小径木をプレカットして組み上げた緑の丘、郡山市の日本大学工学部にロハスの森「ホール」が誕生

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 福島県郡山市の日本大学工学部キャンパス内に2024年5月にプレオープンしたロハス工学センター棟(ロハスの森「ホール」)を見てきた。

西側外観(写真:宮沢洋)

 これから外構の整備が行われ、2026年春に「ロハスの森」としてグランドオープンとなる。なぜプレオープンの期間に見に行ったかというと、10月19日(土)・20日(日)に行われた学園祭「第74回北桜祭」に合わせて、10月18日(金)~10月21日(月)に「巡回ふくしま建築探訪展」が行われたからだ。筆者が福島県の建築サイト「ふくしま建築探訪」に寄稿したイラストルポをパネル展示する巡回展だ。

7月から福島県内をあちこち巡回しています

水害に遭った旧ロハス施設の跡地に計画

 この施設、『新建築』の木造特集(2024年10月号)で見た、という人もいるだろう。


 建設の経緯を大学のサイトから要約する。

 日本大学工学部では教育・研究のテーマとして掲げるロハス工学を実証する場として、2008年より『ロハスの家研究プロジェクト』を立ち上げ、ロハスの家1号・2号・3号を設置してきた。しかし、2019年台風19号でキャンパスは被災し、更地となったこの場所に新たな命を吹き込むべく『ロハスの家群跡地再生プロジェクト』を始動させた。

架構の模型

 郡山の気象を考慮した弓形のデザインが特徴的な建物には、各所にロハス工学の研究成果と実証試験設備が盛り込まれた。建物のカギとなるのは、県産の無垢材を縦に並べてパネルにする『縦ログ構法』。この壁とレンガ製の床による蓄熱効果を検証していく。遮熱効果と室内温度低下を目的として、屋根の上には四季を彩る植栽を設置。温度が安定している地下水を熱源として地中熱と太陽熱を活用した水蓄熱空調システムによる温熱環境の実証実験も行う。

 南会津の広葉樹を使用して製作した椅子や木目が印象的な机は学生が企画段階から参加して検討を進めたもの。『ロハスの家群跡地再生プロジェクト』では、教職員と学生が協働でワークショップを行い、アイデアを出し合いながら、ロハス工学の新たな拠点づくりを目指してきた。

家具は藤江和子氏が参加して実現

 今後、「ロハスの森」エリアは学生、企業、地域住民の方々の交流や展示会、見学会、ワークショップなどで活用するために整備を進める予定。ロハスの森「ホール」周辺には工房棟(スタジオ)や棚田、池などを設けてロハスエリアのランドスケープを整備し、2026年春に『ロハスの森』のグランドオープンを目指す。(太字部は日本大学工学部のサイトのリポートから要約)

雨水が落ちる庇の下あたりに棚田をつくる計画
入り口は北と南の2か所。こちらは南側。東側(写真右手)には設備スペースや蓄熱タンクなどがある

小径木で半張弦トラスの登り梁

 日本大学工学部の浦部智義、岩城一郎、中野和典、宮岡大の各氏が分野を越えて施設の方向性を検討し、南会津を拠点に現代木造に取り組むはりゅうウッドスタジオと日本大学工学部浦部智義研研究室が建築設計を担当した。

建築設計の中心になった日本大学工学部建築学科建築計画研究室の浦部智義教授(左から2番目)とチームの面々


 ぱっと見で目が行くのは屋上緑化だが、建築的な見所は木造だろう。

登り梁は120×240mmの下弦材を45×120㎜の上弦材2本で挟み込んで構成

 大学サイトの説明に補足すると、西側に傾斜する屋上緑化の屋根は、小径木で3つの傾きを持つ半張弦トラスの登り梁をつくり、放射状に配置して支えている。登り梁は平面上の中心部が長く南北の端は短い。使用した木材は福島県南から北関東に広がる八溝山系のスギ。これを郡山市内の先進的なプレカット機を持つ工場で加工して組み立てた。接合部は1つ1つ形状が異なる複雑な架構だ。

 木造のもう1つのポイントは東側の曲面の壁、これは同校も開発に参加している縦ログ構法を使ったもので、曲面の壁は初という。

大きな樽のような縦ログの曲面

 この壁で水平力を負担し、開口部側の柱は鉛直力のみを支持する。開口部のガラスは断熱性の高いトリプルガラスだ。

 大断面の集成材を使わずに、こんな複雑な形ができるのか…。80年代後半~90年代の大規模木造黎明期を思うと、隔世の感がある。こういう空間を当たり前に見て社会に出る建築系の学生たちが今後どんな木造建築を生み出していくのか楽しみだ。

 なお、「ふくしま建築探訪」にもこの施設のイラストルポを近く掲載する予定。お楽しみに。(宮沢洋)

現状の外構もファンタジーのようで面白い

■建築概要
日本大学工学部ロハス工学センター棟 ロハスの森「ホール」
設計:浦部智義+岩城一郎+中野和典+宮岡大/日本大学工学部ロハス工学センター(計画)、はりゅうウッドスタジオ+日本大学工学部浦部智義研究室(建築)、坂田涼太郎構造設計事務所(構造)、ZO設計室(設備基本設計)、エム設備設計事務所、鳳設備設計事務所(設備実施設計)、藤江和子アトリエ(家具)、スパンコール(照明)
施工:蔭山工務店
構造:木造
階数:地上1階
延べ面積:177.70㎡
工期:2022年11月~2024年3月