展望台とレストランに“津波避難”を編み込んだ「テラッセ オレンジ トイ」──みんなの建築大賞2025ベスト10から②

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 「みんなの建築大賞」の「みんな」はどういう意味での「みんな」なのか? これは去年よく聞かれた質問だ。前回リポートした「2m26 Atelier」のように「みんなが見ることはできない」ものも10件の中には含まれる。その意味を明確に定義してしまうと広がりがなくなるので、それはしない。が、言い出しっぺの1人としては、「みんなに知ってほしい建築」を推薦委員会が10件選び、それを「みんなで推し合う」賞だと思っている。

伊豆市津波避難複合施設 テラッセ オレンジ トイ。海側から見た外観(写真:特記以外は宮沢洋)

 何の前振りかと言うと、こういう“新しい建築タイプ”があるということを皆さんに知ってほしいのである。伊豆市土肥の「伊豆市津波避難複合施設 テラッセ オレンジ トイ」だ。東京大学生産技術研究所今井研究室と日本工営都市空間が設計を担当し、昨夏オープンした。

公園側から見た外観.。海へのゲートを感じさせるデザイン(写真:磯達雄)

■伊豆市津波避難複合施設 テラッセ オレンジ トイ
所在地:静岡県伊豆市土肥2657-6 松原公園内/発注者:伊豆市/設計者:東京大学生産技術研究所今井研究室、日本工営都市空間/設計協力者:永田構造設計事務所(構造)、川村設備研究所(機械設備)、EOS plus(電気設備)、マルヤマデザイン(サイン)/施工者:土屋建設、青木興業/構造:鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造(基礎)、鉄筋コンクリート造(トイレ棟・階段棟)/階数:地上4階/延べ面積:1069.14 m2/施工期間:2022年10月~2024年6月/開館日:2024年7月12日/主な雑誌掲載:新建築2024年9月号、GA JAPAN190

 公式サイトではこう説明されている(太字部)。

有事には、海で遊ぶ観光客や、地域住民を津波の脅威から守る「避難施設」機能と、平常時には遊び、くつろぎ、また地元の味覚も味わう事ができる「観光施設」機能を兼ね備えた、全国初の津波避難複合施設『テラッセ オレンジ トイ』が、2024年7月12日にオープンをいたしました。

施設内にはどなたでも自由に出入りができ、特産品の即売所を始め、地元の海鮮グルメ&希少な土肥産本ワサビを味わう事ができる和食レストランや、気軽に立ち寄れるカフェを併設しています。

海鮮がめちゃめちゃおいしかった!! ちょっと贅沢にシラス丼+刺身

 「観光×防災」という項目ではこう説明する(太字部)。

テラッセ オレンジ トイは、防災と観光の機能を高度に融合させた、日本初の津波避難複合施設です。津波の到達しない高さ14m(浸水想定10m+余裕高4m)に避難スペースが備えられ、災害時には1200人の避難スペースとして、日常ではレストランや展望台として活用しています。

避難床へ至る2本の幅広階段を建物外周に配置し、地域に不慣れな観光客でも避難経路が一目で理解できるだけでなく、日常的な散策で松原と海の壮大な景観を体験できる経路として設計されています。日常的に観光施設としての役割を果たすことで、利用そのものを避難訓練とし、地域住民や観光客の日常的な防災意識を高める効果が期待できます

 この建築がすごいのは、言われないと「津波避難施設」とは思わないことである。そもそも海の近くでない方は津波避難施設というものをイメージできないかもしれないが、東日本大震災の後に土木的なタワーがたくさんできた。(例えばこちらの記事参照)

 もちろん命を守るために必要なものなのだが、平時には使いようがなくもったいない。普段から使わないと、いざというときに思い出すのかどうかも怪しい。

 このテラッセ オレンジ トイは、3階にレストラン、1階に物販店舗があるという機能上の新しさもあるが、デザインが繊細で「避難施設です」という主張がない。計画の出発点は避難施設なのだと思うが、展望台+店舗の観光施設に、避難機能を巧妙に編み込んだように筆者には見えた。

 観光客はおそらく観光施設だとしか思わない。一方で、地元の人たちはもともと避難のためにつくられたことを知っているので、ここに来るたびに頭の中で4階の展望テラスに駆け上がるシミュレーションをする。建物の維持にかかる費用が店舗の収益から生み出せるならば、「win-win-win」だ。

レストラン(写真:磯達雄)
海鮮も激うまだったけれど、今度来る時にはわさび丼にしよう…

 訪れたのは1月の週末。冬だからガラガラかなと思って行ったのだが、公園で「土肥桜まつり」が開かれていたこともあり、多くの人が訪れていた。(桜祭りは投票期間と同じ2月5日(水)まで)

 海の近くの人たち、特に自治体の職員や首長にはこういう避難施設の在り方もあるということを広く知ってほしい。

投票はこちら→XInstagramGoogleフォーム

 第2回となる今回の「みんなの建築大賞」は、投票の参考として、ノミネート建築の設計者によるライブ解説の場を設ける(オンライン配信)。開催日時は2月1日(土)19:00~20:30。設計の中心になった今井公太郎東京大学生産技術研究所教授も登場する。

 無料で登録も不要なので、2月1日(土)19:00になったら下記をクリックしてほしい。(宮沢洋)

YouTubeURL→https://www.youtube.com/live/XieqK9uJVRM

他のノミネート作はこちら↓