シドニーで葉祥栄展が開幕、“早すぎた天才”世界で再評価へ

Pocket

 オーストラリア・シドニーの「オーストラリア・デザインセンター」で11月30日から日本の建築家・葉祥栄氏(ようしょうえい、1940年生まれ)の展覧会「Revisiting Shoei Yoh 葉祥栄再訪」が始まった。リアルの展覧会と同時に開催されるVR展覧会も12月2日に一般公開された。

同時開催されるVR展覧会「Revisiting Shoei Yoh」のデモ。「内住(ないじゅう)コミュニティセンター」の3Dスキャニング・データに基づき、ゲームエンジンを用いて内住コミュニティセンターのVR空間を作成し、VR展覧会を行う(展覧会の写真・資料はすべて主催者提供)
リアルの展覧会(Australian Design Center)の会場入り口

 豪ニューサウスウェールズ大学コンピュテーショナルデザイン学科と九州大学環境設計グローバル・ハブの共催による展覧会。葉氏が九州大学に資料を寄託し開設された「葉祥栄アーカイブ」の建築図面や写真に加え、建築作品群を新たに3Dスキャンして作成したアニメーションや、ゲームエンジンを用いてデジタル空間内に再現された建築モデルを通じて、葉祥栄の主要作品を紹介する。オーストラリア・デザインセンターの会場では、様々なデジタルファブリケーション機器を用いて作成された建築模型の展示が行われます。会期は2022年1月25日まで。

 日本側では、建築家で九州大学大学院芸術工学研究院助教の岩元真明氏が企画から関わり、デジタルアーカイブの整備などを行った。「ゲームエンジン、3Dスキャニング、デジタルアーカイブが三位一体となり、デジタル展示だけでも新規性があり、見応えがあるものになっている」と岩本氏は説明する。

「葉祥栄アーカイブ」のウェブサイトのデモ。葉祥栄建築の3Dスキャニングデータを公開。デモは、小国ドーム(上)と内住コミュニティセンター(下)

 展覧会と連動するウェブサイトは下記。

公式サイト
https://australiandesigncentre.com/revisiting-shoei-yoh/

VR展覧会
https://shoeiyoh.com/virtual-exhibition/index.html

個人的にも 葉祥栄再評価!

 ところで筆者(宮沢)個人にとっても、葉祥栄氏の評価は最近になって急上昇中だ。残念ながら葉氏と面識はなく、これまでは「遠くの偉い建築家」的存在だったのだが、今年の春に熊本県小国町の「小国ドーム」を日経アーキテクチュアの連載「建築巡礼」で取材して、火が点いた。どれも、今っぽいのだ。

 熊本出張で見た葉祥栄氏の建築を、竣工年順に見ていこう。

(写真:宮沢洋)

 道の駅小国ゆうステーション (小国町交通センター、1985年)。外部からは想像がつかない繊細で開放的な木造空間。スギ角材をボールジョイントでつないだ立体トラスで逆円錐を構成。

 小国ドーム(1988年)。これも木造立体トラスだが、接合部が道の駅ゆうステーションよりもスッキリ進化している。そして大スパン。日本建築学会賞受賞。日経アーキテクチュアの「建築巡礼」の記事はこちら

 三角港フェリーターミナル・海のピラミッド(1990年)。これは小国町ではなく、熊本県宇城市三角町にある展望施設。鉄筋コンクリート造の円錐で、外側と内側にそれぞれ螺旋状にスロープが巡る。上りと下りで違うスロープを使ったり、途中で外に出たり中に入ったりできて楽しい。

 グラスステーション(1993年、小国町)。現役のガソリンスタンド。3次元曲面のガラス張り大屋根。躯体は鉄筋コンクリート造の4連アーチ。

 小国町隣保館(1995年)。角材と合板によるシェル構造ドーム。小品ながら、見応えあり。大人も子どもも楽しげに使っていて、活気にあふれていた。

早すぎた天才、世界での再評価を日本へ

 どうだろう。どれも今、建築雑誌に載っていたとしても全く違和感がない。というか、今の方がむしろ、先端的に感じるかもしれない。当時、理解できなくて本当にごめんなさい、という気持ちだ。実際にこれらの建築を見たら、そう感じる人は私だけではないと思う。

