日本初の恐竜学部・福井県立大学勝山キャンパスを見た! 隈研吾氏らしい“メタファーの再構成”

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 2週間ほど「東京建築祭」の記事ばかり書いていたので(まとめ記事はこちら)、書くべきネタがたまってしまった。「早いのが取り柄」という言い訳が使えなくなってしまったが、これからいくつかストックネタを書いていく。まずは隈研吾氏が設計した「福井県立大学恐竜学部」(勝山キャンパス)の新校舎である。

福井県立大学恐竜学部学部棟の北東側外観(写真:宮沢洋、以下も)
メインアプローチのある北西側。恐竜の尻尾にあたる部分

 取材したのは5月上旬。4月に開学したばかりの新キャンパスなので、まだそんなに遅くはないだろう。

 この建築の存在は、今年3月に隈氏から直接聞いて知った。「那珂川町馬頭広重美術館」の再オープンの取材(こちらの記事)で、スギルーバーの保護剤(OSHIROX)の話になり、同じものを福井県立大学の新校舎では外壁のコンクリートに使っているからぜひ見てほしい、と言われたのだ。

隈研吾氏。「那珂川町馬頭広重美術館」の再オープンイベントにて。2026年3月14日撮影

 調べてみるとこの校舎、「日本初の恐竜学部」の新キャンパスとしてかなり話題になっているではないか。建物自体も恐竜っぽいらしい。それは見たい。

 敷地は福井県立恐竜博物館(福井県勝山市)の南西側。かつて博物館の第3駐車場だった場所だ。JR福井駅からえちぜん鉄道・勝山永平寺線に乗り換え、終点の勝山駅で下車。そこからバス(約15分)またはタクシー(約10分)。

 隣の福井県立恐竜博物館は2000年竣工。設計は黒川紀章氏(1934-2007年)による。銀色の巨大な卵のようなデザインが特徴。2023年には北陸新幹線敦賀開業を見据えて小さな卵(新館)が増築された。

 日本初の恐竜学部は2025年4月に開学した。入学定員は30人。高い倍率で受験界でも話題になっている。1年次は福井県永平寺町にあるキャンパスで受講し、2年次から勝山キャンパスで専攻科目などを学ぶ。そのため、勝山キャンパスの新校舎は1年遅れで2026年4月開校となった。今年は2年生と、大学院の学生が使う形だ。恐竜博物館の隣にあるのにはもちろん意味があって、最新鋭の研究機器を備えた学部と博物館が連携を強化し、研究や教育を深める狙いだ。

 隈氏は福井県が2022年に実施した簡易公募型プロポーザルで、最優秀者に選ばれた。次点は環境デザイン研究所だった。

 とてつもなくインパクトの強い先人(恐竜博物館)の脇に、隈氏は新たな校舎をどうつくったのか。

ウォータージェット処理による見事な地層表現

 写真で見ていこう。建物は地上3階。主構造は鉄筋コンクリート造。延べ面積は4183.72m2で、恐竜博物館の6分の1ほどしかない。

アプローチの尻尾から恐竜博物館方向を見る
生物っぽいカーブ

 本体部分の外壁は、恐竜の化石が発掘された「手取層群北谷層」の地層をイメージした縞模様を採用した↓。

 地層をイメージした外壁を表現するため、外壁のコンクリートにウォータージェット処理を施した。水平方向に複数パターンの異なる削り方を用いて、地層に見せた。これまで地層的な表現の壁をいくつも見てきたが、コンクリートでここまで地層を感じさせるものは初めて見た。

目地の水平ラインと削り方の境界がずれているので、地層っぽく感じる

誰が見ても恐竜のあばら骨

 入り口を入るとまず目に入る「アブドミナルホール」は 1階から3階まで吹き抜け。「アブドミナル」は「腹部」を意味する。恐竜の腹部の骨格をイメージさせる空間がカーブしながら上昇していく。

誰が見ても骨っぽい。架構は木造ではなく鉄骨造

 1階には、1mを超える大型化石をスキャンできるCT機器を設置した「CT解析ラボ」や、化石の周囲の岩石を除去するための機器を約20セット備えた「化石クリーニング室」などがある。2、3階は化石のCTデータなどを解析する「イメージングラボ」のほか、実験室や講義室、教員の研究室など。

CT解析ラボ
化石クリーニング室

 隈事務所は、社内にサインデザインのスタッフがいて、いつもサインが楽しい。

おもちゃみたいなフロア案内

 今回は、各部屋のサインボードの形が凝っている。どれも本物の骨の3Dデータでつくった↓。

わかりやすいメタファーの表現

 自称“隈研吾ウオッチャー”の視点で言うと、この建築は最近の隈建築の中ではかなり面白いし、隈氏らしいと感じた。

 どこが「らしい」かというと、この建築のデザインは、隈氏が得意とする“メタファー(比喩)の再構成”なのだ。恐竜の卵のような博物館の隣に、見た目恐竜そっくりの建築をつくったらかなりちゃちい感じになるし、バカっぽい。隈氏はそうではなく、「恐竜」を「尻尾」と「骨」と「発掘現場の地層」に分解し、それらのイメージを再構成した。それぞれのメタファーが、他の建築家にはまねできない(あるいは気後れしてしまう)ほどわかりやすいのが隈氏のサービス精神。見た目が恐竜ではなくても、規模が小さくても「恐竜博物館と呼応している」と感じる。

南側外観

 形は全く違うものの、これは馬頭広重美術館を「広重が描く雨」「江戸民家の切妻」「浮世絵の和紙」に分解して再構成した手法と全く同じともいえる。

 大学の施設なので、一般の人がふらっと中を見ることはできない。それでも、恐竜博物館に行く人は屋上庭園(地上から続いている)で全体を見下ろすことができるので↓、上から見るのをお忘れなく。(宮沢洋)

福井県立大学恐竜学部学部棟
所在地:福井県勝山市村岡町五本寺17-15

発注者:福井県立大学
設計:隈研吾建築都市設計事務所
施工:見谷組・大野建設工業・大北久保建設JV
施工期間:2024年6月~2026年3月
利用開始:2026年4月
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄骨造
階数:地上3階
延べ面積:4183.72m2