東京都調布市の京王線・仙川駅から南に徒歩10分ほど。桐朋学園仙川キャンパスの正門右手に、隈研吾都市建築設計事務所デザイン監修、前田建設・住友林業JV設計による木造の音楽ホール「桐朋学園宗次ホール」が完成し、3月22日午後に内覧会が行われた。構造設計は、稲山正弘東京大学大学院教授が主宰するホルツストラが監修した。
木造の音楽ホール自体が珍しいうえに、ここではCLT(直交集成板)をホールの構造材として使用している。設計チームによると「世界初」という。カレーチェーン店を展開する壱番屋の創業者、宗次(むねつぐ)徳二氏が建設費の一部を寄付したことから、「宗次ホール」の名が付いた。
ホールは高さ約10m、幅約17m、奥行き約21.5mで、座席数は234席。木造の新たな主役として注目されているCLTを折板構造として用いた。CLTは構造材であると同時に、音を返す反射板の役割を果たす。残響時間は満席時で約1.7秒。
「折り紙」にヒントを得たというCLTの折板は、確かに紙を折ったかのように繊細に見える。CLTは通常、節の多い材の有効活用としてつくられるので、現し(露出の状態)で使うと節が目立つ。しかし、ここは仕上げに現れる層にヒノキを使用した「スギとヒノキのハイブリッド材」。一見、化粧材にしか見えないきれいさだ。
ホールは木造軸組みをCLTの折板がサポートするような構造。細かく言うと、両側面のCLT折板の壁は柱の座屈拘束、天井のCLT折板は梁のたわみ抑制の役割を担う。ホールの耐火性能は準耐火構造で、CLTは「燃えしろ」としての被覆層を兼ねる。
折板構造というと、細長い板を蛇腹のように折ったものをイメージするが、ここは細長い三角形の組み合わせで、交差角(折れ曲がりの角度)が緩い。構造材が音響反射板を兼ねるため、音響とのバランスで形状を決定した。
ホール以外にもCLT
エントランスホールの壁面と2階ホワイエへの階段は、鍵盤に着想を得た、小さな CLT ブロッ クの積層による、ランダムな小端積み壁とした。
講義室やレッスン室が入る東側は、木造軸組み・地上3階建てで耐火構造。耐火構造なので構造材は被覆層のボードに覆われ見えないが、室内の音響反射板にCLTを用いている。
館内のサインが楽しい!
近年の隈建築は、サインが楽しい。ここもこんな(↓)感じだ。
これらは隈事務所のグラフィックチームによるもの。あれだけのプロジェクト数を実現しながら、どれを見ても手を抜いた感じがしないのは、サインの出来栄えに負うところが大きいように思う。
外部のルーバーはスギ。
隣接して立つ2017年完成の校舎も隈氏が設計に関わったもの(設計は前田建設工業と隈研吾建築都市設計事務所、下の写真の左側)。こちらは木造4階建ての耐火構造だ。
ちなみに、日建設計の山梨知彦氏らが日本建築学会賞作品賞を受賞した「桐朋学園大学調布キャンパス1号館」は、同じ調布市内だが最寄り駅が京王線・調布駅で、ここではない。(宮沢洋)
■桐朋学園宗次ホール
東京都調布市若葉町1-41-1
設計:隈研吾建築都市設計事務所設計(デザイン監修)、前田建設・住友林業 共同企業体
構造設計:株式会社ホルツストラ(監修)、前田建設・住友林業 共同企業体
音響設計:唐澤誠建築音響設計事務所
施工:前田建設・住友林業 共同企業体
工期:2020年2月~2021年3月(13か月)
建築面積:1340.02m2
延床面積:2392.59m2
階数:地下1階・地上3階
最高高さ:13.498m2
構造:木造、CLT 折板造(ホール)、一部鉄筋コンクリート構造(地下)