「京セラ美術館ついに開館」「隈研吾展は1年延期」必見ミュージアム総まとめ!(前編)

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 本来であれば、このゴールデンウイークは、建築好きにとって天国のような建築系展覧会ラッシュになるはずであった。それが徐々にではあるが、遅れて始まりつつある。まだ長距離移動の制限などはあるものの、どこで何の展覧会をやっているか、あるいはこれから始まるかは頭の片隅に入れておきたい。

2カ月遅れで開館した「京都市京セラ美術館」。写真は昨年11月の内覧会で撮影したもの(以下の写真も)。今は予約制なので、こんなに人はいない

杉本博司展、京都府民限定で開幕──京都市京セラ美術館

 目玉の1つは、「京都市京セラ美術館」だろう。前田健二郎と京都市営繕課の設計で1933年に完成した京都市美術館は、青木淳・西澤徹夫設計JVによる大規模な改修が完了。京都市京セラ美術館として3月21日にオープンする予定だった。が、コロナ拡散防止のため開館が延び延びになっていた。

 京都は5月15日に緊急事態措置が見直され、この美術館は5月26日に開館した。感染症対策として、当面、展覧会ごとに事前予約制による入館制限を行う。同伴者を含めて「京都府内在住」の人が対象だ。

 後述する展覧会も楽しみだが、この美術館は建築自体も見る価値大。外観のぱっと見は変わらないものの、建物正面の地下を掘って地下から館内に入る動線に改めたり、中庭の一方にガラスの屋根を架けたりと、内部は大きく変わっている。保守的な日本の建築保存に風穴を開ける大胆リノベーションだ。それでも、国の登録文化財となった(詳細はこちらの記事→「築50年でOK」「大胆リノベも可」、太陽の塔など登録文化財へ

 開館記念展は、新館の東山キューブで行われる「杉本博司 瑠璃の浄土」。杉本博司氏(1948年~)は写真家でアーチストだが、「江之浦測候所」(2017年、神奈川県小田原市)など、建築のデザインでも評価が高い。会期は10月4日までの予定。以下は、美術館のサイトからの引用。

 「杉本の京都での美術館における初の本格的な企画となる本展では、新たに制作された京都蓮華王院本堂(通称、三十三間堂)中尊の大判写真を含む『仏の海』や、世界初公開となる大判カラー作品『OPTICKS」シリーズといった写真作品の大規模な展示を試みます。また、『京都』『浄土』『瑠璃ー硝子』にまつわる様々な作品や考古遺物に加え、屋外の日本庭園には《硝子の茶室 聞鳥庵モンドリアン》も設置され、写真を起点に宗教的、科学的、芸術的探求心が交差しつつ発展する杉本の創造活動の現在について改めて考えるとともに、長きにわたり浄土を希求してきた日本人の心の在り様を見つめ直します」

杉本博司展の会場となる新館。左手の日本庭園に「硝子の茶室 聞鳥庵モンドリアン」が展示される

 6月2日(火)からは、併催の「京都の美術250年の夢 最初の一歩:コレクションの原点」も始まる。こちらは改修した本館の北回廊1階で行う。会期は9月6日まで。

新館から本館を見る
内覧会で説明する青木淳氏

 改修の設計者であり館長でもある青木淳氏は、開館にあたり、こうコメントしている。「そこで自らを振り返って想う時間、作品から伝わってくることで慰められること、私たちにとってとても大切だった、そうした美術館でのすべての経験。その経験をこの厄災から取り戻すべく、当館は万全の対策を講じて準備し、5月26日に開館することにいたしました」

 なんだか胸が熱くなるメッセージ。府内在住制限が解けたら行かなくちゃ。

「日本を超えた日本建築」6月2日再開──谷口吉郎・吉生記念金沢建築館

 昨年7月にオープンした金沢市の谷口吉郎・吉生記念金沢建築館では、3月20日から始まったセカンド企画展「日本を超えた日本建築―Beyond Japan―」が、4月11日(土)から休館になっていた。それが6月2日(火)から再開する。

(写真:宮沢洋、以下も同じ)

 本展の監修者であるケン・タダシ・オオシマ氏(ワシントン大学教授)が、館の設計者であり名誉館長でもある谷口吉生氏と協議して8組を選定。それぞれの海外プロジェクトを1件、深掘りしている。

 8組は下記だ(五十音順)。安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、隈研吾、SANAA 、谷口吉生、坂茂、槇文彦。ちなみに谷口吉生氏の展示は、ニューヨーク近代美術館(米国・ニューヨーク、2005年)


