三井嶺氏の音頭取りで万博ステージを“人力建て起こし”、施工も祭りの「ポップアップステージ(西)」

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「ああ、コロナ禍が終わって本当によかった」。設計者の三井嶺氏から、“人力建て起こし”の企画を聞いたとき、心からそう思った。2カ月ほど前のことだ。それからずっと取材を楽しみにしていたのに、当日、新幹線が1時間半遅れて、間に合わなかった…。なので、写真は三井氏からの借り写真となる。

(写真:三井嶺建築設計事務所・参加者提供)
法被に扇子で音頭を取る三井氏。かっこいい!

 大阪・関西万博で三井氏が設計を担当する「ポップアップステージ(西)」の建て起こし作業が11月23日(土)に行われた。ポップアップステージは音楽、トークイベント、お祭り等のイベント実施を想定した小規模ステージ広場。万博全体で4つつくられるうちの1つだ。

 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が今年5月に発表したプレスリリースでは「ポップアップステージ(西)」についてこう説明している(太字部)。

ポップアップステージ(西)

【施設概要】
①設計者:三井 嶺 | 株式会社三井嶺建築設計事務所
②主用途:イベント広場

③階数:平屋建
④延床面積:87.84㎡
⑤構造:鉄骨造 一部 木造

通常時:屋根を⽔平にして視線が抜けるように浮いているように⾒える丸太の梁が場をつくる(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 プレスリリースより)
開演前:松葉を前にして緞帳の代わり松葉葺きの屋根がステージの⽬印に(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 プレスリリースより)
上演時:屋根を倒してテント膜を張れば、屋根がステージ背⾯壁を兼ねる(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 プレスリリースより)


【設計コンセプト】
ステージは、人が集う目印があれば十分ではないでしょうか。鳥居やストーンヘンジのような門型にみられるように、柱2本が人間の作る場の最小単位のひとつです。しかし、それよりもシンプルな状態、例えば梁が一本でも十分ではないかと考えました。 梁は松の皮付き丸太。たった一本でも場をつくる堂々とした力強さと優しさを持ちます。梁の上に載る屋根は形をとどめずシーソーのようにパタパタと動いて緞帳代わりとし、祝祭を盛り上げます。そして、屋根は松葉葺き。会期中に松葉の青々しさを保つためには、多数のボランティアが必要です。皆が参加し当事者となることによって、本来の祝祭のあるべき姿を取り戻せるでしょう。ごく簡素ながら、祝祭の場にふさわしい、新たな原初性をもつ建築を作ります。

以下はリリース情報の補足。

施工者:安井杢工務店
建て起こし協賛・法被デザイン:株式会社人間
参加者ヘルメットの「ホタメット」協賛:甲子化学工業株式会社

1.7トンを65人で引っ張り起こす

 この日行われた人力建て方は、ステージの主役として用いる松の皮つき丸太を、公募した一般の人たちが綱を引いて建て起こすというもの。京都・祇園の山鉾建てのイメージだ。施工者の安井杢工務店は、リアル祇園祭の山鉾「鷹山」の山建てを担当しているという。

人力建て起こしのイメージ(資料:三井嶺建築設計事務所)
(資料:三井嶺建築設計事務所)

 「参加者は65人、松の丸太と柱の重さは合わせて1.7トン。松は切ったばかりで水をたっぷり含んだ状態なので重い」と三井氏。当日はこんな流れだったそう。

12:50 現場集合
13:00 作業説明、リハーサル
13:15 建て起し
仮受・ロッド仮止め(安井杢大工・鳶工・鉄骨工)
単管解体(鳶工)
ロッド取付(鉄骨工・安井杢大工)
建て起し完了確認・自主検査(安井杢大工、吉江、池田、杉原)
・立会検査(設計監理)
14:00頃 建て起し完了、記念写真、参加者 半数ほど解散
15:00頃 単管解体・ロッド取付など完了、記録写真撮影
参加者全員・取材者解散
16:00頃 ロッド調整など完了
関係者含む全員解散

動画はこちら↓。祭り感がすごい!

 万博の本質の1つは「祭り」だ。情報を発信するだけならばネット上でやればいい。1970年の大阪万博では、その象徴がまさに「お祭り広場」だった。今回は「リング」という動線がシンボルになっており、それはそれで“体験”として今っぽいとは思うのだが、祭り要素は今のところあまり伝わってこない。そこに飛び込んできた、「祭りの場(イベントスペース)を祭りのようにつくる」というニュース。お祭り好きの性格でもあるので、ああ、本当に生で見たかったなあ。(宮沢洋)