 日本で再評価する前に、オーストラリアに先を越されてしまった格好だが、海外の方が葉建築の魅力が伝わりやすいというのはちょっと分かる気もする(その理由を書くと長くなるので、そこは割愛)。

 会期中にシドニーに行くのは難しそうなので、会場の雰囲気は下記の写真で想像を。世界を巡回して、いつか日本で凱旋展が開かれることを期待したい。(宮沢洋)

■展覧会概要
Revisiting Shoei Yoh
葉祥栄再訪
会期:2021年11月30日〜2022年1月25日
会場:オーストラリア・デザインセンター(シドニー)
主催: ニューサウスウェールズ大学コンピュテーショナルデザイン学科、九州大学環境設計グローバルハブ https://australiandesigncentre.com/revisiting-shoei-yoh/

Australian Design Centerでの展覧会の様子
今回の展覧会のために新たに作成した建築模型。アーカイブ資料に基づき3Dデータを作成し、高性能3Dプリンターで出力


内容(プレスリリースからの引用):
オーストラリア・デザインセンターは、20世紀後半にデジタルデザインの先駆者として活躍した日本人建築家・ 葉祥栄のアーカイブを活用した展覧会「Revisiting Shoei Yoh 葉祥栄再訪」を開催します。本展では、 1979年から 1994年までに竣工した 5つの主要建築物を対象として、葉の実験的なデザインの軌跡をたどります。
宇宙船を思わせる、大胆なフォルムの「木下クリニック」(1979年)は葉祥栄のマテリアル・テクノロジーに対する 初期の関心を示しています。1980年代には、初期のコンピュータ解析技術を木造立体トラス構造の設計に取り入れ、日本の木造建築の現代化に貢献しました。「ミュージック・アトリエ」(1986年)は、杉間伐材を用い て木造立体トラス構造の可能性と性能を検証する、いわば試作的なプロジェクトでした。

ミュージック・アトリエ(1986)の模型。日本初の木造立体トラス構造で小国町の作品群に到るマイルストーン

ここから熊本県小国町における一連のプロジェクトが始まり、独創的な逆円錐形の「小国町バスターミナル」(1986年)を経て、日本初の 3000 m²を超える大規模木造建築である「小国ドーム」(1988年)の建設へと達します。

小国町交通センター(ゆうステーション)(1986)の模型

5つ目のプロジェクトである「内住コミュニティセンター」(1994年)は、複雑な形状を実現するために、竹型枠コンクリート、折紙のジオメトリー、そして高度なコンピュータ解析を組み合わせた、葉の最も先鋭的な建築の探求です。

内住コミュニティセンター(1994)の模型


この展覧会では、葉氏が九州大学に資料を寄託し開設された「葉祥栄アーカイブ」の建築図面や写真に加 え、葉の建築作品群を3Dスキャンして新たに作成したアニメーションや、ゲームエンジンを用いてデジタル空間 内に再現された建築モデルをつうじて、葉祥栄の作品を紹介します。「内住コミュニティセンター」の 3D スキャン データから開発された没入型の 3D 空間環境の中に、デジタル化されたアーカイブ資産が保管されています。これらは、「葉祥栄アーカイブ」のウェブ開設を記念した試みです。
本展覧会は、オーストラリア政府外務貿易省(DFAT)豪日交流基金の助成の下、ニューサウスウェールズ大 学(UNSW)建築環境学部と九州大学環境設計グローバルハブの研究者による共同研究の一環として開催 されます。また、プロジェクトパートナーであるマイクログローバルエージェンシーのdoqが協力をしています。
UNSW チーム: Dr Nicole Gardner | Associate Professor M Hank Haeusler | Dr Kate Dunn | Dr Jack Barton | Tracy Huang | Daniel Yu | Anthony Franco | Charlotte Firth | Madison KIng | Nichola Jephcott | Sofie Loizou(音楽)
九州大学チーム: 岩元真明助教 | 井上朝雄准教授 | 財部祐揮 | 百枝優