大阪・関西万博の開幕まであと3日。駆け込みでプレビューしたい施設の1つが「いのちの遊び場 クラゲ館」だ。この施設、すでに内々に見学させてもらっていたのだが、公式取材ではないので情報が出せなかった。4月9日に万博全体の「メディアデー」が開催され、情報解禁となったので紹介する。


「いのちの遊び場 クラゲ館」(以下、クラゲ館)は、万博の顔となるシグネチャーパビリオンの1つ。ジャズピアニストで数学研究者、STEAM(科学・技術・工学・芸術・数学)教育者、経営者と多彩な顔を持つ中島さち子氏がテーマ事業プロデューサーを務める。基本設計は小堀哲夫建築設計事務所とアラップ。この施設を「現物協賛」で提供する大和ハウス工業とグループのフジタが実施設計と施工を担当した。
クラゲは、「皆の中にある創造性やいのちの象徴であり、時に説明できないものを表す象徴」とのこと。コンセプトを話し合う会話の中で、「クラゲ」というモチーフがふと立ち現れたという。

地上2階建てで、プレイマウンテンと名付けられた土手の下が1階、屋根下の半屋外空間が2階。構造は鉄骨造だが、屋根の下に、細い木材が網状に広がる。白い傘の部分は、約30m×約30mの膜材。その先に木材の網が飛び出す。クラゲの触手のイメージだ。

木材の広がりは現場合わせではなく、机上で緻密に設計したものだ。木材を支持する鉄骨トラスは、上から見ると上弦材は正三角形に、下弦材は多角形になっている。下弦材の端点が描く形は、「粘菌」がアメーバ状に成長するアルゴリズムを基に設計したという。


筆者の目が点になったのは、このディテール↓。わかるだろうか。


なんと、木材をロープで留めているのである。
木材の網は、小さな穴を開けた7種類の木材パーツ(いずれも直方体)を鉄骨トラスに固定したもの。その一部を玉結びにしたロープで吊るした。
よく見ると、木材の片側がクランプで鉄骨に固定され、その反対側や途中がロープで別の木材と結ばれている。ロープ2か所で木材から吊るされている木材もある。そのファジーさによりクラゲらしい浮遊感が生まれているのだ。加えて、「ロープをほどけば簡単に解体できて再利用しやすい」という意図もあるそう。
以下は公式サイトの説明だ(太字部)
パビリオンコンセプトはクラゲ:揺らぎのある遊び。漂うクラゲの神秘のような、言葉で説明しきれない何かがもつ魅力を表現し、いのちや創造性を象徴します。
多くの人々、多様な個性が、いのちやみらいにそれぞれの想いを馳せ、重なり合い、クラゲ館は誕生します。余白や揺らぎを持つ本パビリオンは、会期中の活動により更に成長し、人々の創造性がますます発露する場へと進化し続けます。

小さな部材が集まり構成されたパビリオンは会期後に移築・リユースされ、新たないのちとして生まれ変わる予定です。
みんなでつくり、未来に向かって生きていく建築・場を目指しています。生き生きとしたいのちの高まりを、旅路の中でも、クラゲ館においても、感じて頂きたいと考えています。
…と、子どももわちゃわちゃと楽しめそうな施設だ。

繰り返しになるが、基本設計は小堀哲夫建築設計事務所とアラップ。最近、コンペにめっぽう強い小堀哲夫氏と、世界最強のエンジニアリング集団であるアラップが組んで、こういう緩い方向を攻めてくるとは…。良い意味での裏切り感。親子で別の観点で楽しめるパビリオンだ。(宮沢洋)