スタンプラリーだけじゃない! 続「装飾をひもとく」展(五十嵐太郎監修)は“動的建築展”のエポック

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 いろいろな建築展を見てきたが、会場に入る前に「やられた!」と思ったのは初めてかもしれない。日本橋高島屋本館の正面入り口に、スタンプラリー用として据えられたこの台↓。建築史を少しでもかじった人ならば「フル―ティング!」と思うだろう。

(写真:宮沢洋、以下も)

 フル―ティング(fluting)とは、古代西洋建築において、柱に縦方向に刻まれた溝のことだ。それを、既製品の波板で見事に表現している。なんとこの入り口のデザインにマッチしていることか。

館内のスタンプ台も空間になじんでいる
会場のある日本橋高島屋本館。現役の百貨店にして国指定重要文化財

 9月14日(土)から「日本橋高島屋史料館 TOKYO」(東京都中央区日本橋2-4-1日本橋高島屋本館4階)で始まる「さらに装飾をひもとくー日本橋の建築・再発見」。本展は、2020年9月〜2021年2月に開催し、大好評だった「装飾をひもとく」展(監修:五十嵐太郎)の続編だ。

五十嵐太郎氏(東北大学大学院教授、左)と、執筆などに協力した菅野裕子氏(横浜国立大学大学院特別研究教員)
analogueを中心とする会場構成チームの面々

 この展覧会は、冒頭のスタンプ台をはじめとして、「一般の人を楽しませる仕掛け」が満載だ。規模は小さいが、建築展の歴史の1つのエポックになるのではないかとさえ思った。実は、筆者(宮沢)がスタンプラリーのイラストを描いており、その話題から始めようと思ったのだが、会場構成チームの方が上を行っていた。前回展も面白かったのだが、会場はいかにも静的な資料展示という感じだった↓。

2020年9月〜2021年2月に開催された前回展の会場風景

 ちなみに前回の記事はこちら。

五十嵐太郎監修“装飾展”で髙島屋史料館TOKYOが再開、今こそ問う「形」の意味

 それが今回はこんなやわらかモードに。

 床が地図になっている。会場に居ながら「街を歩く」という意図だろう。見学対象の場所をよけながら塔状の展示台を置いているのが見事。最初から考えていないとこれはできない。

 そして、個々の展示台のデザインに思わず顔がにやけてしまう。展示内容に関連するモチーフなどが展示台に取り込まれている。

 特にこれ↓は、実物(旧江戸橋倉庫ビル)を知っている人は拍手を送りたくなる。

実物はこれ。筆者はすぐに分かった

スタンプラリーも画期的!

 会場構成チームにやられた感はあるものの、スタンプラリーも画期的だと思う。これは、前回展で無料配布されたハンドアウトを発展させたものだ。前回展のもの↓は、スタンプラリーこそなかったものの、「街へ誘う」仕掛けとして素晴らしいものだった。

前回のハンドアウトのイラストは学生が描いたそう。プロ級のクオリティ!

 これを見た筆者が当サイトで、「今度この続きをやるときには、私にイラストマップを描かせてください!」と書いたことが今回の依頼のきっかけだ。書いてみるものだ…。

 スランプラリーの用紙は、会場入り口の左手にドンと置かれている。あまりの量に、最初は什器かと思い、二度見してしまった。

ええっ、これ全部!?
タブロイド判を見開きにしたサイズで、かなり大きい。中心にスタンプの場所(日本橋高島屋S.C.の12カ所)を示す立体案内図、その周囲にスタンプ用のイラスト

 このスランプラリー、イラストの一部が白抜きになっていて、そこにスタンプを押すとイラストが完成する仕組みだ。このアイデアは宮沢が提案したものだが、デザイナーの岸木麻理子氏のこだわりによる「ぴったり感」にびっくりした。

自分でも押してみた
うーん、大丈夫かなあ
おお、初めてでもこんなにぴったり!
四隅にガイドマークが付いているので、こんなにぴったりに押せる。スタンプの色と印刷の色がほとんど同じであることにも驚く
用紙の裏面は街歩きのための地図付きガイド。裏面の建築イラストも宮沢が描いた

 会期が年明けの2月24日までと長いのでぜひ足を運んでいただきたい(スタンプラリーの用紙の量を見ると、あれが全部はけるのか心配になる…)。そして五十嵐氏と筆者の対談(トークイベント)も予定されているので(具体的な日時はまだ決まっていない)、たまに公式サイトをのぞいてみてほしい。(宮沢洋)

■展覧会概要
さらに装飾をひもとくー日本橋の建築・再発見
展示期間:2024年9月14日(土)~2025年2月24日(月・休)
開館時間:10:30~19:30
入館料:無料

場所:日本橋高島屋史料館 TOKYO 4F 展示室(東京都中央区日本橋2-4-1)
休館:月・火曜日(祝日の場合は開館)、年末年始(12月30日〜1月2日)
主催:高島屋 史料館TOKYO
監修:五十嵐太郎(東北大学大学院教授)
協力:菅野裕子(横浜国立大学大学院特別研究教員)
グラフィックデザイン:原田祐馬・岸木麻理子(UMA/design farm)

展示デザイン:大熊敏佳, 佐々木一憲, 村越怜(analogue)
スタンプラリーイラスト:宮沢洋(BUNGA NET)
公式サイト:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/

知らなかった建築も多く、五十嵐氏に聞くと、「ほとんどが自分で街を歩いて発見した」とのこと。このメルニコフ風のビル(日本理化学薬品本社)も。さすがです