内藤廣連載「赤鬼・青鬼の建築真相究明」第5回:風と煙と建築と──喫煙者のささやかな反抗

Pocket

どうやら赤鬼と青鬼は、大手メディアではできない話をここでしたくなるようですね…。今回は、“メディアのタブー”ともいえそうな喫煙とクリエーションの関係についてです。吸わない人も(特に喫煙室のコミュニケーションをうらやましく思っている人は…)、「やっぱりそうか!」と言いたくなります。(ここまでBUNGA NET編集部)

この建築は、設計者が喫煙者でなければ生まれなかったのでは、という話です。詳細は後半に(写真:宮沢洋)

喫煙の理由

[赤] 喫煙者の旗色がわるいねー、どんどん喫煙場所がなくなってく。嫌われてるんだねー。

[青] まあこの原稿だってタバコくわえながら書いてんだけどな。

[赤] タバコでも吸わなきゃ、こんなおちゃらけた文章なんてとても書けないないしな。吸うとついつい思考にドライブがかかる。

[青] 気分が落ち着くってこともあるしな。喫煙建築家協会ってのがあったら真っ先に会員になるけど。求められれば会長になってもいい。

[赤] うーん、ずいぶんガラが悪そうな集団だなー。

[青] どうもアメリカ発信のムーブメントは信用ならないんだよ。好きになれない。やっぱり彼の国はピューリタニズムの潔癖さが建前なのかなー。そんなにダメならアメリカタバコなんて売らなきゃいいんだよ。

[赤] まあ、負け犬の遠吠えだね。この国は面従腹背の植民地国家なんだから、そのあたりは諦めるんだな。建前はハイハイって禁煙なんじゃないの。でも、この頃は医者まで巻き込まれて、世の中は健康増進まっしぐらだからね。

[青] ダメって言われれば言われるほど、天邪鬼のひねくれた気分が湧いてくる。

[赤] まあ、小市民的なささやかな反抗かな。

山口文象。内藤氏との関係については連載第2回を参照

[山口文象] 君に言ったことあるよね。建築家が、葉巻を咥えて、髭を生やして、ゴルフをやったら、もう終わりだからな、って。

[赤] 覚えてますよ。ヒゲははやしてますけど、葉巻じゃなくて紙巻きタバコだし、ゴルフはやらないし、まあまあなんとなく守ってますけど。山口さんも葉巻とゴルフはやりましたよね。髭がなかったからOKってことですか。

[山口] そういうことじゃなくて、建築家の思い上がった自己陶酔のことを言ったつもりなんだけど。

[青] それは大丈夫だと思います、こんな原稿書いてバカやってますから。

[赤] 青鬼赤鬼なんてやっていると、全体として自己陶酔じゃなくて自己崩壊の方に行ってるような気がしています。

[山口] 壊すなら徹底的にやるんだね。でも、あとは知らないぞ。

[赤] 後は野となれ山となれ、です。自分のことですから。喫煙はとりあえず崩壊を繋ぎ止めているバインダーみたいなもんかも知れません。煙に包まれると不思議な一体感があるんですよ。

[青] 一昔前だけど喫煙建築家では、SANAAの妹島和世さんと西沢立衛さん、西沢大良さん、シーラカンスの小島一浩さん、その他にもずいぶんいたなー。今はほとんどいない。

[赤] 松岡正剛さんは肺ガン患ったのに、まだ吸っているらしい。ここまでくると凄みがあるね。

[青] 四十年近くも前のことだけど、アーティストとデザイナーの十人くらいでバウハウスを見ようってことで昔の東ドイツに旅したことがあったな。

[赤] あの時の同行者は喫煙者が多かったね。

[青] デザイナーの田中一光さん、彫刻家の小清水漸さん、評論家の秋山邦晴さん、デザインジャーナリストの森山明子さん。すごい人たちばかりだけど、みんなヘビースモーカーで移動のバスの中は煙がたなびいていたよねー。

[赤] あの風景が懐かしい。

[田中一光] まあ、今は昔の物語だね。タバコっていうのは、きっと現実離脱のスイッチみたいなものだったんだよ。

[青] ココ・シャネルの写真を見るといつもカッコよくタバコを吸ってるよね。ある人から聞いたんだけど、オードリー・ヘップバーンはチェーンスモーカーだったらしい。イメージと違うよね。

