメントだ。模型を一切置かず、あえて文化祭的な手作り感を強調することで、コメントをじっくり読んでほしいという狙いなのだ(たぶん)。

 私(宮沢)はそもそも手書き大好き人間なので、まんまと読まされてしまう。

 コメントのなかで一番共感したのは、これ(下の写真)。「座・高円寺」の絵本カフェ、本読み案内人のまーしゃさんのものだ。そうだよなーと思う。

 「座・高円寺」のこのコメントも光っている。こういうコメントを載せてくれること自体がこの施設の懐の広さを示している。

 私が建築を取材するようになって30年。この30年の間に公共建築って柔らかくなったなあと思う。それに大きな影響を与えた1人が伊東豊雄氏であると改めて実感できる展覧会だ(会場変更の臨機応変さも含めて)。

 最後になってしまったが、伊東氏による開催主旨の一部を抜粋する。

 私達が東日本大震災や熊本地震後の被災地でつくった「みんなの家」は、仮設住宅団地を中心に近隣の人々が集まって話し合いや食事をしたり、各種イベントなどの場として活用されています。「みんなの家」は、従来の公共施設のように自治体が内容を予め設定するのではなく、利用者と話し合い、利用者の要望をベースにつくられてきました。これからの公共建築は「みんなの家」のように利用者主体に考えられなくてはならないと思います。

 今回の展覧会では、私達がこれまでに設計した 4 つの公共建築を取り上げ、それらがいかに利用されているかを追求してみました。とりわけ館長や芸術監督にインタビューを試み、どのような施設を意図しようとしているかを語ってもらいました。また利用者やスタッフの人達にもインタビューやアンケートを通じて、実態に迫ろうとしました。こうした試みからこれからの公共建築のあるべき姿を浮かび上がらせたいと考えます。 伊東豊雄

会場:座・高円寺 地下2階「ギャラリーアソビバ」
住所:東京都杉並区高円寺北2-1-2
会期:2020年7月1日(水)~8月16日(日)
開館時間 9:00~22:00
入場料:無料
主催:株式会社伊東豊雄建築設計事務所

 2008年竣工(開館は2009年)の座・高円寺を久しぶりにじっくり見るのもまた楽しい。都内在住の方は少人数でぜひ。(宮沢洋)