【取材協力:スペイン大使館経済商務部】
インターネット上でスペインの最新のインテリア製品を見られる「バーチャル展示会」の後編である。展示会はICEXスペイン貿易投資庁と駐日スペイン大使館経済商務部が主催するもので、8社が参加。バーチャル空間はブラウザベースでつくられており、VRゴーグルなどは不要だ。
前編に続いて今回は、出展製品の詳細を見られる「ブランドブース」を訪れてみよう。コンセプト立案から展示デザイン、バーチャル空間の設計までのすべてを手掛けた梓設計に開発秘話も聞いた。
色を変えたり、点灯したり、ぐるぐる回転させたり
視聴環境はパソコン、ウェブブラウザはGoogle Chromeを推奨とのこと。展示会場はこちらだ。「Exhibition(エキシビション)」と「Brand’s Booth(ブランドブース)」に分かれる会場のトップ画面から「ブランドブース」に入ると、出展する8社の名前が最初に表示される。
見たいメーカーの名前をクリックすると、そのメーカーの簡単な紹介がある。そして右下の「VISIT THIS BOOTH」のボタンを押すと、今回出展している製品がリング上に表れる。
中央の写真の左右にある三角矢印を押して、お目当ての製品が中央にくるようにしたら、その写真をクリック。すると、次の画面が表れる。
左右に4つずつボタンが並び、それぞれアイコンが違う。左上は「製品情報」で、ボタンに触れると、製品の詳細が表示される。各社が公開しているPDFのダウンロードも可能だ。その下は「サイズ」と「カラーバリエーション」。黒く塗られた4つ目は、照明器具の場合にクリックすると、点灯した状態が見られる。右側は上から「製品写真」「問い合わせ用メール」「ウェブページ」「オンラインショップ」だ。
「サイズ」では、下のように人形のシルエットが登場するので、実際の大きさを把握しやすい。
また、画面をドラッグしながらぐるぐる回してみてほしい。製品を上から、横から、斜めから、様々な角度で見ることができる。「サイズ」に限らず、どのアイコンのときでも可能で、こんな具合だ↓
「カラーバリエーション」の機能も利用してみよう。照明器具のシェードにピンクを選んでみた。さらに点灯させると、ご覧のように。
右上の「製品写真」のボタンを押すと、次のような画面が表れる。なお、前の画面に戻るときは必ず、左下の矢印ボタンを使うこと。ブラウザ自体の矢印ボタンを使うと、展示会のトップページに戻ってしまう。
「メール」ボタンを押すと、メールソフトが立ち上がる。問い合わせはどのブランドも日本語に対応している。もちろん英語でも可能だ。
以上、ざっとここまでが「バーチャル展示会」の概要だ。操作にはすぐに慣れて、迷うこともない。そして「エキシビション」ではイメージが膨らみ、「ブランドブース」ではこんなこともあんなこともできると、どんどん楽しくなる。これはよくできている、と感心した。
新しい体験を生み出すための工夫や苦労
このバーチャル展示会が実現したきっかけは、スペイン大使館経済商務部の大越恭子氏が建材・家具検索アプリ「Pic Archi(ピックアーキ)」を見つけたことだった。2020年4月にリリースされたそのアプリは梓設計の岩瀬功樹氏が開発。岩瀬氏はバーチャル展示会でもディレクターを務めた。
岩瀬氏は2015年に梓設計に入社。立命館大学・大学院時代に宗本晋作教授や山田悟史講師に師事し、コンピュテーショナルデザインを学んだ。ゲーム世代ということもあり、「eスポーツ」の施設を設計したいと思って研究していたところ、NTTe-Sportsが2020年8月、秋葉原に開設したeスポーツ施設「eXeField Akiba(エグゼフィールド アキバ)」の設計に携わる機会を得た。
バーチャルのみの空間設計という依頼を受けたのは、梓設計では初めてのこと。設計の際に3Dモデルを使って検証することは以前から行っているが、その先には実空間がある。今回は最終形がバーチャル空間であることに加え、そこに様々なサービス機能を付帯させる必要があった。
梓設計は岩瀬氏とインテリアデザイナーと約10人のエンジニアチームによる編成でこのプロジェクトに臨んだ。岩瀬氏は「バーチャルな案件では、フィジカルな空間以上にエンジニアの存在が重要。今回もエンジニアチームが主役だった」と話す。スペイン側の関係者が「スペインの地中海沿岸の雰囲気がよく表れている」と絶賛する展示会場は、エンジニアチームの力なくしては生まれなかったという。
バーチャルとはいえ、設計するうえで大事にしたことは、普段、フィジカルな空間を設計するときと変わらない。また、パソコンの高度な技術や特別な道具がなくても見られるもの、気軽に楽しんでもらえるものにしたいという思いは当初からあった。誰でもバーチャル展示会に来てほしいからだ。「バーチャルという言葉ひとつにも幅広い可能性がある。バーチャル展示会という取り組み自体を広く伝えたいと思った」(岩瀬氏)
今回苦労したのは、ひとつはブランドブースだ。「プロジェクトの初期段階から、バーチャルの特性を活かしたことをやりたい、サイズやカラーバリエーションを空間上に可視化しようと話していたが、そのように製品を詳細に紹介するサービスは、設計事務所では普段行っていない。空間デザインとUI(ユーザー・インターフェース)デザインの両方の頭を使った」と岩瀬氏。
また、メーカーはそれぞれ製品の3Dモデルを持っているが、3Dモデル自体にはこのようなバーチャルプラットフォームに対して標準規格のようなものがないので、ビジュアリゼーションの方向性は様々。3D空間に3Dモデルをただ配置して終わりというわけにはいかない。岩瀬氏は「世に出せるもの、空間として統一感や世界観のあるものに仕上げるには、UIやUX(ユーザー・エクスペリエンス)をからめて設計していく必要があり、それが大変だった」と振り返る。
コンセプトとした「メビウスの輪」には、スペインと日本の絆が末永く続くことを願う気持ちが込められている。新型コロナウイルスの感染拡大により両国とも困難な状況が続くが、この状況でなければバーチャル展示会は生まれなかった。これからも新しい世界を、力を合わせてつくり出していこう――。
バーチャル展示会「メビウスの輪」は、2021年9月30日まで開催している。スペインのインテリア製品の採用検討のためだけではなく、遊び感覚でも訪れてはいかが。(長井美暁)
◆展示会についての問い合わせ:スペイン大使館 経済商務部 tokio●comercio.mineco.es(●を半角の@に変えてください)