[赤] ハンナ・アーレントの映画を見たけど、最後の大学の階段教室での講義、今じゃあ考えられないけど、黒板前の教壇でタバコ吸いながらの弁論、カッコよかったなー。

[青] ジェームス・ディーンもアラン・ドロンも田宮二郎も、肝心な時にはタバコを吸ってるね。

[赤] でも、映画とタバコだったらやっぱりジャン・ギャバンだろう。

[青] 若い世代は知らねーだろうなー。還暦過ぎたおじさんだったらギリギリ知ってるかもしれないけど。

[赤] 裏寂れた波止場に夜霧、滲む街灯の灯火、そして襟を立てたコートに帽子をまぶかに被った渋さ満載のジャン・ギャバン、あらゆる人生の悲哀を背負ったような彼が、遠くを見るような目でタバコを一本。

[青] たぶんゴロワーズだろう。

[赤] ライターのカチンという音がして火をつける。いいなー。

[青] ガキの頃、あういうタバコが似合うオヤジになりたいもんだと思ったけど、ぜんぜんなれてない。

[赤] なんでああなれないんだろう。

[青] オマエがいけないんだよ。おちゃらけたこと言ってるうちはムリムリ。あそこには赤鬼なんて一欠片もいない。ひたすら青い、それもかなり渋い色の青だぜ。人生ってものに絶望すると、あの感じが滲み出てくるんだろうな。

[赤] 青とタバコは究極のところで結びついているんだね。

[青] このあたりの気分、若い奴らに、わっかるかなー。

[赤] わっかんねーだろうなー。

煙の行方と音の行方

[青] タバコといえばアルゲリッチ※だね。彼女のドキュメント映画でも、タバコをくわえながら練習してた。鍵盤の上に灰が落ちようと気にしない。

※マリア・マルタ・アルゲリッチ:アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のピアニスト。1941年生まれ。世界のクラシック音楽界で高い評価を受けているピアニストの1人

[赤] 一度食事会で会ったけど、会食の隙間で屋外のしけた喫煙所に行ったら彼女がいて、タバコ吸いながら話をした。

[青] やっぱりかっこいいねー。

[赤] 舞台では神だけど、舞台を降りたら普通のオバさんに戻るところがたまらなくいいね。本当に素敵な人だと思った。

[青] その変換装置がタバコなんだね。真人間に戻る装置みたいになっているんだよ。彼女の音楽の自由奔放さは、煙の行方を追っていくようなところがある。

[赤] 煙に巻くんじゃなくてね。

[青] 馬鹿者、マジで言ってるんだから。

[赤] スミマセン。

[青] 煙は形を変えて流れて消えていく。同じ煙は二度と現れない。そんな煙が彼女にインスピレーションを与えているんだよ。宙を弧を描いて消えていく。その意味で、ショパンを弾こうがバッハを弾こうが、とりあえず譜面はあるけど、彼女にとっては即興なんだね。

[赤] わかるなー。それが彼女の音楽に命を与えている。

内藤氏が設計した「アルゲリッチハウス」。未完(写真提供:内藤廣建築設計事務所)

[青] アルゲリッチハウスは、不幸にも出資者が病に倒れて実現しなかったけど、オレたちの彼女に対する思いは変わらないな。

[赤] あの建物は二つの要素が対立するように構成している。卵のようなRCのシェルター、あれは音を閉じ込める殻、その意味で青っぽい部分だね。

[青] 木で構成される屋根と庇は自由な赤っぽい要素になっている。まあ、オレとオマエの役割分担が珍しくうまくいった建物だね。シンプルかつ複雑、でもそれらが矛盾なく収まっている。

[赤] 葉っぱを紙で巻いた物質、それが燃焼することで融通無碍な煙になって空中に消えていく。物質とイメージ、現実と空想、拘束と自由、想像を逞しくすれば、あの建物の形式にはこんな話を結びつけることもできるしねー。

[青] ちょっとそれはいかになんでも考えすぎなんじゃないの。

[赤] いいじゃないか、想像するのは自由。天才喫煙ピアニストのアジトを喫煙建築家が心を込めて設計する、って最高じゃないか。

[青] まあな、実現しなかったけど。

島根県芸術文化センター「グラントワ」の島根県立石見(いわみ)美術館で2023年に開催された「建築家・内藤廣/Built とUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」にて。同展のリポートはこちら

