「あきらめない」が生む仰天ディテール、永山祐子氏が大阪・関西万博で取り組む2つのパビリオンの詳細を聞いた!

Pocket

 飛ぶ鳥を落とす勢いの建築家──。今そんなフレーズで頭に浮かぶ建築家の1人が永山祐子氏だ。知り合いなので、この記事では永山さんと呼ぶ。

 建築シーンの最前線にいながら、子育てもしていて、一体いつ寝てるんだろう(それなのにいつも元気そう)と思う永山さんから私(宮沢)に、こんなメッセージが届いた。

 「この建築、アップサイクルであるようでないと思うんです。その辺、ぜひじっくり話したいです」

3月8日の会見で「ウーマンズ パビリオン」について説明する永山氏。カルティエ ジャパン、2025年日本国際博覧会協会、内閣府、経済産業省の共催によるプレスカンファレンスにて(オンライン配信された会見のキャプチャー画像)

 超多忙なはずなのに、私がさらっと書いた記事を見過ごせず、時間をとって説明したいというのが永山さんらしい。永山さんが見過ごせなったのは、この記事↓だ。

日曜コラム洋々亭46:永山祐子氏が大阪・関西万博「ウーマンズ パビリオン」で挑む「アップサイクル建築」の可能性(2023年3月12日公開)

2025年日本国際博覧会 の「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」 © Cartier

 ざっくり要約すると、永山さんが2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に向けて設計している「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」は、2020年ドバイ国際博覧会日本館のファサードを再構築する点で「リユース」だと永山さんは説明しているが、建築全体で見ればアップサイクルであり、「アップサイクル建築」と呼んだ方が建築の新たな方向性を示していて面白いのではないか──という話だ。

 自分としては、なかなかいい着眼点だと思ったのだが、会見(オンライン)と資料だけで書いたので誤読があったか? 永山さんに時間をとってもらい、話を聞いてきた。

リユース先を自ら探す

 まず面白かったのが、今回の「リユース」(詳細は後で説明するが、本記事ではリユースと呼ぶ)が、誰かのお膳立てで生まれた流れではなく、永山さん自身が関係者にその必要性を説いて回り、実現にこぎつけたものだということ。以下は、永山さん本人の説明。

 「ドバイ万博日本館のファサードを設計している段階で、別の場所でリユースすることは想定していました。部材の接合部をボールジョイントにしたのは、現地の施工レベルでも精度を保つためと、閉幕後に部材を再利用しやすくするための2つの理由からです」

2020年ドバイ国際博覧会日本館の外観(写真:2020年ドバイ国際博覧会日本館)

 「とはいえ、パビリオンが出来上がるまでは、イメージを実現することに精一杯で、リユースのことはしばらく忘れていました。完成間近になって、『そろそろ閉幕後のことを考えないと廃棄されてしまう!』と急にあせりだしました(笑)」

 それからの奔走ぶりは生々しくて活字にはしづらいが、紆余曲折の末、解体を大林組、輸送保管を山九の協力、そして館の共同出展者であるカルティエ ジャパンという良き理解者を得て、リユースを前提としたパビリオンの実現にこぎつけた。つまり、もし永山さんがリユース先探しを自分で始めていなければ、このパビリオン自体がなかったか、あるいは全く違うものになっていたのである。「あきらめなければ、かなうこともあるんだなと、改めて気づきました」と永山さん。いえいえ、普通の人には真似できないパワーに脱帽です。

パーゴラを支える柱・梁はない

 脱帽するのは、設計のこだわりもだ。ドバイ万博の日本館、私は誤解していた。前述の記事で私はこう書いた(太字部)。

 ドバイ日本館のファサードは、日本の「麻の葉文様」を立体格子で表現したものだ。ひらひらと空を舞う白い折り紙のようなファサードは、建物の構造体でもある。

 文章として間違ってはいない。「ファサードは、建物の構造体でもある」という部分を私は軽く見ていた。「ファサードとして自立する壁」だと思っていたのである。本体の外側に、ファサードが寄りかからずに立っている、という意味で「建物の構造体」と言っているのかな、と。

