コロナ自粛期間中ではあるが、ちょっとほっとするニュースだ。昨年の3月3日から休館していた東京・乃木坂の建築ギャラリー「TOTOギャラリー・間(ま)」(通称ギャラ間)が、明日1月21日から再開する。展覧会名は、「中川エリカ展 JOY in Architecture」。東京在住だといつでも見られる感じだったギャラ間が長く閉じていると、もやもやとした不安を感じてしまう。ギャラ間は建築関係者にとって「光」である。と、再開の報を聞いて思った。
開幕前日の1月20日に、中川氏に案内してもらった。
中川氏は、オンデザイン(西田司氏が主宰)に勤務していた時代、担当者として取材に答えてもらったことがある。当時から頭の回転が良くて楽しい人だなと思っていたが、約10年ぶりにお会いしても全く変わっていなかった。本展は、会場全体がそんな知的で楽しいオーラに満ちている。
「設計のため」の模型群
とにかく徹底的に模型を見せる、シンプルな展示だ。
Gallery1は、設計過程で日常的につくっている模型がびっしり。設計が終わってから「見せるため」につくったものではない。異常に細かいディテールは、設計過程でその空間を体感するためのものなのだ。「なぜそこまで」という小物の数々を見ていると、自然に口元が緩んでしまう。まさに展覧会のタイトル「JOY」。これは子どもが見ても楽しめそう。
屋外展示の「縄屋根」にも注目
ギャラ間の特色である屋外展示(COURTYARD)では、主要建築を50分の1スケールで比較できるようにした。仮設の「縄屋根」(パーゴラ風の架構)にも注目。これは会期中の風を解析し、それを弱めるように素材や形状を検討したものだ。構造設計に佐藤淳氏、環境設計に荻原廣高氏が関わった“本気”のプロジェクト。好天でその効果が分からなったので、風の日に行く人はその効果を体感してほしい。
「おおらかな細かさ」という空白域
Gallery2は、2020年の初めにスタッフと行った南米チリでの「屋外什器」の調査発表。これも模型がで再現。なぜそんなものをこんなに細かくつくる?と笑いがこみ上げてくる。
会場を見ていて私の頭にずっと浮かんでいたのは、有名なこの言葉だった。
「God is in the details.」(神は細部にやどる)
細かい部分にこだわるというと、一般的には槇文彦氏や谷口吉生氏のような要素が少なくて精緻なディテールをイメージする。しかし、中川氏の建築ワールドは、チリの什器調査が象徴するように、「構成要素が多く、ある種の粗さを許容して開放的」だ(本人の目指すところとは違うかもしれないが…)。
言い換えると「おおらかな細かさ」。それって意外にこれまでなかった建築かもしれない。「これからは建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代だ」とか自分で書いていてそれとは矛盾するが、模型をぐりぐりやるからこそ生まれる世界のような気もする。理屈抜きの楽しさの一方で、そんな根源的なことを考えてしまうのは、すでに中川氏の術中にはまっているのかもしれない。
会期は3月21日まで。コロナ対策のため、事前予約制になっているので、くれぐれもご注意を。(宮沢洋)
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