森美術館「STARS展」開幕、独断で選ぶ「この空間は見るべき!」ベスト3

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 六本木ヒルズ森タワー53階にある森美術館で、7月31日から「STARS展:現代美術のスターたち─日本から世界へ」が始まった。

(写真:宮沢洋、以下も)

 森美術館は、コロナ拡大防止のため、2月29日から臨時休館となり、約5カ月ぶりの再スタートだ。森美術館が営業していない六本木ヒルズはなんだかすごく寂しかったのだが、再開となり安堵した。そして、再開初弾の企画展が、「みんな元気出せよ」というメッセージのような企画だ。

 展覧会のキャッチコピーはこれ(↓)。

 草間彌生、李禹煥、宮島達男、村上 隆、奈良美智、杉本博司─スターは一日にして成らず!

 誰もが納得の「世界で活躍するアーチスト」6人。まるでNBAのドリームチームのような人選だ。アート好きの間では既に大きな話題になっている。

 2020年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより世界は一変し、経済的、社会的構造の脆弱性が浮き彫りになっています。そのような状況下、この6人のトップランナーたちの実践は、美術の本質的な役割とは何か、アーティストの成功とは何か、目指す「世界」とはどこなのか、といった根源的な問いを喚起するとともに、コロナ後の世界への示唆に富んだ力強いメッセージとなることでしょう。

 と、プレスリリースには難し気なことがいろいろ書かれているが、どの作家の作品も、何も考えずとも身体に訴えかけてくる。正直、私(宮沢)は理屈っぽい現代アートはあまり好きではないのだが、この展覧会は私と同じような人も無防備に楽しめることを保証する。「お前にアートの何が分かるのか」と言われそうなので、ここでは「建築好きが見るべき空間ベスト3」を独断チョイスで選んでみた。(ネタばれを含むので、美術館で純粋に味わいたい人は、写真だけ見てください)

第3位、宮島達男─水はあるのないの?

 まず、第3位は宮島達男の「時の海-東北」。生命の永遠性を表象する数字のLEDを、被災地の人に設定してもらうというプロジェクトだ。

 ホタルの点滅のようなゆっくりとしたLEDの変化を見ていると、そんな説明を読まずとも厳粛な気持ちになる。そして、この空間を特徴付けているのは「水の音」。結局、水が張ってあるのかないのか、暗くてよく分からなかったのだが、その水の音によって、一面の水を感じる。短いが動画(音付き)を撮ってみた。

 人間は視覚だけでなく、「聴覚」も使って空間を認識しているんだなあということを再認識する展示だった。

第2位、李禹煥─足裏から広がる青空

 第2位は、李禹煥(リウファン)の展示。展示スペースの床全面に、白い小石が敷かれている。

 歩くと、ジャリジャリという触感が足の裏に伝わる。そうすると、屋内なのに外にいるような気分になる。青空の下で屋外展示を見ているような感じだ。気分は直島。

 ああ人間は、「触覚」も使って空間を認識しているんだなあと思った。

第1位、奈良美智─いつか本気で建築をつくって!

 第1位は、奈良美智。ファンなのでひいき目もあるが、この部屋はすごい。直方体であるはずの展示室が、輪郭を失っている感じがする。視界に入る範囲だけがぼんやりと浮かんでいるように見える。

 それは中央に置かれた顔付きハウス、「Voyage of the Moon (Resting Moon) / Voyage of the Moon.」の影響が大きいと思われる。この切妻屋根は3次元曲面を描きながら、後部に向かって吸い込まれるようにすぼんでいく。

 だが、それだけではなく、入り口のアーチの位置や、月のような顔、部屋の色など、いろいろな要素が組み合わさって、切り取られたような非現実感が生まれていると思う(個人的な感覚かもしれませんが…)。

 ザハみたいなグネグネ建築をつくらなくても、四角い空間を意図的に非現実に感じさせることができるなら、そっちの方がむしろすごいのではないか。奈良さん、いつか本気で建築をつくってみてください。

 そして、勝手に注目した3人以外の展示はこんな感じ。

 草間彌生(↓)。

 村上隆(↓)。

 杉本博司(↓)。

 入館料は一般2000円。会期は2021年1月3日まで。半年間やっているので、東京以外の人も、いつか大手を振って来られるようになることを切に願う。(宮沢洋)