マッチ擦る気分

[赤] タバコの煙は、オレたちにとってはどうなんだろう。まあ、いろんなスターたちのイメージが重なり合った憧れかな。火をつけてボーっとしていると、不思議とそんな気分になってくるしね。

[青] バカかオマエは。

[赤] タバコを吸い始めたのは二十歳過ぎの学生時代だけど、なんか大人になったような気になったね。お酒はあまり飲まなかったから、その分、タバコ吹かして多少不良っぽい雰囲気を出して楽しんでた。やっぱり思い出すのは学生時代かな。

[青] 火をつけるということ、燃えて短くなっていくこと、煙の行方を追う時の独特の解放感。

[赤] これからの自分の人生を考えたりして、煙の行方を眺めていると、どういうわけか知らない間に詩人になったり哲学者になった気分に酔えた。自分もジタバタしてるけど、やがては焼かれて煙になる、っていう想像も可能だしね。

[青] 「マッチ擦る つかのま海に霧ふかし 身捨るほどの故国はありや」って感じか。

[赤] いいなー、寺山修司だよね。 世の中捨てたこの感じ、憧れたね。

[青] でも、寺山修司や永六輔なんかは、一と世代上の戦中派だからね。オレらは遅れてきた世代。なんにつけても中途半端な世代なんだな。

[赤] タバコは前の世代へのオマージュかな。本物じゃない。

[青] タバコって、吸ったら体に悪い、ってところがミソだね。悪いことをあえてやる。

[赤] 死に向かうイメージをあえて身にまとう。死なんて怖くねぇぞ、っていうことをあえて表明する。安っぽい強がりだけどな。

[青] うーん、カッコよすぎないか。でも、そんな気分はあったよな。今でもそういうところがある。

[赤] タバコっていう存在は、葉っぱと紙とフィルターという物質が整然と箱に収まっている。工業製品て感じ。これは青い存在だよね。それを手に取って火をつける。煙が体と脳に沁みてくる。ここからが赤の世界が広がるんだよ。火、煙、変化する脳と体。

[青] どういうわけか、最近、歳のせいか昔を思い出すことが多くなった。

[赤] そのときに頭の中で流れている曲が、どういうわけか「はっぴいえんど」っていうフォークグループの「風をあつめて」って曲。

[青] あれはメンバーがすごい。松本隆、細野晴臣、大瀧詠一、鈴木茂。

[赤] 作曲は細野で、このいい加減な脱力感もいいけど、なんと言っても歌詞だね。やっぱり松本隆って人はすごいと思う※。

※赤鬼が引用したかった「風をあつめて」の歌詞はこちらなどで。

[赤] いいよね。このシュールさ。防波堤越しに緋色の帆を上げた都市が碇泊している、なんてどうやって思いつくんだろう。摩天楼の衣擦れが舗道をひたす、なんて痺れるよね。

[青] この感じは今の音楽には皆無だなあ。まあ、オレたちも歳とったってことだけど。

[赤] あの時代の学生の気分って、こんな感じだったよね。

[青] 歌詞には出てこないんだけど、どういうわけかあの喫茶店の空間には、タバコの煙が漂いまくっているんだよなー。

[赤] 1971年だからねー。大学に入学してしばらくした頃かな。

[青] オレらは傍観者だったけど、学生運動の熱が中途半端に冷えて、なんか冷めた感じがあったよね。そのころのシラケた気分が、ほんとにうまくこの歌と歌詞に映し込まれている。

