岡山市の半田山にある雑木の庭園「福武トレス(FUKUTAKE TRES)」の一般公開が5月下旬から始まった。
昨年秋から関係者の間で公開されており、注目を集めていた施設だ。「みんなの建築大賞2024」の「この建築がすごいベスト10」にも選ばれていた(記事はこちら→「みんなの建築大賞」投票開始! ノミネート作『この建築がすごいベスト10』はこの10件)。筆者(宮沢)は、ベスト10のうち9件を実際に見ていたのだが、この福武トレスだけ機会がなく見ていなかった。一般公開が始まったと聞き、自分で予約を取って見に行った(この記事はその後、施設の了解を得て掲載している)。
以下(太字部)は公式サイトの説明より。
「福武トレス」は岡山市半田山の中腹にあって市街地を眺望できる雑木の自然風庭園です。1985年、福武書店(現:ベネッセコーポレーション)創業者、故福武哲彦が着想以来10年をかけて完成させた「福武書店迎賓館・庭園」の復元にあわせて、新エリアを加えて拡張。2023年、「時の庭」としてよみがえりました。
構成しているのは、三つのエリア——F サロンでは日本の伝統、F ギャラリーではアートを加えた近未来的な斬新性、F スタジオでは創造的な開放空間をそれぞれの個性としながら、半田山を借景とする雑木の庭がトレス全体をしなやかに繋ぎ、小宇宙のような自然空間を創り出しています。
総合プロデュースは故福武哲彦氏の娘の福武美津子氏。「トレス(TRES)」はスペイン語の「3」で、ギャラリーと庭のベースを成す「三角形」を意味しているという。また、フランス語では「こんなにも」、ラテン語では「~の向こうへ」の意味があるとのこと。
建築メディアで話題になっているのは、新築された「Fギャラリー」だ。設計は武井誠+鍋島千恵/TNA。
「みんなの建築大賞」の推薦委員会ではこんな推薦コメントがあった。
「福武書店の迎賓館と庭園のリニューアルに際して、三角形プランを組み合わせたギャラリーが新築された。壁が一切なく(代わりに棚やテーブルが構造材に)、358本(!)もの極細柱によって樹木の風景に溶け込む。」(五十嵐太郎)
「建物の内部に居ながらも雑木林の中にいる感覚を覚える、透明度の高い建築。不等辺三角形の平面が、より自然との一体感を高めている。林立する358本の鉄骨柱はφ=38mmと細く、驚きの純ラーメン。」(有岡三恵)
「新築棟は、風にそよぐ木々と同じ太さの柱や鋭角の床面で庭園と建物と道具の境を紛らわした、異色の和の継承。和風建物や庭園の再生と併せて、福武書店創業者が愛した場が、現代に呼吸している。」(倉方俊輔)
「軽やかにも程がある。雑木林とシンクロする、直径38mmの極細柱358本が作り出す建築は壁のない全面ガラス張り。内外の境界はもちろん曖昧で森林浴だってできる。自然と人工のハイブリッド?」(坂本愛)
「時間を捉えている建築。文化振興の原点となる敷地のランドスケープや別棟との関係性を50年、100年と見据え、そこにある時間の継続の中に建築を置いているように感じられる。」(中村光恵)
目利きの皆さんのコメントで言い尽くされてしまった。誰も書いていないことを90字以内で書くとすると(この推薦文は「90字以内」が条件だったので)、こんなコメントになるだろうか。
「作庭家・小形(おがた)研三による既存の“雑木の庭”と、荻野景観設計による新・雑木の庭、そしてTNAの雑木的建築による三角コラボ。手を入れ続けることで守られる“意思の景観”の美しさ。」(宮沢洋)
どういうこと?と気になった方は、ぜひご自分の目と体で感じてきてください。予約は公式サイトから。(宮沢洋)
■概要データ
庭の床 福武トレスFギャラリー
所在地:岡山市/発注者:福武美津子/設計者:TNA/設計協力者:佐藤淳構造設計事務所(構造)、荻野景観設計(造園)、環境トータルシステム(電気)、川村設備研究所(設備)、岡安泉照明設計事務所(照明)、イヤマデザイン(サイン)/施工者:藤木工務店/構造:鉄骨造/階数:地上1階/延べ面積:118.72m2/施工期間:2022年5月~2023年6月/主な雑誌掲載:新建築2023年9月号、GA JAPAN184、日経アーキテクチュア2023年12月28日号