木構造からコンピュテーションへの一貫した流れが分かる「葉祥栄再訪 東京展」、先進性と独創性に改めて感服

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 「葉祥栄再訪 東京展―木構造からコンピュテーションへ―」が9月3日から東京・南青山の新建築書店2階で開催されている。会期は9月8日(日)まで。九州大学葉祥栄アーカイブが保管する模型や図面が見られる貴重な機会だ。9月7日(土)にシンポジウムもある。

会場風景。今年3月に福岡で開催された「葉祥栄再訪」展から、テーマを「木構造」と「コンピュテーション」に絞って展示(写真:長井美暁)

 建築家の葉祥栄(よう・しょうえい)氏は、日本で初めて床面積3000m2超の木構造建築「小国ドーム」(1988)を実現するなど木構造の先駆者として知られるが、海外ではデジタルデザインの先駆者として評価されている。2013年にカナダ建築センター(CCA)で開催された「Archaeology of the Digital」展で、ピーター・アイゼンマン、フランク・ゲーリー、チャック・ホバーマンとともに取り上げられたことが、葉氏の先進性に光が当たるきっかけの一つとなった。

 九州大学「葉祥栄アーカイブ」の活動を主導する同大学准教授で建築家の岩元真明氏が葉氏の研究を始めたのも、オーストラリアのコンピュテーショナルデザインの研究者から「葉祥栄を知っているか?」と聞かれたことがきっかけだった。「葉さんは木造建築のイメージが強かったので興味深く思いました」と岩元氏。そして研究を通じて葉氏から2019年に、図面や模型などの資料が九州大学芸術工学研究院環境設計グローバル・ハブに寄託され、アーカイブ設立に至った。

左から、岩元氏、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学准講師のダニエル・ユー氏とトレーシー・ファン氏、本展の展示構成を担当した九州大学大学院修士2年の三島稜平氏。ユー氏とファン氏はシンポジウム登壇のために来日

 会場の展示は「木構造」と「コンピュテーション」とに分かれているが、「木構造からコンピュテーションへ、葉さんの建築において、これら二つは一貫した流れの中にありました。そのことを示すのが本展の目的です」と岩元氏は話す。その言葉に従って、木構造の展示から見ていこう。

手前右は「小国町マスタープラン」のプレゼンテーション模型。九州大学葉祥栄アーカイブで最も貴重なもの。奥はニューサウスウェールズ大学が3Dプリンタで制作した「小国ドーム」の模型。同大学コンピュテーショナルデザイン学科では葉氏の作品を教材にしているという

 「木構造もコンピュテーションも手法に過ぎない、大事なのは目的だ」と葉氏は話しているという。木構造への挑戦も、間伐材の利用促進という目的から始まった。

 葉氏は1984年、熊本県小国町の町長から「廃線になった国鉄小国駅の跡地のマスタープランを考えてほしい」という依頼を受けた。小国町は「小国杉」で知られるスギの産地で、当時は戦後の大量植林による間伐材の使い途を見いだせず困っていた。現地を訪れてそのことを知った葉氏は、間伐材を使うことが建築家のミッションだと思い及ぶ。そして間伐材は細いため、多数の小径木材を組み合わせる木造立体トラス構造を早稲田大学松井源吾研究室との協働により開発し、「小国町交通センター」(1986)や「小国ドーム」などを実現した。

「小国ドーム」関連の資料。額装された図面や写真は全てオリジナル
「小国町交通センター(現・道の駅小国 ゆうステーション)」の内部
「小国ドーム」の内部

 葉氏は木造立体トラス構法以外にも様々な木構造に挑戦してきた。会場内の本棚を使い、それらの写真と雑誌『新建築』の記事から抜粋したページを展示している。

昨今の木造建築の多様な展開を先取りする試みの数々

 こうした木構造の取り組みがデジタルデザインに密接に結びついていく。葉氏は「小国ドーム」などで利用したコンピュータによる構造解析技術が、建築の形を生み出すために使えるのではないかと思いついた。先に形ありきで、それを実現するためにコンピュータによる構造解析を行うのではなく、まず条件を設定し、その解析結果から最適な形を導き出す。いわゆるフォーム・ファインディングの考え方で、岩元氏は「この発想の飛躍が、葉さんが海外で再評価されている最大の理由です」と話す。

 「ギャラクシー富山」(1992)や「小田原市総合体育館プロポーザル」(1991)には、今で言うパラメトリックデザインの手法が用いられている。この言葉が生まれるより前に、葉氏はパラメーターを使って建築をつくることを試みていたわけだ。

「ギャラクシー富山」関連の資料

 葉氏は「ギャラクシー富山」で、コンピュータによる構造最適化の結果と松井研究室の光弾性実験による応力解析の結果が一致したことに満足し、以降はコンピュータを信頼してトラス以外にも積極的に活用するようになる。その一つが小国町の「グラスステーション」(1993)だ。

「グラスステーション」の初期模型

 また、コンクリートによる自由曲面を、コンピュータを使ってつくることを試みて、「内住コミュニティセンター」(1994)や「筑穂町高齢者生活福祉センター+内野児童館」(1995)などが完成した。これらをどうつくるかというときに、「葉さんが多様な木構造に挑戦してきた経験が生きてきます。『緑のパビリオン』や『海と島の博覧会 メインステージ』といった1980年代後半の木造格子による曲面生成の実験が、竹型枠を使ってコンクリートの自由曲面シェルをつくるという独創的なアイデアを生み出すのです」と岩元氏は指摘する。

「内住コミュニティセンター」関連の資料

 今年3月に開催された福岡展での葉氏のレクチャーを4分強にまとめた動画も必見。葉氏の素顔の一端に触れることができる。

 本展に合わせて、9月7日(土)にシンポジウム「葉祥栄 光をめぐる旅」も開催される。申込みは9月5日(木)までだから急いで! 詳細・申込先は下記に。

 ところで筆者は、リクシルが発行する情報誌『LIXIL eye』No.27(2022年7月発行、フリックスタジオ制作)の特集「建築のまちを旅する」第15回「小国・南阿蘇」の取材で、岩元氏に小国町の葉建築の数々を案内してもらった。こちらでその記事をご覧いただけます!(長井美暁)

■展覧会情報
「葉祥栄再訪 東京展」
会期:2024年9月3日(火)〜8日(日)
会場:新建築書店|POST architecture books(東京都港区南青山2-19-14)
時間:12:00〜20:00(9月8日は18:00まで)
※最終日の9月8日(日)は14時から岩元氏などによる展示解説を予定

■シンポジウム情報
「葉祥栄 光をめぐる旅」
日時:2024年9月7日(土)14:00〜16:50(開場13:30)
会場:建築会館ホール(東京都港区芝5-26-20)

入場無料、定員150名(要事前申込)
※詳細・申込先はこちら