[赤] オレたちがタバコを吸い始めた時の気分がこの曲の中にある。それなりにやり切れない思いがあったんだよ。

[青] で、今、時たまタバコを吸う時に蘇ってくるんだな、煙とともにあの喫茶店の空間が。

[赤] いろいろなことをやってきたけど、あんまり変わっちゃいねぇな、世の中もオレたちも、ってことよだね。

[青] そう、歳ばかりとったけど、たいしたことしてないってことだよ。

ギャグで煙に巻く

[赤] 筒井康隆の『最後の喫煙者』って短編が最高。笑える。

[青] 喫煙者の小説家が嫌煙運動でだんだん追い詰められていく。はじめはジワジワと、だんだん露骨に。

[赤] その様がリアルで面白い。まったく今の東京みたいな感じだよ。

[青] まさにオレたちの身の回りで起きていることだよね。

[赤] やな世の中になってきたなー。

[青] 喫煙者を軽蔑するあの目つき、耐え難いね。自分は絶対に正しい、って確信に満ちているからね。

[赤] 差別する目線っていうのは、される側になって初めてわかるもんだね。同じことを知らずにしていないか、気になってくるなー。

[青] ほぼ、無意識なんだろうからね。気をつけなくちゃ。

[赤] 小説では、最後は国会議事堂の塔の上に追い詰められる。

[青] オレたちもやがては追い詰められるのか。厳しいものがあるね。ガラス張りの超高層で家に帰りゃ高密度高断熱化住宅、なんてのが常態化する世の中じゃあ、しょうがねーか。

[赤] でも、解放区がほしい。オレたちの解放区、つまり喫煙所もどんどん減らされていくね。JR東海の新幹線の喫煙室だけは最後の望みの綱で頼りにしてたんだけど、それもこの春になくなった。かつて、国鉄清算事業団はJTの金、つまりタバコ税で立ち直ったんだからな。恩知らずめ。

[青] 世の中、ダイバーシティなんて言ってねぇか。多様性を許容するんなら、喫煙者も混ぜてほしい。それに、コンビニでタバコ売っておきながら、どこでも吸えない、って矛盾してないか。

[赤] まあまあ、そんなこと言うと、コンビニでも売らなくなっちゃうから、おとなしくしてなよ。

風と煙と建築と

[赤] あっ、建築の話しをしなきゃ。

[青] 数ヶ月前に起きた驚きの逸話を一つ。

[赤] このあいだ、飛び込みで設計の依頼を受けた。

[青] 光栄なことだよね。

[赤] その建て主が牧野富太郎記念館を見て気に入って、それで頼んできてくれたんだけど、あの建物を見て直感的にこの設計者は喫煙者だってわかったらしい。

[青] おそれいりました。こんなこと言ったのはこの人が初めて。

[赤] 半外部空間がやたらと多くて、どうやらそれを体感しているうちに喫煙所を見つけ出して、こんな気持ちのいい所に喫煙所を置くなんて喫煙者に違いないって思ったらしい。

[青] おそろしい。分かられてしまった。すごい勘が働く人なんだな、って思った。

[赤] 親近感が湧いてきて、ものすごくやる気が出たね。涙が出てきました。日頃、虐げられてるから。

言われてみると、全体が巨大な喫煙コーナーのようにも…

[青] オレたち、窓が開かないと苦しいんだよね、べつに喫煙するからじゃないけど。この建て主も喫煙者ってわけでもない。ただ、建物に閉じ込められる感じがいやらしい。常に内と外が反応しあって、空気が流れている感じが欲しいんだそうだ。

[赤] そうそう、煙も流れていく感じ。

[青] まだ計画中なんだけど、半外部空間のテラスを贅沢に取る案を計画中。沖縄なんで気候条件が厳しいけど。

[赤] 日差しは強いし台風はくるし、ガッチリ作らないともたない。平面形は完全な円の幾何学形。これからはコストとのせめぎ合いだけど、どこまでそれを確保することができるか。この半外部空間で仕事している人や会議している人なんか出てくると嬉しいな。乞うご期待ってとこかな。

[青] 建主の事業計画の予定もあって、建物が出来上がるのは、だいぶ先のことになると思うけど、まあタバコでもふかしながら気長にのんびりやるとするか。

超情報空間をなめんなよ

[赤] 美大の学長になって、美大なんてまるでわからなかったから、どうしようかな、って思ってた。

[青] 学内に喫煙ボックスがあって、それも恥ずかしいものを隠すように駐車場の片隅にひっそりとあって、ストレスの多い学事の隙間で、そこが貴重な憩いの場になってるよね。ここに、先生や学生はもちろん、日頃は顔を合わせない技術職員や事務職員、用務員さん、警備の人、建設現場の人、実に多くの種類の人が集まってくる。