 そうではなかった。下の写真を見てほしい。

2020年ドバイ国際博覧会日本館の内観(写真:2020年ドバイ国際博覧会日本館)

 ファサードと同じ立体格子が上部にも架かっている。私もこういう写真を雑誌で見ていたのだが、このパーゴラ(ガラスははまっておらず、屋根ではない)は、鉄骨の柱・梁で支持しているのだと思っていた。

 永山さんは、「違いますよ。ファサードの立体格子で支えています」と。

2020年ドバイ国際博覧会日本館の内観(写真:2020年ドバイ国際博覧会日本館)

 そうか、永山さんが「アップサイクルであるようでない」と言ったのはそういうことか。

 下の図を見てほしい。ドバイ万博日本館と大阪・関西万博のウーマンズパビリオンの施設構成の比較だ。いずれも色の付いた部分が立体格子(組子)。ファサード部分だけでなく、ピンク色のパーゴラ部分も再利用する。奥にある屋内展示部分は新たに建てるわけだが、色付き部分に新たな柱・梁を立てることはない。

ドバイ万博日本館の組子ダイアグラム ©永⼭祐⼦建築設計
ウーマンズパビリオンの組子ダイアグラム ©永⼭祐⼦建築設計

 びっくりするのは、この立体格子が同じパーツの繰り返しではないこと。

 「コストの理由から、立体格子の鋼材の厚みが場所によっていろいろ違っているんです。組み直しても、新たに部材を加えることなく構造が成立するように、構造設計担当のアラップとともに部材の配置を検討しているところです」と永山さん。ひえー、それは大変な作業。AIにやってもらいたい。

ドバイ万博日本館のファサード解体作業の様子©Takamitsu Miyagawa
ドバイ万博日本館のファサード解体作業の様子©Takamitsu Miyagawa
解体後の検品の様子©Takamitsu Miyagawa

確かに「リユース建築」と呼ぶべき

 前回の記事でも書いたが、リユースとアップサイクルはそれぞれ以下のように説明される。

リユース:一度使われた製品にアレンジを加えることなく、そのまま繰り返し使うこと。
アップサイクル:本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること。「創造的再利用」とも呼ばれる。

 確かにこの立体格子の仕組みを「アップサイクル」と呼ぶのはどうかと思った。自分が設計者だったら「リユース」と説明するだろう。「アップサイクル建築」がこれから重要だという考えは変わらないが、このパビリオンは「リユース建築の新機軸」と位置付けたい。

2025年日本国際博覧会 の「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」©永⼭祐⼦建築設計

 「そろそろ次のリユース先を考えなければと、そわそわして来ました(笑)。次は恒久施設でもいいかなと思っています」と永山さん。この人なら、本当に次の着地点を見つけるかもしれない。

大阪・関西万博ではパナソニックグループのパビリオンも

 大阪・関西万博で永山さんが担当するもう1つのパビリオン「ノモの国」(パナソニックグループ)もディテールがすごいので、簡単に紹介しておく。こちらは、ファサードの構造部材が「循環」をイメージした「8の字」形だ。このカーブは型で曲げるのではないという。「パイプを差し入れるとコンピューター制御された特殊な口金によって3次元的に曲げられるベンディングマシーンが見つかった」と永山さん。それは見てみたい……。

パナソニックグループのパビリオン「ノモの国」の外観イメージ(資料:パナソニックホールディングス株式会社)
パナソニックグループのパビリオン「ノモの国」の外観イメージ(資料:パナソニックホールディングス株式会社)
「ノモの国」のファサードのモックアップ(写真提供:永山祐子建築設計)
「ノモの国」のファサードのモックアップ。1つのパーツは1.4mの大きさ。最終的にこれが縦に20段積まれ、全体では約1400個で構成される(写真提供:永山祐子建築設計)

 2025大阪・関西万博で永山さんが「世界の注目建築家」の1人になることは間違いなさそうだ。(宮沢)

永山祐子:1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998−2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2020年〜武蔵野美術大学客員教授。現在、東急歌舞伎町タワー(2023)、2025年大阪・関西万博パナソニックグループパビリオン「ノモの国」、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進行中(写真提供: 永山祐子建築設計 )