永山祐子氏による“ねじれリング組積アーチ”、風にゆらめくパナソニックパビリオンは展示チームにも刺激──万博プレビュー04

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 パナソニックホールディングスは2月14日の午後、2025年大阪・関西万博に出展するパビリオン「ノモの国」を報道陣に公開した。設計の中心になった永山祐子建築設計の永山祐子氏も出席した。

パナソニックグループパビリオン「ノモの国」。永山祐子建築設計の他、大林組や構造計画研究所、アラップが設計に参加して実現(写真:宮沢洋)
内覧会の挨拶の様子
全景

 同日午前中には民間パビリオン13施設の先陣を切って完成式典が開催され、午後の内覧会では内部の展示も報道陣が体験できるという情報量の多さ。きっと多くのメディアが動画を交えて取り上げるだろう。なので、それらソフト面は他メディアに任せ、BUNGA NETはBUNGA NETらしく、「建築」を伝えることに専念する。

永山祐子氏

まずは2年越しの「訂正」から…

 「ノモの国」については2年近く前に、この記事↓でちらっと触れた。

「あきらめない」が生む仰天ディテール、永山祐子氏が大阪・関西万博で取り組む2つのパビリオンの詳細を聞いた!

 この記事では、2020年ドバイ国際博覧会日本館のファサードを再構築する形で永山氏が設計する「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」をメインで取り上げ、「ノモの国」をサブ的に取り上げた。
 
 まず、その記事の2年越しの訂正から始めなければならない。筆者(宮沢)は記事中でノモの国についてこう書いた。

「(幾何学的なウーマンズ パビリオンに対して)こちらは、ファサードの構造部材が『循環』をイメージした8の字形だ。このカーブは型で曲げるのではないという。パイプを差し入れるとコンピューター制御された特殊な口金によって3次元的に曲げられるベンディングマシーンが見つかったと永山さん。それは見てみたい……。」

 この記事の書き方だと、「構造部材が『8の字』」と読めるが、そうではなかった。見る方向によっては8の字にも見えるので完全な間違いではないが、正確にはリングを緩くひねっただけの簡単な形だ。

外構部に置かれていたリングの実物。これは2ユニットをつなげてネットを張ったもので、1つは1.4mのシンプルなリング

 永山氏はこの形を「バタフライ」と呼ぶ。なので筆者は「8の字」だと思ってしまったわけだが、1ユニットだけを何かに例えるならば、ポテトチップスの輪郭が近い。永山氏は「ポテチって呼ばないで!」と強く主張していたので、それも併せてお伝えしておく。

 このねじれたリングを4つ結合するとひとまず安定した形になり、それを縦に積み上げてアーチ状にする。アーチは建築本体の構造ではない。しかし、それ自体は自立する組積造アーチに近く(接点は金具で拘束しているが伝わる力は基本的に圧縮力とのこと)、上部で本体に寄りかかっている格好だ。

検討段階のモックアップ。4つつなげたものを3段積んだ状態。実際には縦に20段積み上げた(写真提供:永山祐子建築設計)
モックアップの留め具(写真提供:永山祐子建築設計)

 この外装は上下方向にカーブしているだけでなく、水平方向にもカーブしている。これを少ない接点で構造的に成立させるリングの形を探るのは相当に大変だったろう。スタディの中心になった永山祐子建築設計の近藤弘起氏に「バックミンスター・フラーに見せたいですね」と感想を伝えると、「そうなんです!」と満面の笑みだった。
 

 基本的に同じ形のリングの繰り返しなので、部材をスタッキングすることができて、輸送が楽だったという。現段階で再利用は決まっていないが、いつか使うことになれば保管スペースも小さくて済む。

 外装に布という仕上げも珍しい。1400個のリングの約半分に、計730枚のオーガンジーを取り付けた。一部は固定しておらず、ゆらゆらの状態。ファブリックデザインを担当した安東陽子氏との協働で生まれたデザインだ。一般的なファッション用のオーガンジーではなく、表面に金属をスパッタリングしたものを使った。この日は晴天で弱い風があり、リングに取り付けられた布が気持ちよさそうにゆらめいていた。

 個人的には床に落ちる影に惹かれた↓。こんなにフワッと広がる影を見たことがない。まるでシャボン玉。

 おそらくこのアーチで完全なドーム形状をつくることも可能だろう。“ねじれリング組積ドーム”、いつか見てみたい。

「蝶」のストーリーは外観のデザインが出発点

 展示については詳しくは触れないが、カギになるのは「蝶」だ。

 参加者それぞれが自分の蝶を育てるストーリーで、最後には育てた蝶を自分のスマートフォンにダウンロードできる。

スマホで持ち帰った蝶。画面内をパタパタと動く。夏祭りで金魚を持ち帰ったことを思い出す…

 この蝶のデザインを見ると、「そうか、パビリオンの外装はこの蝶がモチーフだったのか」と思ってしまう。だが、永山氏によると逆なのだという。先にパビリオンの外観デザインが進み、展示チームがそれに触発されて蝶のストーリーが生まれたとのこと。ソフトに影響を与える建築というと、前大阪万博のような“強い建築”をイメージするが、こんな儚げな外装が物語の基になったと聞くと、パビリオン建築に求められるものの変化を感じざるを得ない。

 ちなみに、パビリオン名の「ノモの国」は、「モノとこころは写し鏡のような存在である」という考え方から名付けられたそう。

 最後になるが、このパビリオンは「使用済みの家電から回収したリサイクル鉄・銅・ガラスなどを活用」して工事を進めた、という点も家電の会社らしい。プレスリリースによると「リサイクル鉄は主な柱・梁(接合部のプレート等を除く)の約98%にあたる97.1トン、リサイクル銅は主要幹線ケーブルの銅として約1.2トン、リサイクルガラスはドラム式洗濯乾燥機約9,200台分を外構部の舗装ブロックに活用」したそうだ。(宮沢洋)

この日はライトアップが見られなかったが、「夜景も素晴らしい」と永山氏

■建築概要
2025年日本国際博覧会 パナソニックグループパビリオン「ノモの国」新築工事
建設地:大阪府大阪市此花区夢洲東一丁目2-1
施主:パナソニック ホールディングス株式会社
総合プロデューサー:株式会社電通/株式会社電通ライブ
設計監理:株式会社大林組/有限会社永山祐子建築設計/株式会社構造計画研究所/オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド

施工:株式会社大林組
展示会社:株式会社乃村工藝社
運営会社:株式会社コングレ
構造:S造
敷地面積:3508.08m2
建築面積:1546.23m2
延床面積:1731.64m2