香川の件(こちら)に多くの労力を割かれている今日この頃だが、この展覧会はマストで伝えねばなるまい。東京・清澄白河の東京都現代美術館で、多田美波(1924〜2014年)の大規模個展「多田美波—光、凛と ゆれる」が8月29日に開幕した。戦後日本において、芸術分野だけでなく、建築分野でも大きな足跡を残した彫刻家・造形作家だ。会期は12月6日まで。


没後初となる回顧展だという。そうなのか。まずは、公式サイトの趣旨説明から(太字部)。
東京都現代美術館では、戦後日本において抽象彫刻家・造形作家として活躍した多田美波(1924–2014)の大規模個展を開催します。生涯でおよそ200点の彫刻作品と、500点に及ぶ建築関連作品を手がけた多田は、美術館という枠にとどまらず、公園、駅、市庁舎、ホテル、劇場など、都市のさまざまな場所に作品を残し、長年にわたり人々の生活空間の一部を形つくってきました。空に向かってすらりと伸びていくようなステンレスの彫刻や、自然の景観に心地よく馴染むガラスやアクリルの彫刻、あるいは色とりどりの光を内包する「光壁」など、その表現は素材・スケールともに多岐にわたります。


多田は、高度経済成長期を背景に普及した工業素材や加工技術を、芸術表現に積極的に取り入れた先駆的作家のひとりです。制作の手跡を感じさせない無機質な表面に、光の反射や透過、屈折、揺らぎといった有機的な要素を取り込み、移ろいゆく周囲の環境や鑑賞者の動きと呼応して表情を変える造形を生み出してきました。これらの試みは、量塊性や安定性を重視するアカデミックな具象彫刻の規範から離れ、空間や環境との関係性を志向した、戦後の抽象造形における展開に位置づけられます。なかでも多田は、光を単なる効果ではなく造形の中心として据え、美術、プロダクトデザイン、インテリア、建築を横断しながら空間そのものに働きかける実践によって、同時代の潮流のなかでも独自の立ち位置を築きました。


本展では、多田美波研究所の全面的な協力のもと、初期の絵画、各時代の彫刻、作家本人が「光造形」と呼んだシャンデリアを含む照明の作品、およそ70点に加え、建築造形のパーツ、写真、スケッチなどのアーカイブ資料を展観し、約70年にわたる多田美波の仕事をあらためて俯瞰します。



多田美波(Tada Minami)
1924年、台湾・高雄に生まれ、朝鮮で育つ。高校在学中に朝鮮美術展覧会へ出品し入賞。1944年、女子美術専門学校(現・女子美術大学)西洋画科を卒業し、1956年に第41回二科展、1957年第9回読売アンデパンダン展に油彩画を出品。1957年、東京・炭労会館のためにレリーフ《炭鉱》を制作。1962年、多田美波研究所を設立。代表的な彫刻作品に、半円球のアクリルにアルミニウムを蒸着メッキし鏡面のように仕上げた《周波数37306505》(1965、東京都現代美術館)やステンレスの屋外彫刻《キアロスクーロ》(1979、東京国立近代美術館)がある。建築空間における仕事としては皇居新宮殿の光造形(1968)や約7,600個ものガラスブロックから作られた帝国ホテル 東京に設置された光壁《黎明》(1970)、紫雲をイメージしたリーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクションの照明《瑞雲》(1973)などがあげられる。2014年に逝去。
本展は多田の美術作品もすごいのだが、建築関係者がぐっと引き込まれるのはやはり「建築空間」に関わる作品だろう。それらは主に、中盤のこの部屋↓に集められている。できれば、もっと広いスペースでたっぷり展示してほしかった。次はここだけを深掘りして1つの展覧会をやってほしい。












話がだいぶそれてしまったので、再び本展の展示に戻る。再び公式サイトから本展の「見どころ」の1つを引用する(太字部)。
現存しない作品および照明作品の再制作・再構成
本展では多田美波研究所の協力のもと、現存しない作品や建築と不可分な照明作品を一部再制作・再構成し、美術館の空間においてあらためて展示します。
洗面台などで用いられるボールチェーンを素材としたシャンデリア、「チェーンデリア」(1963)は、松屋サロン(銀座)に設置され、多田が皇居・新宮殿の光造形を委託される契機となった記念碑的作品です。現存しない本作を、本展のために原寸大で復元します。また、リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクションの光造形《瑞雲》(1973)の一部を、制作当時のクリスタルガラス・パーツ約3,000個を用いて再構成します。
これらの試みを通して、多田が追求した光の造形を間近に体感する機会を創出します。




の再構成 Reconstruction of Lighting Sculpture originally installed at Club Akai Doa (Club Red Door)
いま、多田に相当するような彫刻家の名前を筆者は知らない(いるのかもしれないが知識不足なので)。だから、なぜ多田が当時の第一線の建築家たちにあれほど重用されたのか、他の彫刻家との差は何だったのかがずっと謎だった。本展を見ても明確な答えは出なかったが、展示の終盤のこの文章を読んで、ヒントをつかんだような気がした。

照明も数多くデザインした多田だが、最も重視していたのは「自然の光」なのだ。それ自体が光っていなくても、自然の光で美しく、時とともに見え方が変化する。そんなところに建築家たちが組みたがった理由があったように思える。(宮沢洋)
■展覧会情報
会期:2026年8月29日(土)~12月6日(日)
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
*11月の毎金曜日は20:00まで開館
休館日:月曜日(9月21日、10月12日、11月23日は開館)、9月24日、10月13日、11月24日
会場:東京都現代美術館 企画展示室 B2F
観覧料:一般1,600円(1,280円)/大学生・専門学校生・65歳以上1,100円(880円)/中高生640円(510円)/小学生以下無料※( ) 内は20名様以上の団体料金
※本展チケットでMOTコレクション(9月19日~)もご覧いただけます。
主催:東京都現代美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)
企画協力:多田美波研究所
助成:文化庁・令和8年度我が国アートのグローバル展開推進事業
協賛:大塚国際美術館、鹿島建設株式会社、株式会社 竹中工務店、株式会社ロイヤルホテル、株式会社内木ガラス商会、戸田建設株式会社、株式会社マサル、隈研吾建築都市設計事務所
特別協力:韮崎大村美術館、株式会社オリーブベイホテル、橘園國際藝術策展公司/非畫廊
協力:新光硝子工業株式会社、有限会社オーイチ、中村工業
公式サイト:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/Tada-Minami/

