永山祐子氏12年ぶりの個展が新宿「AWASE gallery」で開幕、カジュアルな展示だから気づいた「らしさ」の理由

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 永山祐子氏の個展「確かにありそうなもの」が 9月21日から新宿3丁目の「AWASE gallery」で始まった。永山氏の個展は2013年11月に表参道のGYREで行われた「建築からはじまる未来」以来、12年ぶりとなる。

永山祐子氏の個展「確かにありそうなもの」のRoom2「動く建築」(会場写真:宮沢洋、以下も)
Room1「頭の中のような部屋」で説明する永山氏

 会期は10月12日(日)までの3週間とかなり短い。かつ会場の「AWASE gallery」は月・火は休廊だ。「飛ぶ鳥を落とす勢いの永山氏がなぜアートスペースで個展?」「どうしてもっと長くやらないの?」と思ってしまうが、会場のことを知ると納得がいく。「AWASE gallery」(東京都新宿区新宿3-32-10 松井ビル8階)は、永山祐子建築設計のスタッフである松井陸氏と、アーティストの山田康平氏が運営するギャラリーなのだ。松井家の所有するビルの8階を松井氏の設計でリノベーションして、今年6月にオープンした。

左がギャラリーの運営者であり、永山祐子建築設計のスタッフでもある松井陸氏

 今回の永山祐子展は、松井氏から永山氏に提案して、6月に開催が決まり、それから急ピッチで準備を進めて開催にこぎづけた。

 今年はすでに多くの建築展を見ているが(例えばこちらの記事参照)、それらのどれとも印象が違う。いい意味でつくり込まれ過ぎておらず、センスのいい人の家を訪ねたよう。

現代アートのように見える左のものは大阪・関西万博パナソニックグループパビリオン「ノモの国」の外装のリング。右の印象派絵画のように見えるものは、それを2027年国際園芸博覧会でリユースするイメージ図。松井氏は両プロジェクトの担当者でもある
置かれているソファやテーブルは、実際のプロジェクトのために永山氏がデザインしたもの

 展示されているものの詳しい説明は他のメディアが書くと思うので、個人的な関心事だけ書く。筆者は本展を見て、永山氏に関して今までモヤモヤとわからなかったことに1つの答えが出た。こういうカジュアルな展示だからこそ気づけたのかもしれない。

 筆者は彰国社の『ディテール』誌で2021年春に、「イラストでわかるディテール名手のメソッド」という1人特集を担当した。そして2023年7月号から2年間、同名の連載をやった(こちらの記事↓を参照)。

 特集と連載とで計40人近い建築家(古くは山田守から若手の田根剛氏まで)を取り上げ、「その人らしいデザインだ」と自分の脳が判断する理由を図解した。永山氏も常に候補に考えていたのだが、結局、なぜ永山氏の建築が永山氏らしく見えるのか分析することができず、取り上げられなかったのである。

 永山氏の建築はどれも「表層」の感じさせ方に独特のものがある、ということまでは突き止めていた。だが、使用する素材が銅板だったり陶器だったりコンクリート打ち放しだったりと多岐に渡り過ぎていて、それが軽いんだか、重いんだか、共通項が見いだせないのである。

 今回の永山展を見て、永山氏の「らしさ」は軽さとか重さではなく、「表層の組成がわかりやすいこと」なのだと気づいた。ほとんどの空間は、見た瞬間に表面が何でできているのかがわかるのだ。ブラックボックスがない、と言った方が伝わりやすいか。

 例えば、本展のこんな見せ方は実に永山氏らしい。パネルではなく、布にプリントしてある。

 カーテンレールから吊るしているものもある。

 “永山祐子的表層論”は、個人的にはかなりグッときたテーマなのだが、個別の実作について書いてしまうと、仕事で書くときのネタがなくなるので、ここではそのくらいにしておく。

 繰り返すが、会期は10月12日(日)までと短い。「本当にここ?」と思うような入り口なので、ちょっと入るのに勇気がいるかもしれない。だが、無料でゆったり見られる。何しろオーナーは永山氏の部下だから安心。都内近郊の方はぜひ。以下はAWASE galleryの公式サイトより。(宮沢洋)

8階のこんな廊下に入り口がある

■「確かにありそうなもの」 永山祐子個展

【永山祐子によるコメント】
今年、作品集と新書という二冊を刊行する節目に、ギャラリーからお声がけをいただき、本展を開催することとなりました。

会場は二つの部屋で構成されています。ひとつ目の部屋には、作品集の「レシピページ」を思わせる展示が広がります。発想の種や、思いがけないブレイクスルーをもたらしたモノが並び、私の頭の中をそのまま形にしたような空間となっています。もうひとつの部屋では、作品集の一章「動く建築」をテーマに、万博をはじめとするリユースのプロジェクトを実物のモックアップや映像を通して、かたちを変えながら未来へとつながっていく建築の姿として展示しています。

展示写真はタペストリーやTシャツとなっており、会期終了後も廃棄されることなく、誰かの手に渡り、新たに活かされることを願っています。
展示解説は音声でお聞きいただけますので、会場で作品とあわせて、あるいは帰り道などに耳を傾け、展示の理解を深めていただければと思います。

【本展展示物のチャリティーオークション実施について】
本展の展示物は、会期中の展示物となるだけでなく、会期後には新たな持ち主へとバトンを渡していきます。

現在、株式会社CACL(石川県能美市)を中心とした、能登の震災復興プロジェクトで、地震で倒壊した家屋の瓦を回収しアップサイクルし建材に生まれ変わらせていく取り組みが始まり、その一端を担う中で、<能登半島地震で倒壊した家屋の瓦の回収と保管に関する支援チャリティー>としてオークションを実施する運びとなりました。

この震災復興プロジェクトは、能登の伝統的風景を未来へと継承すること、能登の企業や人材を多く採用し、現地の雇用創出の一助となることを目指しています。
つきましては、本展で展示されているタペストリーや一部作品の売上金(※)を本プロジェクトに支援金として寄付いたします。ご希望の方は、希望購入価格を応募フォームよりご応募ください。
※制作費用原価+輸送梱包費用を抜いた全ての金額

プロジェクト概要ページ
https://cacl.jp/topics/20250901_project/

ご応募はこちらから
https://forms.gle/CBnxczYgt9ugXu4j7

【開催概要】
「永山祐子個展 確かにありそうなもの」
・会期:9月21日(日)〜10月12日(日)
・時間:12:00〜19:00
・休廊:月-火
・入場:無料

・会場:AWASE gallery(新宿)  東京都新宿区新宿3丁目32−10 松井ビル8F
・主催:AWASE gallery、永山祐子建築設計
・お問い合わせ:info@awasegallery.com

【展示協力】
モリトアパレル株式会社
ナレッジビート株式会社