東京の“建築家銭湯”ムーブメントの先導役ともいえる錦糸町(墨田区)の銭湯&サウナ「黄金湯(こがねゆ)」などを運営する新保浴場が、東新宿の「金沢浴場」(築50年)をリニューアルし、新たに「黄金湯 新宿」として7月7日にオープンした。錦糸町の黄金湯の設計は長坂常氏だったが、新宿店は永山祐子氏が設計を担当した。


筆者は、6月22日の内覧会に参加したのだが、7月7日のオープン後に客として入浴したうえでこれを書いている。ご存じない方もいるかもしれないが、筆者(宮沢)は2024年に発刊した『イラストで読む 湯けむり建築五十三次』(青幻舎)の著者である。同書では冒頭に錦糸町の黄金湯を取り上げている。“建築家銭湯”というお題で通り一遍のことだけ書くわけにはいかない(と自らハードルを上げる…)。
まずは内覧会の公式情報から。太字は当日の配布資料(作成:永山祐子建築設計)からの引用。
新宿という街がもつ「多層性」を空間に活かし、浴場の記憶を次世代へと継承する東新宿に建つ築50年の「金沢浴場」の改修計画である。
新宿は、古い建物と新しい建物が混在し、異なる時代のレイヤーが重なり合った独特の魅力を放つ街である。50年間の記憶を蓄積してきた金沢浴場の中にも存在している「時代の重なり」を表現したいと考えた。
象徴的な銭湯絵モザイクタイル、かって存在した曲面天井といった「過去の断片」の上に新たなレイヤーを重ねていった。
新しいけれどどこか懐かしさを感じられる空間を目指した。

外観:
元々は銭湯の入口とコインランドリー、事務所スペースとなっていたスペースを、番台工リアとして一体的な空間に改修した。

番台・バー:
元々銭湯の入口であった部分に植栽配した中庭とし、そこを囲むように島型の番台カウンターを配置した。銭湯の受付としての番台と、お風呂上りにドリンクを楽しむバーとDJブースを一体化した番台カウンターを計画した。

番台カウンター:
新宿のネオン街から想起して、番台カウンター上部に演色性のある間接照明を配置している。イベント時などに様々な色に変化することが可能で、新宿らしさを演出するしかけを考えた。

浴場:
改修前は切妻型の天井であったが、今回の改修では創業当初のR天井を復元している。天井に照明器具が見えないように壁からのアッパー照明でR天井を照らす照明計画を考えた。全体の空間の色味のトーンを光や影がよりきれいに見える薄いグリーンとしている。




金沢浴場の特徴である銭湯絵モザイクタイルを残すため、欠損部分はAIで絵柄を復元し可能な限り汚れを落としてオリジナルを残している。銭湯絵にうっすらとグラデーション塗装を施すことで、新旧のデザインを重ねて、新しいものと古いものが入り混しった空間を目指した。丸柱のひし形タイルも可能な限りオリジナルを残している。


サウナ:
限られたスペースの中に男女サウナ室を設けた。全体的には洞窟のようなやわらかな有機的な空間としている。
男サウナ室の壁面には溶岩石を使用したオートロウリュサウナ、女サウナ室はセルロウリュができるサウナとしている。
男女どちらにも美泡湯の水風呂を配置し、男湯側は外気浴スペースを設けている。

■プロジェクト概要
施設名:黄金湯新宿店
所在地:東京都新宿区新宿7-22-11
最寄駅:東京メトロ副都心線/都営地下鉄大江戸線東新宿駅
用途:公衆浴場(銭湯)
面積:333.90㎡(改修範囲)
施主:新保浴場
ブランディング:高橋理子
工クスペリエンスアドバイザー: 清水みさと
設計・監理:永山祐子建築設計
構造設計:yAt構造設計事務所
設備設計:ピロティ
音響計画:ホワイトライト
施工:秀建、栗原内装、八和田設備工業、Uスペック
期間
設計期間:2024年5月~2025年10月
施工期間:2025年10月~2026年6月

■営業案内(公式サイトより)
営業時間:平日・土日祝
7月7日~ 12:30 – 24:00
8月~ 12:30 – 翌9:30
定休日:第一・第三火曜日
入浴料金:大人 550円(中学生以上)、小学生 200円、幼児 100円
入浴・サウナ料金のお支払いは、現金とPayPayがご利用いただけます。
※共通入浴券のお支払いは現金のみとなります。
平日サウナ(90分):
05:00 – 09:30 +800円
12:30 – 17:00 +850円
17:00 – 23:00 +950円
23:00 – 05:00 +1150円
土日祝サウナ(90分)
05:00 – 09:30 +900円
12:30 – 17:00 +950円
17:00 – 23:00 +1050円
23:00 – 05:00 +1250円
貸しタオルセット
+300円〜(サウナご利用のお客様は250円〜)
湯に漬かり、「なるほどそういうことか!」と腑に落ちる
さて、客として実際に入った感想を少し。そもそもなぜ建築の記事を書くのに入浴する必要があるかというと、浴槽に漬かったり、洗い場で洗ったりしないと、利用者の目の高さや見えるものがわからないからである。温浴空間は立ったまま体験するものではない。これは拙著に掲載した対談の中で隈研吾氏も同じことを言っていた。
まず重要なのは、浴槽に漬かったときに何が見えるかだ。

