「名護市庁舎」は移転新築が有力、現庁舎はどうなる?─日曜コラム洋々亭71

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 「続きは来週日曜日に」と書いた「続き」である。旧香川県立体育館の例からもわかるように「自治体が行う利活用調査はあり得ないほど短い」ので、「名護市庁舎」では十分に備えておかなければならない──という話である。

(写真:宮沢洋)
(イラスト:宮沢洋)

 本題に入る前に、利活用の意向調査(サウンディング型市場調査)の補足。前回の記事で、香川県が2021年秋に行ったサウンディング型調査の募集期間が「2か月半」であったのは、「特別短かった、というわけではない」と書いた。そして、岐阜県羽島市も旧市庁舎(設計:坂倉準三)の民間提案募集の期間が2か月半だったから、と理由を書いた。

 記事を公開したあとに、例証が1つでは説得力に欠けていたのではないかと思い、三重県伊賀市の「旧上野市庁舎」(設計:坂倉準三)のサウンディング型調査はどうだったのか調べてみた。ご存じのとおり、これは良い形で活用することになった方の事例である。

 市のサイトにこんなチラシが残っていた。

 スケジュールを見ると…

2020.1.24 サウンディング型市場調査実施要領の公表
2020.2.21 現地見学会・説明会の参加申込期限
2020.2.26 現地見学会・説明会
2020.3.19 サウンディング(対話)の参加申込期限
2020.4 サウンディング(対話)の実施
2020.5 実施結果概要の公表

 公表から申込期限までは2か月弱だ。そんな短い期間でよく手を挙げる民間企業があったものだ。少なくともこの段階で1社以上あったので、結果的に事業プロポーザルが実施され、建物は残った。

衝撃の建て替え検討開始から3年、名護市庁舎はいま…

 ここから本題の「名護市庁舎」である。名護市庁舎は1981年竣工。現在、築44年。設計者は、1978年に実施された公開コンペで当選した「Team ZOO」。象設計集団とアトリエ・モビルの共同体で、いずれも吉阪隆正の事務所から独立した当時若手のグループだった。2024年にDOCOMOMO Japanによる「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選定されてる。

(写真:宮沢洋)

 名護市庁舎については2022年6月27日に当サイトでこういう記事↓を書いて、不安を煽ったままになっていた。

 この記事は、「名護市庁舎等更新検討に関する基礎調査業務」なるものが募集されていて、「更新の方向性」の検討内容の中に、「ア 施設の機能・構成に関すること イ 建て替えに関すること ウ 立地に関すること エ その他更新の方向性に関すること」と、「建て替え」も想定されている、という内容だ。

 それから3年ちょっとがたった。その後、沖縄には行くことができていないので、あくまでWEBで調べられる範囲での情報だが、ひとまず、庁舎は「別の敷地で移転新築する」可能性が高まっている。今年3月の『沖縄タイムス』の報道はこんな見出しだ。

名護市の新庁舎 候補地2カ所に絞られる 検討委員会が市長に答申 決定は2025年度以降 本体工事に121億円

 これは「名護市公用公共用施設設置検討委員会(庁舎等)」(委員長:太田佐栄子名桜大上級准教授)が3月21日、渡具知武豊市長に整備方針案を答申したタイミングでの記事だ。その「名護市庁舎等更新検討に関する整備方針」は市のサイトで読める(www.city.nago.okinawa.jp/machidukuri/2025032900027/file_contents/tyousyaseibihoushin.pdf)。読んでみると、確かに、論調が「現在地での建て替え」ではなく、「移転新築」重視になっている。

 移転に舵を切り始めたのは、2023年に市が市民に行ったアンケート(289 名が回答)で、「『移転先で市民会館などの公共施設と複合化し建替え』の回答が最も多く38.9%を占めた」ことが、大きな理由と考えられる。

 少しほっとした気持ちになるが、現在の庁舎は一体どうなるのか。少し長くなるが、答申の当該部分をまるっと引用する。

第4章 現庁舎の取り扱いについて
(1)基本方針での位置づけ

令和5年度に策定した基本方針では、現庁舎については、文化的価値のある建物として保存活用を望む声がある一方で、耐震不⾜・維持管理費等を懸念する意⾒や⺠間事業者の建物の保存・活用意向が少ないことから、一部保存やデジタル保存、⺠間活⼒の活用等も含めた保存・活用策を引き続き検討することとしている。

現庁舎の建物の保存・利活用や、敷地の利活用に関する取り扱いについて、各種調査の結果から方向性を整理し、意⾒をとりまとめた。

■基本方針における各種調査結果の整理
【市⺠アンケート】
「建物は残したい」と「建物は残さずに敷地を活用」との意⾒が同程度だった。ただし、残したい場合でも、市の財政負担と⺠間資⾦で改修し、建物を活用するという、一部、市の負担は必要という意⾒がみられた。

