秋の建築公開シーズンが近づいてきた。「イケフェス大阪」は10月26日・27日、「京都モダン建築祭」は11月1日〜10日に開催される。その前に、「ひとりイケフェス」あるいは「ひとりモダン建築祭」ともいうべきイベントを仕掛けているのが安井建築設計事務所。リーダーはこの人だ。
日本で十指に入る大設計事務所である安井建築設計事務所(本社:大阪)を率いる佐野吉彦社長。実はこの「建築の愛し方」で、ど真ん中の設計者にインタビューするのは初めてだ。
安井建築設計事務所は2024年の今年、創業100周年を迎えた。創業記念日は4月1日で、もう過ぎているのだが、過ごしやすくなってきた秋にさまざまな100周年記念事業を仕込んでいる。なかでも筆者が驚いたのは「まちなか展」と呼ばれる企画。9/6(金)~9/8(日)に大阪で開催され、10/15(火)~11/2(土) には東京で開催される。このイベントについて、東京事務所で佐野社長に聞いてきた。
大阪では5会場で開催
──「まちなか展」って、仕込みが相当大変そうですが、これは佐野社長が発案者なのですか。
いえ、今回の100周年の事業は、社内でメンバーを募集して、3年ぐらい前からいろんなことを考えてきました。まちなか展という企画も、社員から上がってきたものです。
イケフェス大阪では、宮沢さんにもお世話になっている「セッケイ・ロード」が定着してきました(前回のリポートはこちら)。ああやって設計事務所を歩いて回るみたいに、うちの事務所が設計した建物に展示をして、それを見て回ったら面白いんじゃないかと。
──佐野さんが言い出しっぺなのかと思っていました。
僕はむしろ、本当に人が来るのかなあと心配でした。
──確かに、前例のないことなのでそういう心配はありますね。実際、どうだったのですか。
9/6(金)~9/8(日)の3日間、大阪事務所(本社)も含めて計5カ所の会場で行ったのですが、どこもすごくにぎわっていましたよ。
──イケフェスのセッケイ・ロードは、回ってスタンプを集めるとプレゼントがもらえますが、これは複数会場を回ると何かいいことが?
それぞれの建物で、設計者がこだわったディテール写真入りのポストカードがもらえます。昔の野球カードを集めるような感じですね。
──期間中にトークイベントもあったようですね。
9/7(土)に大阪事務所で、トークセッション「まちにひらく、どうひらく?」を開催しました。ゲストは、服部滋樹さん(graf代表/京都造形芸術大学芸術学部教授)と小池一子(コマンドA代表社員/クリエイティブディレクター)さんでした。
東京編は10/15(火)から
──これと同じようなことを、東京でやるわけですね。
東京の場合は、短い期間に予定を合わせるのが難しくて、10/15(火)~11/2(土) と少し幅があります。
10/15(火)~10/19(土) F)東京国際クルーズターミナル
10/15(火)~10/19(土) G)サントリーホール
10/24(木)~10/26(土) H)日本大学芸術学部 江古田キャンパス アートギャラリー
10/24(木)~10/26(土) I)みらいステップなかの + 中野東中学校
10/15(火)~11/2(土) J)安井建築設計事務所 東京事務所「美土代クリエイティブ特区」
──トークイベントも?
はい、11/2(土)に東京事務所で、ゲストに西田司さん(オンデザイン代表/東京理科大学准教授)と田中仁さん(株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEO)をお招きします。
■安井建築設計事務所100周年企画「まちなか展」トークセッション「まちにひらく、どうひらく?」
安井建築設計事務所 東京事務所「美土代クリエイティブ特区」
参加無料・事前申込制
定員:80名【先着順】
申し込み:https://yasui-100-tokyo.peatix.com
実は私、田中仁さんとお話ししたことがないんですよ。
──え、そうなんですか?
これも社員から上がってきた企画で…。「まちにひらく」というテーマなら、田中仁さんが面白いと思います、と。
──そういうトークって、コーディネーターが話しやすい人を選びがちなので、予定調和ではない話が聞けそうですね。社員から上がってきた面白いアイデアはみんな採用しちゃうんですか。
もちろん予算の大枠は決めていますが、前向きな提案はできるだけ実現させてあげたいですよね。
──普通、組織設計事務所の「周年企画」って、企業の経営層向けのイベントが多いと思うのですが、今回の安井建築設計事務所の企画はほぼ“一般の人向け”ですよね。仕事に結びつかなくてもいいのですか。
企業の経営層との付き合いはもちろん大事ですが、仕事につながるのはその人がその立場にいる間だけですからね。まちにひらくという取り組みはもっと先のことを考えています。
この東京事務所もそうですが、外に向かって開いてると、何となく新しい人の流れが生まれて、まちの人が何となく訪ねてくるようになって、だんだんいい形で地域のことが気になっていくと思ってるんですよ。地域が変わっていくとそこで必ず設計の必要が生まれるから、いつか仕事につながっていくんだろうと思います。
あと、外に開くには、いろいろな人と交渉しなければならないから、社員の経験値がすごく上がりますね。
──なるほど、短期の成果ばかり考えていても、いい建築は建たないということですね。建築に関わるあらゆる人に伝えたいです。まちなか展東京会場も、楽しみにしています!
はい、ぜひ見に来てください。
まちなか展の詳細はこちら
…と取材を終えあとに、東京事務所の1階、通称「美土代クリエイティブ特区」を1人でぶらぶら見ていると、ホワイトボードにこんな書きこみが!
設計事務所で流しそうめん! これは社員が育っている…。安井建築設計事務所と佐野社長から今後も目が離せない。(宮沢洋)