隈研吾氏の問題作を含む「THE TOKYO TOILET」新作5件を見た! 暫定No1はどれ?

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 五輪の交通規制が解かれ、かつ盆休みに入って都内の車が減るだろうという読みで、渋谷の「THE TOKYO TOILET」の新作5件をまとめて見てきた。

隈研吾氏の問題作?「鍋島松濤公園トイレ」(写真:宮沢洋)

 「THE TOKYO TOILET」プロジェクトとは何か。以下、プロジェクトを進める日本財団のウェブサイトから引用する。
 
 本プロジェクトでは、(日本財団が)渋谷区の協力を得て、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレを区内17カ所に設置します。世界で活躍する16人のクリエイターに参画いただき、優れたデザイン・クリエイティブの力で、インクルーシブな社会のあり方を広く提案・発信することを目的としています。

 これまでに見た7件は、下記の記事をご覧いただきたい。

伊東、隈、佐藤可士和氏らの公衆トイレが夏までに完成、槇氏らの完成済み7件を一気見!(2021年5月19日公開)

 今回見た5件を完成順に紹介する。

■神宮前公衆トイレ(NIGO®、渋谷区神宮前1-3-14、2021年5月31日供用開始)

 NIGO®氏はファッションデザイナー、ファッションディレクター、および音楽プロデューサー。書いてみたら「氏」に違和感があったので、以下は呼び捨てでNIGO®にする。「THE TOKYO TOILET」の人選には非建築系の人が混ざっていて、NIGO®はその中でも目玉の1人だ。

 NIGO®のファッションからどんな建築に結びつくのか。全く想像がつかなかった。現地を見てみると、意外にファンシーなものだった。

 「これは建築じゃない」と言う人もいると思う。テレビCMの中の家のようだ。でも、今回見た中ではこれが一番、中に入りたくなる。きれいに使わなきゃ、という気持ちにもなる(あくまで主観)。結論になってしまうが、今回の5件の中ではこれが最も当初目的を達していると思う。

隈トイレは雨ざらしのスギ板に疑問の声

■鍋島松濤公園トイレ(隈研吾、渋谷区松濤2-10-7、2021年6月24日供用開始)

 これは、一部の建築関係者の間ではすでにかなり話題になっている隈研吾氏の問題作だ。

 SNS上では、外周のスギ板が雨ざらしで遠からずボロボロになる、という指摘が多い。それについて言えば、隈氏はむしろそれが狙いなのだと思う。スギ板は丸太を挽(ひ)いただけの状態で、両側を落としていない。一部樹皮が残っている。この状態で経年変化する様を見せようという意図と考えられる。

 参考までに言うと、隈氏の代表作とされる「馬頭広重美術館」(2000年)も、今では外装の木ルーバーがボロボロだ。これを「いい味出している」と感じるか、「見るに堪えない」と感じるかは、人によると思う(筆者は前者)。このトイレも、いずれ広重美術館みたいな雰囲気になるのだろう。

 筆者は木の使い方よりも、空間として人を迎え入れる感じでないことの方が気になった。多分、「トイレ」だと知らなければ、筆者はここには近づかない。

■恵比寿駅西口公衆トイレ(佐藤可士和、恵比寿南1-5-8、2021年7月15日供用開始)

 飛ぶ鳥を落とす勢いのデザイナー、佐藤可士和氏。近年は建築に関わるプロジェクトも多い。発表された人選を見た段階では一番期待していたのだが、正直、それほどでもなかった。

 恵比寿駅の駅前なのだが、言われなければトイレに見えない。設備機械の目隠しのよう。そして、入り口がどの方向からも見えない裏側にある。都心の恵比寿とはいえ、そんなに隠さなくちゃダメ?

 アルミルーバーの内側にある回廊から、駅前の景色がうっすら透けて見える、というのが空間的なポイントと思われるが、幅が狭いので「裏」っぽい。もう少しゆとりをつくれなかったのかなあ。

伊東トイレは 公共建築の王道?

■代々木八幡公衆トイレ(伊東豊雄、渋谷区代々木5-1-2、2021年7月16日供用開始)

 これは分かりやすい。3本のキノコだ。トイレであることもすぐ分かるので入りやすい。

 壁はモザイクタイル張りでグラデーションがつけられている。足元が3次元曲面で地面とつながる感じが伊東豊雄氏らしい。軒も出ていて、汚れ対策もばっちりだろう。

 ただ、色が地味過ぎない? キノコだし、既存の樹木になじませたかったし、というのは分かるが、気付かず通り過ぎそうになった(建物は山手通り沿いあるが、相当注意して見ていないと見過ごす)。公共建築をたくさん手掛けてきた伊東氏が、長い目で汚れやらメンテナンスのしやすさやらを考えると、こういう選択になるのだなあ、と勉強になる。あえて公共建築の王道から攻めた感じか。

■七号通り公園トイレ(佐藤カズー、渋谷区幡ヶ谷2-53-5、2021年8月12日供用開始)

 佐藤カズー氏は1973年生まれのクリエイティブディレクター。非建築系だが、このトイレは一見、著名建築家が設計したようにも見える。

 実はこれは供用開始の前に見たので、外観写真だけとなる(供用開始は8月12日午後から)。外観だけの印象だが、これはなんだか入ってみたくなる。小さなオスカー・ニーマイヤー? 木陰の取り込み方もうまい。

 でも、東京で外壁が白で、しかも水切りのない球面だと汚れるだろうなあ…っていう心配はある。隈トイレの5年後よりも、筆者はこっちの5年後の方が気になる。

 未完成のプロジェクトは以下の5件。すべて2021年中に完成する。

■広尾東公園トイレ(後智仁、広尾4-2-27)
■笹塚緑道公衆トイレ(小林純子、笹塚一丁目地内)
■裏参道公衆トイレ(マーク・ニューソン、千駄ヶ谷4-28-1)
■西参道公衆トイレ(藤本壮介、代々木3-27-1)
■幡ヶ谷公衆トイレ(マイルス・ペニントン、東京大学DLXデザインラボ、幡ヶ谷3-37-8)

 現在の暫定ナンバーワン(筆者主観)は、断トツでこれである。

 恵比寿東公園トイレ(槇文彦、渋谷区恵比寿1-2-16、2020年8月完成)である。詳細はこちらの記事を。(宮沢洋)