この「浴槽の位置を90度変えたこと」は大正解であるということが、湯に漬かってすぐにわかった。「すべてはこのためだったのか」と腑に落ちた。本当は浴槽の壁に頭をつけて撮った写真を載せたいのだが、そんな写真は内覧会でも撮れなかったのでこの写真↓で想像してほしい。

浴槽に漬かると、自然に目線は女性湯のハイサイドライトに向く(女性はその逆)。すりガラスから入った光は、緩いアーチ形の天井(改修前は切妻形だった)に反射してグラデーションを描く。目の前には、アーチ形の鏡がリズミカルに並び、洗い場の仕切り壁や浴槽のコーナー部もミニアーチ。視界の中にいくつものアーチが繰り返される中で、左手の壁に男女の浴室をつなぐ大アーチ(虹)が架かる。
この見え方は素晴らしい。考えてみると、大抵の銭湯画は浴槽の上にあって、お湯に漬かるとよく見えない。たぶん永山さんは、本当の意味で銭湯画を主役にしたかったのだろう。
次に、浴槽のディテールだ。浴槽に入ろうとする人は、日常の他の行為よりも近くを見るものだ。必然的に小さな部材にまで目が行く。

浴槽には曲面が多いが、きれいにタイルが張られている。個人的には、目地をもう少し詰めてほしい気がしたが、やりすぎると物質感が失われるという判断かもしれない。

既存の丸柱の菱形タイルも、浴槽に漬かるとよくわかる

洗い場の仕切り壁も曲面のタイルが美しい。
改めて全体の風景↓。こういう写真が他のメディアにも大きく載ると思うが、これはあくまで浴室に入った瞬間の見え方。繰り返しになるが、設計者の本領発揮は「浴槽からの見え方」だと筆者は思う。

そして、サウナ。サウナ施設は元々なかったものを、裏方だったスペースに新たにつくった。

筆者はサウナ好きの1人だが、一方で閉所が苦手な人で、サウナ自体の空間にはそれほどこだわりはない(そんなことを言ったら元も子もないが…)。ここのサウナ(男性用)は奥に深い洞窟型で、閉所感が強く(そういうのが好きな人ももちろんいると思う)、筆者は少しでも外が見える丸窓がついているのがうれしかった。
なぜサウナに入るかというと、その後の水風呂と外気浴が気持ちいいからで、ここの水風呂は半屋外↓。しかも泡の出る水風呂だ。露天風呂みたいでとてもよかった。

本当は、ここでリクライニングチェアに身を委ねたときに見える空の写真を見せたかったのだが、内覧会では撮っていなかった。2面の目隠し壁に囲まれて、空が三角に見えるのである。設計上の狙いなのかはわからないが、浴室でアーチをたくさん見たあとで、三角でクールダウンするのは粋な感じがした。
唯一難をあげると、浴室からサウナに向かう出入り口が、従業員扉みたいでなんだか味気ない。ここはもともとバックヤード用の扉があったところのようだが、位置はよいとしても、扉をアーチ形にするとか丸窓をつけるとかできなかったのだろうか。

内覧会のとき、新保浴場の新保卓也代表に「なぜ今回は永山さんだったのか」と聞いてみた。すると、「錦糸町の黄金湯は成功したが、それでもまだ女性は少ない。ここはさらに女性が入りやすくなるものにしたかった」との答えだった。筆者は女性ではないので、女性視点でのジャッジはできないのだが、確かに錦糸町のクールでカチッとした感じは男性好みなのかもしれない。
ここは女性の永山さんの設計だからといって、これみよがしに女性らしい感じでもない。それでも、淡い色使いやアーチの多用によって、全体の雰囲気がフワッとやわらげられており、女性には好まれそうな気がする。
ところで、拙著『イラストで読む 湯けむり建築五十三次』(青幻舎)で取り上げた錦糸町・黄金湯はこんな感じだ。アマゾンの立ち読みページにも入っていたので、ここにも載せておく。


画像が小さくて読みにくいと思うので、ちゃんと読みたい方は本を入手して読むか、実際に錦糸町に入りに行ってください。女性も楽しめると思います(書籍も実物も)。(宮沢洋)
表紙↓をクリックするとアマゾンに飛びます。

