建築の愛し方24:ケンチクくんの流れを汲む「設計事務所あるある」が早くも書籍化、作者の古渡大氏は何者?

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 連載が始まって間もない頃から気になっていた「TECTURE MAG」の4コマ漫画連載「設計事務所あるあるシリーズ」が連載100回を迎え、早くも書籍『マンガ 建築士あるある』となって書店に並んだ(アマゾンはこちら)。気になっていたのは、漫画として面白いこともあるが、筆者(宮沢)がかつて『日経アーキテクチュア』で連載していた4コマ漫画「ケンチクくん」と同じスピリットを感じるからだ。

献本いただいた新刊『マンガ 建築士あるある』の実物。なんとなくこういう場で読むのがふさわしい気がし、オフィスの非常階段にある喫煙コーナーで撮ってみた(宮沢は煙草を吸いませんよ)(写真:宮沢洋)

 作者の古渡大(ふるわたりだい)さんにオンラインで話を聞いた。

──以前はtectureで働いていたそうですね。

 はい、大学の建築系を卒業して、2019年にtectureの第1号社員になりました。2020年6月にスタートした「TECTURE MAG」の裏方も手伝って、2022年からは独立して自分の鉄工ブランド「十てつ」をやっています。

──あるある漫画の連載はいつから?

 2023年3月3日が第1回の掲載です。

──なぜ4コマ漫画を描くことに?

 もともと絵を描くのは好きで、tectureに在籍していた時からイラストをちょこちょこ描いていたんです。独立することになったとき、tectureとの縁が切れてしまうのはもったいないなと思って、「あるあるネタ」を書きたいと提案したら、採用されました。

古渡 大(ふるわたり・だい)
1994年生まれ。東洋大学人間環境デザイン学科卒業。2019年東洋大学福祉社会デザイン研究科修了。2019-2021年tecture入社(社員第1号)、空間検索サービス「TECTURE」と、空間デザインメディア『TECTURE MAG』の開発と運営に携わる。2022年に独立。鉄の加工技術を独自に学び、鉄エブランド「十てつ」を設立。鈇工雑貨や照明器具、家具などを制作・販売しながら、建築設計者を対象にした特注制作も行う。そのかたわらで、イラスト作家としても活動。2023年3月か『TECTURE MAG』にて4コマ漫画『#設計事務所あるある』を連載開始。同年3月にはマップ検索サービス「Mappin」を開設、運営者を務める。いずれの活動も建築業界と交わる領域で展開しており、常に建築の周辺(Around Architecture)に身を置いている。Twitterアカウント @totetsu_iron

──毎回のネタはどうやって?

 僕自身は設計事務所の経験がないので、学生時代に感じたあるあるは描けるのですが、設計実務のネタは知り合いに聞き取りして描いたものが多いです。(以下は連載第1回の4コマ)

連載第1回からクオリティが高い! 『Dr.スランプ』を例に出すまでもなく、連載の第1回って重要

──「TECTURE MAG」の掲載ページにネタ募集のリンクがありますよね。

 はい。でも、100本のうち、読者の方からの提案ネタで使えたのは10本くらいです。

──意外に少ないんですね。

 送っていただいた数はもっと多いのですが、設計事務所のイメージを悪くする「ブラックネタ」は辞めようというルールを決めていたので、実際に使えたものはあまりなく…。

──読者から寄せられるネタはブラックなものが多いと。

 はい(笑)。TECTURE MAGは学生さんも多く読んでますから、そういうものは載せられませんでした。

──偉いなあ。私が描いていた「ケンチクくん」は、ブラックもバンバンありましたよ。『日経アーキテクチュア』はほぼ実務者が読んでましたから、そこはむしろ共感ポイントだったと思います。

これは連載が終了した後の2008年2月11日号に書いた「法改正特別編」。久しぶりに読んだら結構面白い

──書籍化の話はいつごろ?

 連載30回くらいのころに学芸出版社さんから話があったと思います。

──なんと、うらやましい。「ケンチクくん」は8年も書いたのに、書籍化の話は1ミリもありませんでした。

 8年も! すごい。何回書いたんですか。

──隔週掲載だから200回弱ですかね(正確には1998年7月~2005年12月の194回)。「ケンチクくん」はその号の特集やニュースとネタが連動していて、毎回のオチを考えるのがあまりにも苦痛なので辞めたんです。もっと楽しく絵を描こうと思って始めたのが、今も続いている「建築巡礼」です。

 そうだったんですか。

──実は、サイトでネタを募集するのが「ずるいなあ」と思ってたんです(笑)。でも、オチを考える辛さは私と同じだったんですね。

 はい、本当に毎回辛くて、100回の節目でいったん休載にしました。

──ご苦労さまでした。100回目は「独立」なんですね。

 はい。最後の何回かは独立に向かって収束するようにネタを考えました。

──「ケンチクくん」の最終回は「結婚式」で、やっぱりそれに向かって収束するようにネタを考えた記憶があります。我々は脳内回路が似てますね。書籍はどんな人に読んでほしいですか。

 すべての設計事務所に1冊置かれるようになってほしいです。仕事に疲れたら、これを手に取って一息ついてほしい。

──ああ、確かに。設計事務所の主宰者が買って事務所に置いてほしい本ですね。それと、古渡さんの絵って、スヌーピーを読むみたいに絵として美しいので、英語版とか外国語版をつくってほしいですね。世界で共感される内容だと思いますよ。

 ああ、それはいいなあ。出版社の方、お声がけください!

──今日はありがとうございました。せっかくなので、何かコラボしましょうね

 はい、ぜひやりましょう!

 ということで、後日、宮沢が途中まで描いた漫画(あるある連載第1話のパクリ)に、古渡さんが付け足してくれて完成したのがこれ↓。全6コマ。通常バージョンに比べて出来はいかがでしょうか?

作:宮沢洋+古渡大。オンラインで話を聞いたあとに、古渡さんの主人公が「ケンチくん」であることを知ってびっくり!

 どうでしたか。より深い「あるある」に仕上がったのでは? 書籍の第2巻が出るときにはこれも載せてください!(宮沢洋)

『マンガ 建築士あるある』古渡大著、学芸出版社、1760円、2025年4月6日発売(アマゾンはこちら