別会社だったハウジングが合併した日建設計で「暮らしのアイデア55展」、勝手に選ぶ3つの「日建らしさ」

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 日建設計は東京・飯田橋の日建設計東京ビル1・2階で、10月7日(火)から「暮らしのアイデア55展」を開催する。持続可能で豊かな暮らしを支え、過去から未来へつながる住まいのアイデアを計55個紹介する。会期は12月5日(金)まで。入場無料。10月6日に行われた内覧会に行ってきた。

会期中は、ビルの1階のガラス面がコインランドリーみたいになっていて、いつもより一般の人も入りやすい?(写真:宮沢洋)

 「暮らしのアイデア55展」というタイトルを見て、「なぜ50ではなく55?」「未来へGOGOという意味?」とコント55号世代の筆者(宮沢)は思ったのだが、そうではなかった。展示の主旨を説明した日建設計代表取締役副社長・設計部門統括の児玉謙氏によれば、「55」は「日建ハウジングシステムが分社化して再び日建設計に戻るまでの55年間」の蓄積を示すとのこと。

日建設計代表取締役副社長・設計部門統括の児玉謙氏

 半年前の2025年4月1日、日建ハウジングシステムは、日建設計と合併し、日建設計が存続会社となった。これは、「大きな開発の検討においてハウジングが重要になったため」だという。なるほど。1970年に日建設計から分社した日建ハウジングシステムが、2025年に再び日建設計に合流して「日建設計ハウジングシステムグループ」として再出発することとなり、「その長い活動の中で培った次世代の住まいに合わせたアイデアを社会に紹介しよう」というのが本展の意図である。

イメージビジュアル(資料:日建設計)

 55のアイデアを1つずつ紹介すると1冊の本になってしまうので、自称「日建設計ウオッチャー」として「日建設計らしいなあ」と思った点を3つ紹介する。

 1つ目は、2階に上がる前(55のアイデアは2階に展示されている)のプロローグの映像展示。

 2分ほどの動画で、住宅を取り巻く社会背景と、そうした中でこの展示を行う意味を説明している。ざっくり言えば、人口が減少し、住宅はストックを生かす時代になる、という説明だ。片や大阪では刺激的な映像展示に何十万の人が殺到しているこの時代に、なんという地に足のついた映像。信頼したくなる。こういうところは、今まで別会社だったとはいっても日建設計のDNAだなと思う。

今後、住宅が膨大に余ることは明らか

 2つ目は、「竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト」だ。アイデアの連番で言うと「26」。担当は日建設計ハウジングシステムグループ設計部長の古山明義氏だ。

古山明義設計部長

 以下は公式資料のコピペ(太字部)。

全国的に課題となっている「放置竹林」に対して、日建設計は、地域課題の解決と環境負荷低減を両立させるため、竹を建築資材として再活用する研究を進めています。竹は強度や弾力性に優れ、3〜5年で成長する再生可能な素材であり、伐採後も植林の必要がなく持続的に活用できる点が大きな特徴です。

2021年からは鹿児島大学らと共同で「竹集成材構造モデルプロジェクト」を始動し、国内で初めて竹集成材構造による性能評価書を取得しました。また、竹の可能性を生活者にも身近に感じてもらうための「竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト」も展開しています。会場では、これまでの研究成果やプロジェクト事例を紹介しながら、放置竹林を資源へと転換する取り組みをご覧いただけます

 「放置竹林」は、都会の人はピンとこないかもしれないが、ちょっと郊外に行くと、あちこちで大問題である。実は筆者は前職の日経アーキテクチュア時代に、古山氏から竹集成材に取り組んでいる話を聞いた。6年くらい前だったと思う。そのときも、「なぜ日建グループの人がそんな儲からなさそうなことを…」と心の中で思っていたのだが、今日話を聞くと、その後、竹集成材構造の性能評価書を取得したというではないか。コストの課題はあるものの、依頼者がいれば実際に建てられる段階なのだ。

このビジュアル、どこかにモデルハウスを建てたのかと思ったら、CGなのだという。プレゼン力もさすが(資料:日建設計)

 こういう目前の収益とは異なること(あくまで筆者の想像)に突き進む人を許容するのが日建設計らしい。筆者が日建設計を「粘菌」に例えるのはそういうところだ。(「粘菌論」の詳細は下記の記事を参照)

 3つ目は、展示のトリを飾る55番の「次世代の集合住宅」。担当は日建設計ハウジングシステムグループダイレクターの鈴木啓之氏だ。

鈴木啓之ダイレクター
(資料:日建設計)

 次世代の集合住宅といったら、高さ400mとか、人工地盤免震とか、そういうのが出そうだが、ちょっと地味っぽい…。

 これもまずは公式資料のコピペから(太字部)。

人口減少や少子高齢化が進む中、家族構成や暮らし方は大きく変化しています。日建設計が提案する「次世代の集合住宅」は、「多様性」「持続性」「コミュニティ」を柱としています。プライバシーを重視する住戸から、住民同士が自然に交流できるコミュニティコリドー、ライフステージに合わせて部屋の規模や用途を拡張できるアネックスユニットまで、多様な暮らし方に応じた構成を提案しています。

さらに、再生可能な素材の利用や自然換気、緑化といった環境負荷を抑える手法を取り入れ、次世代にふさわしい持続可能な集合住宅のプロトタイプを提示しています。

 これは説明文が総花的でボヤッとしていてどうかと思うのだが、鈴木氏に直接話を聞いて、「持続性」という部分がマンションの「増改築」も含んでいるとわかり、55のトリを飾る提案であることが腑に落ちた。

 「中銀カプセルタワー」は極端な例だが、大規模集合住宅に大きく手を入れることは難しい。建築基準法による増改築の難しさもあるし、区分所有法による共有部の扱いの難しさもある。鈴木氏によれば、現状の法規でも「減築」はできないことはない。「増築」もあらかじめそれを想定して申請しておけば、不可能ではない。だが、やはりそれをもっとやりやすくするには法規を変えることが必要で、そこに踏み込む覚悟もあるとのこと(個人の意見)。

 「私の目の黒いうちに実現できますか」と聞いたら、「実現します」と明言したので、期待を込めて載せることにした。

 筆者はいつだったか、日建設計の顔であった故・林昌二氏に「建築の未来」みたいなお題で取材したとき、「私たちがこれから目指すべきは“つくりながらある部分を壊して再生していくような建築”です」と言われて、驚いたことがある(もっとデザイン的な答えを予想していた)。鈴木氏の提案はまさにそんな生物的な建築につながるものだと思うので、林氏が雲の上からハッパをかけていると思って頑張ってほしい。(宮沢洋)

■展示会開催概要
暮らしのアイデア55展
開催日時: 2025年10月6日(月)13:00~14:00
会場:日建設計東京ビル 1・2F(東京都千代田区飯田橋2‐18‐3)
JR中央・総武線水道橋駅西口より徒歩5分、東京メトロ東西線・半蔵門線九段下駅7番出口より徒歩5分
主催:株式会社 日建設計
※一般公開期間:2025年10月7日(火)~12月5日(金)9:00~17:00 ※土日祝日は閉館
サイト→
https://www.nikken.co.jp/ja/news/news/2025_09_26.html?cat=ALL&archive=ALL