活用方策としては、現庁舎の利活用の場合、商業施設が最も多く、跡地活用の場合は商業施設と娯楽施設が同程度だった。

【来訪者アンケート】
名護市に来訪経験のある方の現庁舎の認知度は約26%となっており、そのうち約56%の人が訪れたことがあると回答していた。
現庁舎を認知している来訪者の、約86%の人が建物を残してほしい意向を示した。

【関係団体等ヒアリング】
耐震診断の結果を踏まえると、耐震改修をしても施設全体の活用は困難な可能性が高く、一部であれば可能性はあるという意⾒がみられた。ただし、文化的価値からもデジタル保存等の方法での保存も検討した方が良いという意⾒もみられた。

【市場調査】
現庁舎の利活用の意向については、「条件によっては可能」が2者、「利活用は難しい」が4者、「どちらともいえない」が3者、現庁舎を解体した後の跡地活用の意向についは、「可能」が2者、「条件によっては可能」が3者であった。

(2)保存・活用の事例
旧庁舎等の保存及び活用方法に焦点を当て、地域活性化に資する方策を検討する資料として事例収集を⾏った。

①全体保存の事例(旧⼤宜味村庁舎)
歴史的建築物としての価値を完全に保持し、地域の歴史として活用している事例

②⺠間活⼒の活⽤事例(横浜市旧市庁舎)
⺠間事業者との協働により、建築物の利活用を促進した事例

③耐震補強による活⽤事例(港区郷⼟歴史館等複合施設(ゆかしの杜))
建築物の耐震性能を向上させる⼯事を施し、現代の安全基準を満たしたうえで、その建築物の歴史的価値を維持しながら利用を継続する事例

④⼀部保存の事例(旧東京中央郵便局、旧第⼀銀⾏神⼾⽀店)
建築物の一部を保存しつつ、新たな機能を加えることで、現代的な活用を図った事例
外観を保存することで地域の景観や歴史的価値を維持した事例

⑤デジタル保存の事例(⽻島市旧本庁舎)
デジタル技術を活用し、建物の記録や展示を可能にした事例

 …と、太田佐栄子名桜大上級准教授を委員長とする検討委員会は、庁舎移転後の現庁舎は民間の力を得て活用すべし、という方向をかなりプッシュしているように筆者には読める。素晴らしい。現庁舎の利活用の意向については、実際に民間にヒアリングを行ったようで、「『条件によっては可能』が2者」あったとしている。これも素晴らしい。この種の答申で、こんなに残る方の建物を気にかけたものは珍しい。

 「意見」としてこんなことを書いている。

●現庁舎は地域資源として残したいという思いがあり、現状のままを後世に残すような取組として、修繕手法について研究しながら、最終的な利活用の展開を含めたリノベーションプロポーザルというやり方もある。また、同じ文化的な施設として、ホールとの一体的な利活用も考えられる。利活用に関しては、最近国内の各事業で活用が活発化している、コンセッション等に対する国の⽀援策等の活用についても検討してほしい。

シーサーがあったころ。2009年撮影
現在

楽観はできない

 これは、あくまで検討委員会の答申である。答申が首長や議会によって覆されたとしてもなんら珍しくはない。検討委員会は中立な立場なので、答申には、正反対の「意見」も載せている。

現庁舎については、残さない方が良いとの意⾒もあった。建物の補強に税⾦が使用されるなら、別の目的で税⾦を使い、将来⼦どもたちに負担をかけないで欲しい。名護市では用途廃止された施設が物置状態で使用されている。

●解体された那覇市⺠会館の取り扱いでは、建物を残すためにはコストがあまりに⼤きく、最終的には、施設そのものではなく、歴史文化をどう継承するか、そのために何を残すかについて議論された。現庁舎の歴史は⼗分理解しているが、施設規模が⼤きい。外側の劣化も進んでいる。建物を残すためのコスト負担は⼤きいだろう。現庁舎の価値を予算の範囲内でどれだけ継承できるかの手段を考えるべきだと思う。

 そして、現庁舎の取り扱いについてはこう結論づけている。

「今後、個別計画を策定し、一部保存やデジタル保存、民間活力の活用等も含めた保存・活用策の検討を行う必要がある。」

 決して楽観はできないのだ。ゆえに、今後行われるであろう市によるサウンディング型調査が重要なのである。たぶん、いきなり本番の事業プロポーザルということはなく、民間との対話の場が設けられるはず。そのとき、たとえ2か月を切るような短い募集期間であっても、旧香川県立体育館再生委員会が7月に出したようなリアリティのある提案を出せるように今から準備しておく必要があると強く思うのである。(宮沢洋)

前回の記事を読む↓。