[赤] ここでの話が一番面白いなー。

[青] こういう問題がありますよ、実はこう言うことなんですよ、みんな知らないけど実はこういうことがあるんですよ、こんなことが悩みの種なんですよ、あの人とあの人はうまくいっていないんですよ、あの人は表は愛想がいいんだけど気をつけたほうがいいですよ、なんてことがタバコを吸いながらの会話になる。学生の人生相談に乗ることもあるし、こっちも学長職の雑用の愚痴を言ったりする。

[赤] 喫煙空間おそるべし。真の情報空間がここにある。

[青] 多分、半分ぐらいの人は、こっちが学長だとは知らないで話しかけてくる。それがいい。ただのしけたオジサン扱い。煙とともに真人間に戻る気がする。

[赤] 最近は少しは学内で面がわれはじめているので、それが少なくなってきているのが寂しい。

[青] 考えてみれば、建築の現場でも喫煙所には随分助けられてるな。職人の本音はここでしか聞けない。

[赤] そうだねー。

[青] ここの鉄筋屋は腕がいい、あの型枠大工には気をつけたほうがいい、建設会社の所長は現場を分かってない、部材の値段が上がって苦しい、人手がない、本当はこうすればもっとよくなるんだけど、などなどいつも話題は満載だよね。立場は違うけど、みんな仲間になれる。

[赤] 思えば、今まで肝心なことは喫煙室で調整してきたなー。

[青] 安曇野市庁舎の時、設計段階で市議会で説明してほしい、って市長から頼まれた。どういうつもりなんだか。

[赤] どうも建設反対派の何人かの面倒臭い議員がいるらしいんだけど、自分ではうまく説明できないでいたらしかった。

[青] でも、それって無茶振りだよね。市長や事務局の仕事。オレたちの仕事じゃないって。

[赤] ても頼まれたら断れないよね。それで議会の前に喫煙室に行ったら、数人のオッサンが町内会の人事だのをグダグダやってた。しばらくして、あんたが今日説明する人、って話しかけてきて、あれこれ馬鹿話をした。それで、あんたが設計者か、じゃあ、いろいろあるけど、まぁいいか、ってことに。

[青] 議会ではそこそこ説明してOKになった。

[赤] 日向市庁舎の時は、予算の枠組みをどうするかで事務局がガタガタしていた。喫煙室で、それまであまり顔を合わせていなかった担当の部長や関係部局の課長やらがいて雑談。

[青] 彼らの本音が聞けて、そのあとすんなりことが運んだ。これも喫煙室のマジック。そんなことがいくつもあるね。

[赤] 工事が終わった後の職人も含めた現場の連中との打ち上げの宴会。喫煙所で職人が寄ってきて雑談。これがめちゃくちゃ面白かったよね。

[青] みんな今の職につく前のことを話したりする。暴走族やってたりちょっとまずい仕事の一歩手前までいったようなことを楽しそうに語る。

[赤] まあ、いわゆる不良ですね。まともなルートに乗り損ねた奴がほとんど。

[青] それが結婚して、子供が産まれて、職について、なんて昔語をする。

[赤] 好きだなー、そういう話。

[青] 要するに喫煙者は、はぐれもの。でも、そういう奴らほどいい仕事をするんだけどね、オレたちも含めて。彼らを認め、大切にするような社会になっていない。だから、タバコを吸うんだよ。

[赤] やってらんねー、って煙を吐き出さないと窒息しちゃうんじゃないの。

[青] 今や喫煙者は、隠れた違反者、隠れた社会不適合者なんだね。

[赤] でも、このコミュニケーション空間のすごいところは、実は、、、、、ここには鬼がいない、ってこと。

「おあとがよろしいようで…」と言いたくなる見事な締めで、今回はここまで。参考情報として付け加えておくと、内藤さんは意外にもお酒は飲みません。そっちの効果についても誰か書いてほしい!(太字部はBUNGA NET編集部)

内藤 廣(ないとう・ひろし):1950年横浜市生まれ。建築家。1974年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。同大学院理工学研究科にて吉阪隆正に師事。修士課程修了後、フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所、菊竹清訓建築設計事務所を経て1981年、内藤廣建築設計事務所設立。2001年、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学助教授、2002~11年、同大学教授、2007~09年、グッドデザイン賞審査委員長、2010~11年、東京大学副学長。2011年、東京大学名誉教授。2023年~多摩美術大学学長。