 会期は8月30日(日)までの予定だ。

関連記事:【追加情報あり】残念!再び休館へ>>金沢建築館でセカンド企画展がそろり開幕、巨匠8組が壁で競う

自らの空間を使い倒す「坂茂建築展」──大分県立美術館

 大分市の大分県立美術館(OPAM)では、2週間遅れとなった開館5周年記念事業「坂茂建築展 仮設住宅から美術館まで」が、5月11日から始まっている。展示は、1階の展示室全面とアトリウムエリアの5分の3、計約2000㎡のスペースを使った開館以来最大規模のものだ。

(写真提供:大分県立美術館、以下の写真も)


 5月の週末には、道路に面したガラスの水平折り戸が開放され、坂氏が設計時に掲げた「街に開かれた縁側」というコンセプトが現実になった。展覧会の会期は当初の6月21日(日)から7月5日(日)に延長された。

関連記事:【5月17日の写真追加】「坂茂建築展」2週間遅れで開幕、今週末にOPAMの巨大折り戸が開く!

環境モダニスト・瀧光夫がすごい!──京都工芸繊維大学・美術工芸資料館

 京都工芸繊維大学の美術工芸資料館(京都市・松ヶ崎)では、3月23日に開幕した「建築家・瀧光夫の仕事―緑と建築の対話を求めて」が4月9日から臨時休館となっている。当初予定の会期は6月6日なので、このまま終わってしまうのか?  まだ公表されていないが、どうやら会期延長を検討しているようだ。

(写真:宮沢洋、以下も)

 瀧光夫(1936~2016年)は、日本全国に植物園を設計した建築家だ。大阪を拠点とし、愛知県緑化センター(1975年、下の模型写真)、福岡市植物園(1980年)、服部緑地都市緑化植物園(1984年)、水戸市植物公園(1987年)など、全国各地に10件を超える温室や植物園を手がけ、環境デザインの領域を切り開いた。1992年には日本建築学会作品賞も受賞している(受賞対象は「シャープ労働組合研修レクレーションセンターI&Iランド」)。

 この展覧会、筆者(宮沢洋)はすでに見ており、素晴らしい展示だった。環境と一体化した瀧流モダニズムがかっこいい! 開幕日が決まったら改めて詳報する。

「クラシックホテル展」も会期延長を検討中──建築倉庫ミュージアム

 東京・天王洲アイルの建築倉庫ミュージアムで2月8日から始まった「クラシックホテル展─開かれ進化する伝統とその先─」は、他の施設よりも早く2月29日から臨時休館となっていた。国内12件の名ホテル建築について展示するものだ。

(写真:宮沢洋、以下も)

 当初予定では、会期は5月31日(日)まで。これも、このまま終幕か? いや、安心してほしい。ウェブサイトには「会期延長の予定」とある(併催の「高山明/Port B『模型都市東京』」も)。ただ、具体的な予定はまだ公表されていない。気長に待とう。クラシックホテル展の様子は下記の記事でご覧ください。

関連記事:建築倉庫のクラシックホテル展、休館前はこんな感じでした!

隈研吾展@東京国立近代美術館は「1年延期」が決定

 「ようやく開幕」「中断を経て再開」という明るいニュースの一方で、少し悲しいニュースも飛び込んできた。この原稿を書いている5月27日、東京国立近代美術館(東京・竹橋)で7月から始まる予定だった「隈研吾展(仮称)」が「1年延期」になることが発表された。

東京国立近代美術館で次回予定の「隈研吾展(仮称)」を伝えるポスター。2020年4月に撮影(写真:宮沢洋)

 当初は2020年7月17日(金)~10月25日(日)の会期だったが、これが2021年7月~10月(予定)に変更になる。隈氏といえば、一般の人の頭にまず浮かぶのは国立競技場だ。同競技場が舞台となるオリンピックが来夏に開催されるならば、展覧会も来年の方が盛り上がるだろう。…といった議論があったに違いない。

 この展覧会はもともと、「東京国立近代美術館→高知県立美術館→長崎県美術館」と巡回する予定で、今回の発表では、「巡回する高知県立美術館(会期:2020年11月3日〜2021年1月3日)、長崎県美術館(会期:2021年1月22日〜3月28日)については、現在のところ会期の変更はありません」とのこと。つまり、巡回順が変わって「高知県立美術館→長崎県美術館→東京国立近代美術館」となるようだ。一刻も早く見たい人は、11月に高知に行こう。

 次回の後編では、SANAA展など開幕が延期されている展覧会や、夏以降に予定されている展覧会の予定をまとめてお伝えする。(宮沢洋)

保存版!建築好き必見ミュージアム総まくり(後編)(2020年6月1日公開)