④モデュロール、⑤坪井善勝、⑥名言──没後20年、丹下建築を味わうための6つのキーワード(後編

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今日、3月22日は丹下健三の20回目の命日だ。丹下が91歳で亡くなったのは2005年3月22日。今年3月1日に発刊した『丹下健三・磯崎新 建築図鑑』のために書いた「丹下建築を味わうための5つのキーワード」を没後20年の記念として公開する。紙幅の関係で泣く泣く落としたキーワード(名言)を加え、「6つのキーワード」として、前後編で紹介する。その後編。(宮沢洋)

④モデュロール

 モデュロール(Modulor)はル・コルビュジエが考案した寸法体系。フランス語のmodule(寸法)とSection d’or(黄金比)の造語だ。

(イラスト:宮沢洋、以下も)

 人間の身長(183cm)とへその高さが黄金比(フィボナッチ数列の隣り合う比)になることに着目し、これをフィボナッチ数列で分割。人が立って手を挙げた時の高さ(226cm)も同様に割り込んで、2系列の寸法を設計の尺度とした。

 丹下は、これを日本人に合わせた“丹下版” を作成。初期〜中期の建築に用いた。「香川県庁舎」(1958 年)では建築の細部から家具に至るまで徹底したことで知られる。

⑤坪井善勝

 彫刻的な造形で世界にアピールした丹下にとって、構造家・坪井善勝(1907 〜1990 都市)は切り離して考えられない存在だ。

 坪井は丹下より6歳上。最初の協働は「広島子供の家」(1953年、現存せず)だった。丹下研究室の担当は沖種郎で、丹下が沖に、アサガオ形のシェル構造を実現できる構造家を探すよう指示。沖が連れてきたのが東京大学生産技術研究所教授の坪井だった。

 これに続く「愛媛県民館」(1953年、現存せず)も2人のコンビによるもので、この建築で丹下は初の日本建築学会賞を受賞した。

 代表作の「国立屋内総合競技場」(1964年)も構造設計は坪井。弟子の川口衞が実現を支えた。

⑥名言「美しきもののみ機能的である」

 丹下健三は「文章を書く建築家」でもあった。弟子の磯崎新を筆頭として、戦後の建築家たちが自らの作品分析を積極的に書くようになったのには丹下の影響が大きい。

 丹下の著作の中でも、「丹下らしい名言」として知られるのが、「美しきもののみ機能的である」だ。例えば日本の「民芸」は、実用品としてつくられた物に美があるという考え方だ。モダニズムも基本的に機能=美とされる。だが、丹下はそうではないと言い切った。

 『新建築』1955年1月号に掲載された丹下の論考「近代建築をいかに理解するか」の中の一節だ。復刻版『人間と建築 デザインおぼえがき』(丹下健三著、彰国社、2011年刊)にも収録されている。冒頭の部分だけ引用する(太字部)。

 機能的なものは美しい、という素朴な、しかも魅惑的な言葉ほど、罪深いものはない。これは多くの気の弱い建築家たちを技術至上主義の狭い道に迷いこませ、彼らが再び希望にみちた建築に帰ってくることを不可能にしてしまうのに十分であった。彼らは「美しい」という言葉をひそひそとは語ったが、堂々とそれについて語ることを躊躇した。(後略)

 全体でも見開き2ページに収まる原稿で、内容もとても分かりやすい。中学生でも理解できる。丹下への理解を深めるためにぜひ一度、全文を読んでみてほしい。

 「6つのキーワード」の前編はこちら

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